【完結済】25年目の厄災

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前編

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くすむ:燻をあてています

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 明日、25歳の誕生日なのだと言う。
 生まれてこの方、罪人と呼ばれ続ける彼女には、自分が何歳かなんて、時間の感覚等ありはしないからわからない。

 25歳の朝、斬首される事で、罪を償えると言われた。

 罪と言われても、何かをした記憶はない。
 何故なら物心つく頃には、既にこの石牢でくびきに繋がれ、たった一人…聖なる力を捧げ続ける事を強要されていたからだ。
 罪人に聖なる力……あまりに不釣り合い過ぎて笑える。

 時折お喋りな……あれは衛兵だろうか?
 そう言う人が勝手にやって来ては勝手に喋って教えてくれた。

 どうやら罪人は、この国の王女として生まれたらしい。
 しかし正妃であった母が、父王を裏切った結果、不義の子として生まれたのだと言う。
 それとわかったのも、生まれた子が王色を何一つ持たなかったから。

 この国は、始祖王と呼ばれる人物によって興された国なのだそうだ。
 周囲には悪魔の力が満ち、到底人が暮らせないような土地を浄化したのだと伝えられている。

 最初は始祖王がたった一人で住み着いた。
 徐々に浄化の範囲が広がり、外の人間も入り込めるようになった結果、始祖王の下に人々が集う様になったのだそうだ。
 そして国となった。

 だから始祖王と呼ばれた人物としては、自分が国を興したと言う感覚はなかったかもしれない。
 しかし、始祖王がこの世を去る時、自分の力を甥に授けたのだと言う。
 始祖王自身は生涯独身であったらしいから、そうなったのだろう。

 そんな始祖王は見事な銀髪に、深紅の瞳を持っていたと言う。
 罪人は汚れ切っていて、元の色等わからないが、虚ろな瞳はまるで影の様な黒い色をしていた。
 父王は銀髪で青い瞳。
 母であった正妃は金色の髪に黒い瞳だったそうだ。
 側妃から生まれた姉もいるのだそうだが、彼女は銀髪と言うより灰色と言った方が正解らしい髪色に、側妃そっくりの青い瞳なのだそうだ。

 異母姉も王色はないと言われればそうだが、灰色の髪は見ようによっては銀髪と言う事で、正当な血筋と認められていると言う。


(……もう疲れた……)

 罪人は心の中でそっと呟き目を伏せた。
 この地を悪魔の力から守り、人の住む地とする為に、ずっと聖なる力を吸い上げられているが、明日の朝にはそれが終わると言うなら、どうか早くして欲しいと願ってしまう。
 聖なる力を強制的に吸い上げられるのは、身体的、精神的苦痛を伴う。
 いっそ狂ってしまえていたら、少なくとも精神的苦痛には蓋をする事が出来たかもしれないが、罪人は狂う事も許されなかった。

(でも、明日には終わる……やっと、終わるんだわ)

 ツキンと鋭い痛みが頭に走る。
 聖なる力の吸い上げがもたらす痛みは、もっと重く押さえつける様な痛苦で、こんな鋭さは珍しいと、ぼんやりと思っていると、痛みはますますその鋭さを増して行った。

「………っく…」

 まだ声帯なんてあったんだ…と、おかしな事を考える。
 そんな事を考えるくらいには、声を出すなんて殆どなかった。

 とは言え、どれほど痛かろうと苦しかろうと、手当は勿論、薬等恵んでくれるはずもない。
 必死に耐えるしかないのだ。

「…………ぅ………ッ…」

 ………ぃ…

「…………………っぁ………」

 ………………ぉぃ、って】

「……ぇ…?」
【おい、おーーい!】

 罪人は一瞬痛みも忘れて呆然とする。
 何か聞こえる……いや、違う……頭の中に直接響いている。

【頼む……頼むから届いてくれ…】
「……だ、れ…」

 頭に響く音に対し、声で答えるのは間違っている気もするが、そんな些細な事を気に掛ける余裕はない。

【お…?
 おおぉ!!??
 やっとか!? 本当に届いたんだな!!??】

 頭に響く声は罪人の事を知っているようだが、罪人の方には心当たりがさっぱりない。
 だが、声の主の正体を問う前に、声は言葉を続ける。

【おい、俺が力を貸す。
 だから身体を貸せ】

 色々と端折はしょりすぎて、言葉としてどうなのだろう…。
 罪人は目を丸くして固まった。

【いいか……これから起こる事は、俺のせいだ。
 お前は何も悪くない。
 いいな?
 お前は俺に身体を乗っ取られて、仕方なかったんだ。
 絶対に自分を責めるなよ】

 途端に罪人の意識は端へ追いやられると、何かがずるりと入り込んできて、これまで経験した事がない程の痛みに貫かれる。
 声も出せない程の痛みが徐々に引いていくと、罪人が丁度くびきを壊している所だった。
 壊すと言っても引き千切るでも、手で粉砕している訳でもない。
 軽く指先が触れるだけで、さらさらと砂粒になって消え失せるのだ。

 罪人の意識は、自分の身体とその行いを、まるで映画鑑賞でもするかのように見ている事しか出来ない。

 ゆっくりと立ち上がろうとする。
 しかし衰え切った足は、足の形をしていても、その機能は衰弱しきっていて、立ち上がる事も這う事も出来なかった。

 罪人の身体に押し入ったもう一つの意識が何かを念じている。
 すると罪人の身体が淡い光に包まれた。

 ゆっくりと立ち上がって、もう一つの意識が体の動きを確認している。

【よし、いけそうだ】

 一歩、また一歩と踏み出す。
 罪人の意識は、自分の管理下から外れた身体の行方を見守るしかない。
 だが石牢に閉じ込められているのに、どうするのだろうと首を傾げていると、身体は石牢に近付いて軽く手を翳した。

 すると、あろうことか牢の石壁が靄のように霞んで消えたではないか…。

 もう呆然とするしかない。
 そんな罪人の感情に気付いたのか、押し入ってきた何か……ややこしいから青年と呼ぶとしよう。
 脳内に響く声の感じはそれなりに若い。
 しっとりとした色香を感じさせながらも、凛と透き通るような声音は、耳に心地良い。

 青年がフッと笑った気配が伝わる。

【外、初めて……だったか…】

 肯定を返す前に先を続ける。

【もっと、もっと美しい風景も見せてやるからな…。
 今は我慢してくれ】

 我慢も何も、窓も何もない階段を上がっているだけだが、それだけでもドキドキと動悸が止まらない。
 空気が違う。
 同じように湿って感じるのは地下だからだろう。
 だが、澱んでいない。
 たったそれだけなのに、何て気持ちが弾むのかと、罪人は身体の隅っこで目を輝かせた。


 罪人の身体が進む事で、施設を破壊したからか、衛兵らしき影が集まって来た。


 ―――捕らえろ!
 ―――これ以上進ませるな!!
 ―――うわあああ!!
 ―――うぐっ!!
 ―――や、やめろ…近づくなああああ!!!
 ―――助け……助けて…


 衛兵が得物を振り被って襲い掛かって来るが、全ての刃はことごとく弾かれる。
 いや、弾かれるだけならまだマシだ。
 幾人もの衛兵が、進む罪人を止めようと掴みかかってきたが、全員が血飛沫を残して肉片と化した。
 おぞましい光景のはずなのに、スクリーンの向こう…ただの映像を見せられているように感じるだけ…。

【怖いか…?
 いや、済まない……怖いよな。
 だがさっきも言ったが、お前は悪くない。
 お前は俺に従わされただけ……だから、目を閉じて居ろ】
【いいえ。
 どうしてかな…怖いと思わないの
 ふふ……私、やっぱり壊れてるのね】

 身体の主導権がないから声には出せなかったが、青年にはしっかり伝わったようだ。

【壊れてなんか……。
 いや、それもこれも、俺が遅きに失したからだ…】

 外へ出た。
 風が心地よい。
 色が溢れていて、罪人は今にも意識を飛ばしてしまいそうだ。

【世界はもっと色に溢れて鮮やかなんだ。
 ここは赤に染まるから、今は目を閉じて耳を塞いでおいてくれ】
【赤?
 赤ってどんな色なの?
 私は目を閉じたくないし、耳も塞ぎたくないわ】
【……そう、か…】

 逃げ惑う人々。
 誰も彼もが罪人の姿を目にした途端、ある者は尻餅をついて震え上がり、ある者は四つん這いで逃げようとする。

【お前から搾取した聖なる力でのうのうと肥え太っていた連中だ】

 青年の声は凍り付きそうな程冷淡だ。
 だが、その感情が向けられる先は罪人ではないと分かる。
 だから平気だ。

 更に奥へと身体は進む。
 一際豪華な場所に辿り着いた。
 キラキラとした布が、大きな窓から入ってくる光を和らげてくれている。
 その更に奥…。

 キラキラと輝きを放つ大きな椅子から立ち上がった男性と、その横で男性に左右から縋る…女性が二人。
 全員が重そうなキラキラした石を身に飾りつけ、纏う衣服も本当に重そうだ。

「お、お前…は……」

 男性の頭からこれまた無駄に煌々きらきらしい冠が、カランと音を立てて大理石の床に転げ落ちる。

「ひいいぃぃぃ!!」

 男性の隣、刻まれた皺を化粧で誤魔化しきれていない中年女性が、無様に這いずって逃げようとする。
 それを罪人の身体は、ドレスの裾を踏んで阻止した。







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