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しおりを挟むふらふらと何時もの道筋を辿る途中で、フィーはやっと我に返った。
徐々に歩調が緩やかになり、そのまま立ち止まる。
『…ぁ』と小さく漏らし、眉根を寄せたまま自分を見下ろした。
ルルからの借り物…ではなく、セルからの贈り物一式を装着したままだったと、フィーは大きく嘆息する。
何と言うか…今から戻るのも気恥ずかしかったので、辺りを見回し、人気のない一室に飛び込んだ。
ドレスと言っても、数人掛かりで着つけるような物ではなく、豪華なワンピースと言った感じなので一人でどうにかなりそうだし、着替えたメイド服他も収納に入れてあったので、問題なく着替えられそうである。
それでも普段から着慣れた服ではないし、宝飾品等もあるので、どうしても時間を食ってしまう。
着替え終わり、改めて推しからの贈り物だと言う事実に『信者が受け取るなんて烏滸がましい』等々の遠慮は霧散し、顔がにやけそうになるのを必死に押し留めながら、収納へと大事に大事に入れ込む。
一息ついた頃にはかなり時間が経っていて、フィーは慌てて控室の方へ戻って行った。
オファーロ公爵邸の談話室では、公爵一家が夕食後のお茶と雑談を楽しんでいる。
フィーもアンネッタ付きとして、お茶や菓子の用意に勤しんでいた。
「それでどうなの?」
突然メナジア夫人に話しかけられ、フィーは手を止めて顔を上げる。
しかし、唐突過ぎて何について聞かれているのかわからない。
困ったように……とは言え無表情なので一見、困っているとわからないかもしれないが、黙り込んでいると、同じく夫人についていけなかったのか、アンネッタが首を傾けて問いかけた。
「お母様、何を尋ねていらっしゃるの?」
「え? だから校内立ち入りの件よ。
アンネッタが大丈夫だと言うから、表立って抗議は入れてないけど、まだ続いているのでしょう?
誰だったかしら…まぁいいわ。下位貴族の娘が付き纏ってるとか何とか言ってたじゃない?」
合点がいったのか、アンネッタは苦笑を浮かべた。
フィーもその件の事だとわかれば、話す事は出来る。
「まったく…公爵家の希望なんだから、さっさと忖度すれば良いでしょうに」
メナジア夫人は忌々しそうに、学院側の対応について愚痴を零した。
「はい。
テストが今週末と聞かされました。
ですので、来週からは校舎内への出入りが可能になるかと思います。
それで昼食時についてなのですが…」
そう、助手として校舎内に立ち入る事が可能になるのはありがたいのだが、アンネッタの昼食時の世話と護衛が難しくなる事があるかもしれない。
セル達に話せば融通を利かせてくれるだろうが、授業が延びる等で間に合わない可能性も無きにしも非ず……先んじてアンネッタの方に調整を入れておくのが良いだろう。
「何の話?」
父親であるバリファン・オファーロとチェスを楽しんでいたケルナーが、駒を手にしたまま振り返る。
「あら、ケルナーには話してなかったの?」
メナジア夫人の問いに、アンネッタが思い出そうと中空に視線を泳がせたが、う~んと唸ったままだ。
「まぁいいわ。
ほら、1年S組に、乗り込んでくる女子生徒がいるとかで、アンネッタが困っているのよ」
流石にその話は聞いた事があったのか、ケルナーは頷く。
「あぁ、それは聞いた事があったかも…でも、警備兵に見つかれば追い払ってくれるだろう?
なのに、どうしてフィーがその話に絡むんだ?」
暢気に言い放つケルナーに、アンネッタは苦笑し、メナジア夫人は盛大に溜息を吐いた。
「ケルナー…貴方の責任でもあるのよ?」
「は?」
「貴方が側近となった王子殿下の御相手の一人だから、学院側も手を焼いているの。
ちゃんと殿下をどうにかしてくれていれば、こんな事には…」
ケルナーは思わぬ飛び火に慌てる。
「い、いや、母上…待ってくださいよ。
私は側近とは言われていますが、そんなものは言葉だけだと母上だって知ってるじゃないですか…」
「それは……まぁ、そうね…貴方は早々に殿下から煙たがられて、遠ざけられていたのだったわね…。
まったく…アンネッタの身の安全の為にもと、貴方が側近になる事を許可したと言うのに…役立たずもいい所よ…はぁぁ」
これは酷い。
フィーも聞きながら、流石にケルナーが哀れになった。
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いったん終了します
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気が向いたら書きますね
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