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*
その日になった。
「お待たせ」
玄関のチャイムが鳴って、俺は扉をあけた。彼がそこに立っていて、俺は、ため息をついた。
「え、なんで!? なんでがっかりしてるわけ!?」
「いや、本当に来たんだなあと思って」
「いいじゃん! だめなの!?」
「まあ、行くなら行こうぜ」
俺は、サンダルをあしにひっかけるようにして、履いて、外へと出た。
太陽が沈みかけている。薄暗闇といったところか。
町内に出始めている提灯の明かりがきれいだ。
「よしじゃあ、出発だ!」
がっと手をあげてポーズを決めている彼を見て俺は思わずつぶやいた。
「なんか、お前って子どもくさい……」
「んだとお!」
振り返った彼は笑っていた。
*
「わー、みて、綿あめ出てる! 食おうぜ!」
屋台を刺して彼が言った。
「太るぞ」
「ええじゃんか~」
「まあ、どうぞ」
「おっしゃ、お前のぶんも買ってきてやるからな」
「いらね~!」
はしゃぎながら、飛んでいく彼の後ろ姿をみながら、俺は、なんとなく高校のときに戻ってきたような変な感覚がした。
若かりし日も、あいつはあんな感じだった。ずっと明るくにぎやかで見ていて飽きなかった。
ぱたぱたと足音を立てながら、両手にふわふわを持った彼が戻って来た。
「なんで、俺のぶんまで買ったんだよ」
「なんとなく? あ、かき氷も食いてえ!」
「……好きにしろ」
「ちょっと、持ってて」
「え? おい!」
ふたりぶんの綿あめを俺におしつけてきた彼は、そのまま走り去っていく。
「おい! 俺はお前の荷物持ちじゃないんだぞ!」
遠ざかって行く彼の背中にそう叫んだ。聞こえているのか、聞こえてないのか。彼からの反応はない。
俺は右手に持った綿あめを一口かじってみた。じわっと舌の上にあまったるい感覚が溶けていく。
「だめだ。甘い」
こんなもの、よく食うよなあ、とため息。
「ごめん、おまたせー」
「って、また二つ!?」
両手にかき氷を抱えてきた彼が戻って来た。
「じゃーん、いちごとブルーハワイです」
「うん、それはみて判る」
「どっちがいい?」
「まって、なんで俺のぶんまで買ってくるわけ?」
その日になった。
「お待たせ」
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「え、なんで!? なんでがっかりしてるわけ!?」
「いや、本当に来たんだなあと思って」
「いいじゃん! だめなの!?」
「まあ、行くなら行こうぜ」
俺は、サンダルをあしにひっかけるようにして、履いて、外へと出た。
太陽が沈みかけている。薄暗闇といったところか。
町内に出始めている提灯の明かりがきれいだ。
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振り返った彼は笑っていた。
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「わー、みて、綿あめ出てる! 食おうぜ!」
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「太るぞ」
「ええじゃんか~」
「まあ、どうぞ」
「おっしゃ、お前のぶんも買ってきてやるからな」
「いらね~!」
はしゃぎながら、飛んでいく彼の後ろ姿をみながら、俺は、なんとなく高校のときに戻ってきたような変な感覚がした。
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ぱたぱたと足音を立てながら、両手にふわふわを持った彼が戻って来た。
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「なんとなく? あ、かき氷も食いてえ!」
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「ちょっと、持ってて」
「え? おい!」
ふたりぶんの綿あめを俺におしつけてきた彼は、そのまま走り去っていく。
「おい! 俺はお前の荷物持ちじゃないんだぞ!」
遠ざかって行く彼の背中にそう叫んだ。聞こえているのか、聞こえてないのか。彼からの反応はない。
俺は右手に持った綿あめを一口かじってみた。じわっと舌の上にあまったるい感覚が溶けていく。
「だめだ。甘い」
こんなもの、よく食うよなあ、とため息。
「ごめん、おまたせー」
「って、また二つ!?」
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