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・Day6/Chapter1 忍びて

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「よい、お前たちは下がれ」
 部屋の前で男は使用人たちにそう言いつけると、彼らはうやうやしく礼の姿勢を取った。
 室内に一歩足を踏み入れる。なんの変哲もない、いつもの部屋だ。しかし――。
「……おい、待て」
 下がろうとしていた使用人を男は引き止めた。
「ここに誰かを入れたか?」
「は、はい?」
「俺は掃除に誰かを使わせた記憶はないんだが、誰か入ったか?」
「い、いえ……。すみません。承知しておりません」
「……そうか。いい。さがれ」
 心臓が飛び出そうだ。
 青年は部屋に備えてあった、空っぽの戸棚の中に身を滑り込ませた。隙間からは部屋の中の様子がのぞける。
 部屋に入った瞬間に、違和感に気が付いた藤滝に、彼は必死に声を押し殺して気配を消そうとしていた。
「まあ、疲れているのか」
 藤滝はひとりごとをつぶやいて、史机に向かった。その背中を青年は捕えた。
 あの男だ。
 自分をこんな奈落へと突き落とした張本人は。
 青年が彼を凝視していると、ふ、と彼がこちらを向いた。
 まずい! 
 青年は身を縮めた。
 気付かれたか。まさか! でも、ここをあけられたら、一巻の終わりだ。
 藤滝はゆっくりと青年の隠れている戸棚へと近づいて来る。
 まずい、まずい。
 青年の心臓の音がばくばくと高鳴。
 しかし、藤滝は急に背を向けて、史机へと向かい始めた。
 よかった。ほっと、胸をなでおろす。まだ見つかってはないみたいだ。
「失礼いたします」
 廊下から声が聞こえて来た。
「入れ」
 藤滝の冷たい声が響く。
「例の脱走者でありますが、先ほど、眼をさましました」
「そうか」
 抑揚のない声で藤滝が返した。
 青年は声に聞き覚えがあり、そっと隙間から部屋の様子を覗いた。
 あ、あの、今朝の使用人だ。その姿がここにある。
「それでは」
「待て」
 立ち去ろうとした使用人を藤滝が引き止める。
「ご主人さま?」
 いぶかしげに、小首を捻る使用人を藤滝は引き寄せた。
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