悪役メイドだなんて言われましても困ります

文字の大きさ
28 / 57

28

しおりを挟む


 そこへ飛び込んでくる声があった。
 まだ距離があるのか、少しばかり聞き取りにくいが、確かに聞こえる。

「(殿下ぁぁ!!)」
「(何処どこですか!? 殿下!!??)」

 チェポンとデービーの声だ。
 呼びかける声と一緒に、ドタバタと荒い足音も近付いてきているので、間もなく姿も見えるだろう。

 やっと見えてきた人影2つが、此方こちらに気付いたようで駆け寄ってくる。

「殿下!!」
「なんでこんな状況??」

 デービーはエネオットの横に到着するや、屈んでエネオットの衣服に着いた土埃を払っている。
 チェポンも続いたが、目の前の光景に理解が追い付かないのか、暢気に首を傾げていた。

「お、お前達…殿下に何をした!!??」

 デービーが大きな声を張り上げるが、フィーの姿に気付くと途端に顔色が悪くなり、口をつぐんでしまう。
 だがそんなデービーを、エネオットが制した。
 メイドに投げ飛ばされたとか、その上そんな行動や言動を、両親である王や王妃から許可しているとか、流石に恥ずかしくて言い出せないのだろう。
 プライドだけは一人前だ。

 チェポンの手を借り立ち上がったエネオットは、忌々しそうに舌打ちをすると背を向けて去って行く。
 デービーはそれを追いかけていった。
 未だ立ち上がれないでいるドニカにも、チェポンが手を貸して立たせて一緒に去って行く。

 後に残された4名は、無言でそれを見送った後、盛大にシンクロ溜息を落とした。
 いや、正確にはアンネッタ以外の3名…である。

「もう、手を上げられたらせめて回避してよぉ…」

 ミリリカが半泣きでアンネッタに訴える。

「本当でございます。
 それに…情けない事でございますが、わたしでは何の御役にも立てない事がわかりました。
 フィーさんだけが頼りです」

 ニミーが嘆きつつも、フィーに祈りを捧げるかのように、胸元で両手を握り合わせて首を垂れた。
 勘弁して欲しいとフィーは額を押さえるが、真剣な表情のニミーに言葉が出ない。

「やっぱりフィーが最強ね!
 ふぅ…神様って意地悪だと思うわ。どうしてフィーが殿方じゃないのかしら…」

 そんな事を嘆かれても困る。
 フィーとしては、生まれ持った性質の一つでしかなく、自身の性別に問題を感じた事はない。
 とりあえず目の前の3名は置いておくとして、邸に帰ってからの報告が大変そうだと、フィーは虚ろな目で天を仰いだ。




 それから暫くは平穏な日々が続いた。
 少なくとも登下校時と昼食時は平穏だった。
 しかし校舎への立ち入りは、昼休憩の迎え以外は変わらず許可されないままで、登下校と昼食時以外は正直言うと気が気でない。

 書庫での作業中も、手が止まりがちになっている。

「大丈夫?
 なんだか心ここに在らず……って感じね」

 隣の席で手写し作業に勤しんでいたスミナが、心配するように声を掛けてきた。
 フィーはそれに小さく肩を落として答える。

「はい……。
 校舎への立ち入りが出来ず……お嬢様の身の安全の確保が困難なのです…」

 フィーの言葉にスミナは納得がいったのか、大きく頷いた。

「お嬢様って……あぁ! フィーはオファーロ公爵家に仕えてるんだったわよね。
 つまりオファーロ公爵令嬢の身が心配って事?
 ……そう言えば、なんか4組の男爵令嬢がS組に凸ってるとか聞いたわ。
 それ?」

 流石はスミナ……耳聡くて苦笑を浮かべるしかない。
 そうなのだ。
 フィーが近付けないのを良い事に、隙を見つけてはドニカがアンネッタに突撃しているらしい。

 大抵はネルローネやミリリカ、他のクラスメイトが阻止してくれるらしいのだが、それも万全ではない。
 何度かその防衛網をくぐって、アンネッタと対峙してしまった事があると聞いていた。

 そんな話をしていると、書庫の主モスリン・コーブ女史が新しく購入したらしい本を抱えてやってくる。
 そしてフィーを見て微笑んだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...