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・屋敷編
Tue-11
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建物の内部は、どこにでもありそうなモダンな西洋建築であったが、その内部で行われていたことは、屋敷と何もかわりなかった。いや、屋敷以上に、その劣悪な環境に、青年は思わず視線を逸らしてしまった。
「ここは、低級の風俗施設です」
伊佐美が、にこやかに、藤滝を見上げて言う。
「屋敷でものにならなかった者はここに収容されて、ここで、売り上げに貢献してもらう。そんな低級でもちゃんと稼げるように、この場所では、きちんとシステムが整っております」
そのシステムが、「豚箱」の異常な光景を作っていた。青年はぞっと、身をふるわせた。
なにゆえ、この場所のことを、「豚箱」と呼んでいるのか、その答えも、なんとなく察することができた。
ここでは、人間は家畜かそれ以下だ。
商売をする部屋の壁面にずらりとならんだ、男たちは、みな手足を拘束された状態で、綺麗に整列していた。それも、尻を突く出すような格好に固定されて――。
「売り上げも最近は好調だな」
藤滝の声に、伊佐美がこくりとうなづいた。
「ええ。徐々に数字もあがってきています。花も低級なら客も低級。客ひとりあたりから、むしりとれる金も微々たるものではありますが、それでも、こちらは数の優位というものが、ありますので」
そこまで言い切ると、伊佐美は、フロアの奥の扉まで、藤滝を案内した。伊佐美に鎖を握られている青年も、ふたりと同じように行動する。
扉の鍵を、伊佐美は懐から出して開錠した。きしむ音をたてて木製の扉が開く。その奥には階段がみえた。
「こちらへ。そろそろ、店開きの時間にないります。特等席は、こちらでございます」
伊佐美が、にこやかに、階段へと藤滝を導いていく。
「どこに通じているんだ?」
青年の声を彼らは無視して続ける。ぐっと強く首をひっぱられて、青年は息を飲んだ。いまは無言で従え、というのだろうか。
どこか湿っぽい空気に充満された室内をくぐり抜けるように、階段をのぼっていく。そこは、細長い部屋で、壁面には大きな窓がはめこまれていた。
「こちらへ」
そこに用意されていたテーブルと椅子に、伊佐美は、主人を招いた。
「……おい、こりゃ、本当に」
悪趣味だ。
青年はため息をついた。
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