悪役メイドだなんて言われましても困ります

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 と言う事で、その場は辞して一旦書庫に戻る事にする。
 カザロにも挨拶をするべきかとも考えたが、一介のメイドでしかないフィーが、ほいほいと学院長室を尋ねるのも妙な話だろう。
 セルがテストについては話を聞いてくれる事になったし、フィーの方からどうしても必要な何かが出来れば、その時に書庫でモスリンに託せば良いだけだ。



 書庫へ向かう途中、ふと庭の方へ目を向ける。
 何かが聞こえたとか、そう言う訳ではなかったと思うのだが自信はない。

 春の花々が美しく咲き乱れる庭園は、やはり貴族の領域なのだなとつくづく実感した。
 専任の庭師達が存分に腕をふるっているのだろうが、そう言えば庭師達の姿を見た事がないな…と、どうでも良い事を考えながら歩いていると、花々の合間に不似合いな茶色がチラつく。

 足を止めたフィーは、じっと目を凝らす。
 チラ見えする茶色は二つ。
 一方はうねうねときつい癖のある、所謂いわゆるソバージュヘアと言う奴で、恐らくドニカだろう。
 授業中の筈なのに、大した度胸である。

 となるともう一方の茶色は男子生徒だろうかと見つめていると、ドニカより少し背の高い相手はナホミだとわかった。

 ドニカがナホミを呼びつけているのだろうが、何も授業中に……とまで思った所で違和感に包まれる。
 顔色を窺っているのは、どうにもドニカの方に見えて仕方ない。
 ナホミの方は妙に尊大で、はすに構えてドニカを威圧しているように見えるのだ。

(どう言う事…?)

 こっそり覗き込んで耳にした洗濯場での会話……。
 自演臭のする、飛び出し倒れ込み事件……。

(なんて言えば良いのかしら…こそこそしてるのはナホミの方に感じてしまう…)

 魔法で音を集めれば話している内容も把握できるのだろうが、変に遠聴魔法を使って警備に引っ掛かるのは不味いだろうと諦めたのは少し前の事。
 一応あの後、学院に張り巡らされている警備の為の障壁魔法については調べてみた。
 流石にまだ全てを解析出来た訳ではないが、少なくとも遠見や遠聴の魔法に反応しないという事は突き止めてある。

 フィーはそっと周囲を窺い書庫へ向かうルートから外れ、物陰に移動する。
 再度周囲を窺い、遠見と遠聴の魔法を発動した。
 勿論出力は抑えてある。
 例え障壁魔法に引っ掛からなくても、職員や警備兵に察知される可能性がない訳ではない。
 だからとりあえず、現在は最低限にしておくのが良さそうだという判断だ。


<……な言い訳が通ると思っているの?>

 ナホミが責めるような口調で問いただしている。

<ごめんなさい…でも…>
<だからぁ、言い訳してんじゃないって言ってるの>

 驚いた…。
 ナホミのソレは、自身が仕える令嬢に対して許される態度や言動ではない。
 しかも遠見で視えたナホミの表情は、以前感じた『平凡だが可愛らしい』という印象を根底から覆してくれる程の威力があった。

 目付きが……ドニカを見る目付きが、まるでゴミでも見る様な…なのだ。
 対するドニカの方はと言うと、その表情は必死の縋る幼子そのものである。

<兎に角ちゃんとして頂戴。
 ドニカがしっかりしてくれないと困るのよ>
<う、うん……>
<はぁ…次は言い訳なんて聞かないからね。
 じゃあさっさと戻りなさいよ>
<……ぁ、は、はい…>

 フィーの頭の中は混乱で一杯だ。
 だが…ドニカとナホミについて、認識を改めなければならないようだ。

(ドニカ嬢は典型的な転生ヒドインだと思ってたのだけど、あんな縋る様な…頼りない表情をするなんて……単なる我儘山猿令嬢ではないという事かしら…。
 ナホミさんの方は洗濯場で見た感じは、自覚なく口が軽くて健気な自分に酔っているのかと思ったけど、自演劇があったものね…。
 そのせいで自覚アリアリの計算高そうな印象に変わりつつあったけど、まさか令嬢を威圧しているというか…そこまでだとは思わなかったわ。
 どうせ敵なのだしと、さらっと表面的な事だけ調べて、終わらせるべきではなかったかもしれない)

 フィーは離れていく二人を視ながら考え込む。
 言い訳の意味等わからない事ばかりだが、早々に彼女達を調べようと決めた。




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