教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第6章 怨恨渦巻く陰謀編

95 呪いの犯人

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 今夜、王宮に行く? 明日の9時集合じゃなくて?

 僕はルシアの発言の真意を考えていた。

「……もしかして、犯人をおびき出すためとか?」

『その通りだ。
 王宮に血縁関係のある者が3人いるのであれば、その中に呪術師がいる。
 ベルスは今日中に調整すると言っておったであろう。3人に明日9時に集まるように促すならば、今夜は必ず呪術師が王女のところに現れる。
 明日9時まで待って3人を鑑定するより、手っ取り早く犯人が分かるということだ』

 なるほどね。宰相様とのやりとりの中には犯人をおびき出す狙いもあったのか。

『もちろん、ベルスのやつも分かっておったぞ。我々が今夜やってくるのを楽しみに待っておるだろう』

 流石は宰相様。ルシアと狙いは同じなのか。

 それから僕たちはスールフリールの町に転移して、昼も夜も美味しい食事を満喫した。海老フライが最高に美味しかったよ!



『さて、良い頃合いだな。王宮に転移するぞ』

 夕食を食べたあと、僕たちはルシアの別荘で待機していた。
 転移するときは転移する場所を俯瞰で見る訳だけど、ルシアの脳裏には王宮の状況が見えてるようだ。

『行くぞ』

 ルシアが転移すると、そこは朝訪れた宰相様の私室。部屋には誰もいないようだ。

『レンよ』
「うん。南側に大きな魔力が3つ集まってるね。女王様と王女様と呪術師かな」
『急ぐぞ』

 僕は探知魔法で3つの大きな丸を捉えていた。まだ争ったりしている動きではない。

 急いで3つの魔力が集まっているところに向かうと、1つ目の大きな丸が表示されている廊下の角で女王様と宰相様を見つけた。

「ルシア様、お待ちしておりましたぞ」

 宰相様と小声で挨拶を交わす。女王様は奥の部屋の入り口を見ている。きっとクリスタ王女の寝室だろう。
 その部屋の中央辺りに大きな丸が1つ。そこに近づく大きな丸が1つ。こっちが呪術師だな。

 部屋の入り口を眺めていると、黒い服に黒い頭巾を被った人物が現れた。手に何か持っている。

 ――あれ、人の頭蓋骨だよね。あれが触媒というやつか……。

 ルシアを見ると、ものすごく薄い粒子の魔力を黒服の人物に漂わせている。

「ルシア、あれが……」
『ああ。もう全てが見えたぞ。奴が呪術師だ。――女王、ベルス。犯人はアマンダという娘だ』

 女王様と宰相様が目を見開いている。そして女王様が相手の前に姿を現す。

「動くな。アマンダよ。お主は何をしておるのじゃ?」

 黒い服を着た人物がその場で動きを止める。

「…………」

 その場に立ったまま何も語る様子はない。

「捕らえるぞ! 宰相!」

 女王様と宰相様が動き出す。女王様から水の塊が放たれる。あれはウォーターボールだな。ものすごく硬くしてあるようだ。

 女王様が放った5つのウォーターボールを巧みに躱す黒い服の呪術師。しかし、攻撃を躱して態勢を乱したタイミングを狙って宰相様が剣を振り下ろす。
 宰相様の動きがめちゃくちゃ速い! 剣術の腕前もすごかったんだ!

 宰相様の剣が呪術師の右腕に直撃する。折れ曲がる右腕。峰打ちのようだけど、骨を砕く威力だったようだ。

「ぐっ……」

 思わず声を漏らす呪術師。右腕に持っていた頭蓋骨は床に転がっている。

「このまま大人しく捕まるのだ」

 宰相様が冷淡な口調で通告する。

「フフフ……。バレちゃたら仕方ないか」

 呪術師が黒い頭巾を取ると、そこから現れたのは美しい紫の髪を結った美形の女性。

「やはりアマンダかえ。なぜこのようなことをした。答えるのじゃ」

 この人がアマンダさんか。温和な顔つきで呪術で呪いをかけるような人には見えないな。

「なぜ……なぜですって? そんなの……、クリスタが憎いからに決まってるじゃないの! あの子が王宮に来てから、誰も彼もがクリスタ様、王女様、人魚姫なんてもてはやしちゃって、私のことなんて目にも入っていない!」

 泣き喚くような声で感情をぶつけるアマンダさん。

「そなたがそう感じるのは勝手じゃが、クリスタに呪いをかけるようなことではあるまい。それだけで、このようなことをするとは腑に落ちぬ」
「はっ! 大体ね。あんたが女王というのがそもそもおかしいのよ。女王に相応しいのは母様よ! あの魔力に魔法の力。クリスタが歴代最高かもなんて笑わせるわ。母様が女王だったら、クリスタなんてチヤホヤされる対象にもならなかったわよ!」

 母様って、Sランクのクレアレインさんのことか。女王様も姉君の方が魔力は優れていたと言ってたな。

「憎しみはクリスタだけではなく妾にも向けられていたのじゃな。
 確かに姉君は偉大なる魔術師。膨大な魔力量、精緻な魔力操作、老練に魔法を使いこなすその姿は只々尊敬するばかり」
「そうでしょう! やっぱり母様こそが女王に相応しい!」

「何を言っておるのじゃ? 姉君が素晴らしい魔術師ということが、なぜ女王に相応しいと考えるのじゃ? 女王に必要なものはそんなことではないのじゃぞ?」
「はんっ! それなら何だって言うのよ!!」
「妾が考える女王に必要なものは、国民の幸せを願う心じゃ。国民が平和で安全に暮らせるように、笑顔で暮らせる国を作っていく。それを信念として持たぬものには一国の長は務まらぬ。残念ながら姉君はそうではない。自由気ままに生きていくのが好きな人じゃからな」
「何を……何を綺麗ごとを言ってるのよ! クリスタがあんなに人気が出たのも、将来は魔力が歴代最高とか言われはじめてからじゃないの! 結局は魔力がすごいということでみんなは評価してる。それなら今はクリスタよりも魔力が多い私を評価すべきじゃないの! それをあんたの娘……王女というだけで、以前はアマンダ様とすり寄ってた者たちもみんなクリスタの方へと去ってしまった。だからクリスタの魔力を使えなくしてやるのよ! みんなが勘違いに気付くようにね!」

 深夜、静まり返る王宮の中で、息を切らすように叫び続けるアマンダさんの声が怨恨の思いを孕んで響いていた。
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