結婚させられたくないので魔導騎士団に入団しますっ!

モー子

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閑話①

閑話 ー会いに来たよ①ー

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兄様っ……行かないでっ
…………ヒュー兄様……母…様……
どこ?……あたしも、母様といたいよ…
ヒュー兄様、あたしを独りに……しないで…っ

 11歳になったある日、15歳になった大好きな兄が住まいを移す事を知らされた。

 ――とうとう、この時がきちゃった…

 ――……兄様まで、いなくなった

 大好きな母と別々に暮らすことになってから、もう6年も経っていた。
 元々優しかった兄は、母を見送ってからいっそう妹であるセリーナを構ってくれるようになっていた。母親の代わりにものを教え、時に一緒に取り組んでくれ、出来ないことを怒るよりも、些細な出来に満面の笑みで誉めてくれた。大好きな兄。


 ――母様が、治療にでられて……
 ――兄様だって、寂しかったはずだし
 ――兄様もまだ子供なのに、いっつもあたしを優先してくれて…
 ――それに、いっぱい怒ってくれて、いっぱい抱き締めてくれる…
 ――あたしは、甘いだけでなく、時に厳しい面もある兄様が大好きだっ

 ――たとえ、母様の様に会うことが叶わなくなっても、変わらず大好きだと言えるよ…
 ――母様を見送る日、笑いなさいといった兄様
 ――泣き顔ではなく、笑顔を目に焼き付けてもらうために…
 ――兄様を見送る時も、私は笑った

 ――だから、もう泣いてもいいでしょ……?

 まだ11歳の少女セリーナの兄であるヒューバートは、この地に残す妹を思って出発を限界まで伸ばしてくれていた。だがとうとう、出発してしまった。入学を予定している学校の入学式は目前だった。

 ――ヒュー兄様なら…学校のお勉強だって楽勝だよね
 ――頑張ってね……兄様っ
 ――あたしは、ここから出ちゃダメだから…
 ――会えた時はいろんなお話してね
 ――あたし……待ってるから……

 ヒューバートは、王都の王立高等教育学園で領地経営学と政治学、法律学、魔法学を学ぶ。そして、王都のガーランド侯爵邸でお祖父様にガーランド領地について学ぶのだ。王立高等教育学園を卒業する時には、ヒューバート・G・スペンサーから、ヒューバート・S・ガーランドに名を改め、正式にガーランド侯爵家の後継ぎとなる。

 ――ガーランドの呪いとか色々言ってたけど、大丈夫かな…?
 ――お爺様が、気をつけろって兄様に口煩く言ってたもんね
 ――お爺様はどんな恐い目にあったのかな?
 ――今までは、ヒュー兄様に会うためだって言って来てくれていたお爺様も
 ――……もう簡単にこちらには来れないって言っていた…
 ――あたしがここにいるのが、知られない為って、どいう事なのかな…?

 ――…なんであたしなんだろ……
 ――なんで…隠れなきゃいけないの?
 ――なんで……皆いなくなっちゃうの?

 気が付かないうちに、セリーナの頬が涙にぬれていた。瞼も重たく、きっと目も真っ赤になっている事だろう。眠れそうにないが、窓から見える外は既に闇に包まれている。眠れなくてもベッドに入っていなければ、使用人たちに心配をかけてしまうだろう。セリーナは、ベッドにもぐりこもうとソファから立ち上がった。

 ――ユニや、使用人みんなに心配かけるわけにはいかないもんね…
 ――秘密だって、あたしは……
 ――スペンサー家のお嬢様なんだから
 ――せめて、ここに居るみんなに慕われるお嬢様でいないと…

 ――もう、ただのセリーナを喜んでくれる家族はいないんだから…

 そう思うと、また視界が歪んでくる。いつになれば、この透明な滴は枯れてくれるのだろうか。

「泣いてちゃダメよ……リーナは強い子だもんねっ」

 沸いてくる透明な滴が溢れない様にグッと眉間に力を入れて、無理矢理笑ってみる。頬がひきつるが、何度も頬を自分のちいさな手でパチパチと叩き頑張って笑顔を作った。

 ――大丈夫…あたしは一人じゃないもんねっ
 ――あぁ、でも、寝る前に顔洗って目を冷やさなきゃ

 物音をたてないようにそっと、自室のドアを開いた。

 ”ゴツン!!”

 途端に鈍い音が静まり返っている赤い絨毯の敷かれた廊下に響く。

「痛ってぇ」
「えっ!?」

 目を向けるとそこに、うずくまる子供の大きさほどの。

 ――不審者……?

 何故だか全く怖くなかった。不審者は、廊下にうずくまりながらいてててとおでこ辺りを撫でている。

「あの……ごめんなさい?」
「……ひさしぶりなのに、ずいぶんな挨拶だなっ リーナっ!」

 真朱色のつり目に、痛みで生理的に浮かんだであろう透明な滴を湛えそこに――。

「っ!!  ルーっ!! どうしてっ」

「だってよ……リーナが、寂しがって泣いてると思って…」

 相手の名前を叫んでしゃがみこんでいる傍らに寄っていくと、セリーナは抱きしめられた。

「ルーっ!!ルーっ!!ルゥゥゥゥ」

 すがり付くように、セリーナからも腕を回して力を入れた。引っ込んだと思っていた涙が溢れてくる。
 だがこれは寂しさからではない。ここに彼が来てくれたうれしさからだ。



「ひでぇ顔だな…おまたせリーナ……」 
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