結婚させられたくないので魔導騎士団に入団しますっ!

モー子

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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――

13、お片付けと訪問者

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 昼食後セレナは、ルイスと共に魔導騎士団の建物の4階にあがってきていた。そこには廊下を挟んで数個の扉が並んでいて、突きあたった処には扉が2つずつ並んでいる。角部屋だ。どうやら東側のその一つがルイスの部屋で、その隣のもう一つの部屋と並びの数部屋がルイスによって物置にされている部屋らしい。ルイスは4階の半数の部屋を占領していたのだ。

 カークス公爵へ与えられている城内の自室から通う事もできるルイスだが、数年前この寮が出来上がってからすぐに入寮していた。ちょうどその頃、王に子が産まれたりルイスの父親であるカークス公爵のリーベルタスが1人で外交に赴くようになっていた為、早い者勝ちで大き目の部屋をゲットしたらしい。王族の居住区にいたくなかったのだろう。

 ルイスが少し広めに部屋を確保したといっても他も2間続きとなっており、どの部屋もゆったりとした造りで単身者には贅沢な作りだ。ただ、入居する人数が見込みよりも少なく、皆空き部屋を挟んで部屋を使っているのだとか――。

 ルイスの隣の部屋をあてがわれたセレナは半分物置になっている部屋の中に入った。

 ――埃っぽい…

『取り敢えず、換気ねっ』
 
 ふわりと浮いたスピカが窓辺へ飛んでいくと。すべての窓を開け放った。もともと小高い所に立っている城壁内の建物の4階は、不意に強めの風が吹き抜けていく。乱雑に積まれた紙の束が、風を受けてバサバサと今にも飛びそうになっている。

「何か、紙ばかりねっ」
「……要らない書類適当に突っ込んでたからな…」

 壁際にところ狭しと積み重ねてあった紙の束を部屋の真ん中に集めると、その中から必要なものだけルイスが抜いていく。と言っても必要と判断されたのは数冊の本だけだったが。その本をスピカがすかさず奪い取ると、窓辺に飛んでいきそこで本を開いてしまった。本の上に座る様にして文字を追う姿は、何とも可愛らしい。

「こっちは、要らないの?」
「おう」

 こんもりと部屋の真ん中に、紙の山が出来た。人の背丈よりも高く積み重ねられた呆れるほどの量だ。

「その度に捨てれば、こんなに溜まらないんじゃない?」
「……まぁな」

 しょうがないだろうとばかりに、ルイスがそっぽを向いて鼻の先を人さし指で掻いた。その様子にセレナは呆れながらも笑みが漏れてしまう。要らない方の紙束を見れば、仕事の指示書やその準備で使った魔導具などの説明書の様だ。きっとそのままゴミ箱にポイっと捨てられるものでもないのだろう。

「ほんとしょうもないなぁ」
「いんだよ……オレが物置で確保してたから、レナがこの部屋使えんだろっ」

 とても育ちがいいとは思えない口調で当たり前に話す以前よりも低くなったルイスの声にも、だいぶ慣れてきた。ルイスの声が低くなって気が付いたが、その声はルイスの父であるリーベルタスとよく似ている。まぁ、声が似ているだけでなく、その色彩や使う魔法もよく似た父子なのである。

 竜座の星獣の加護を受けたその髪と目、そして魔力を星獣のものに変えて産まれたリーベルタスは、先代の星獣の姫と星獣の子なのだと、セレナは友人たちに教えられていた。その為か、星獣達はルイスやリーベルタスをガーランドの子としても、自分たちの子のようにも扱っている。はじめてその話を聞いた頃は、星獣の子の子であるルイスはクォーターなのだろうか? そう考えた事もあったが、ルーはルーでしかないという結論しか出なかった。

 自慢げにセレナの為に部屋をとっておいたと言うルイスの真朱色のつり目が弧を描くと、つられる様にセレナも笑みをこぼした。その様子に本から目を離したスピカも楽しそうに目を細めている。

「そっか、そのおかげでこの部屋が空いてたのなら……いいのかな?」
「だろっ」

 城壁内の西北に位置する魔導騎士団の詰め所が入る建物の4階東側のこの部屋は、王都の東 ――ガーランド侯爵領―― を目にすることが出きる。セリーナとルードヴィヒの手紙のやり取りでもこちら側の窓からデネブー白鳥座ーを招き入れていたのだろう。

 開け放たれた窓から入ってくる風は、森の匂いも一緒に運んで来てくれる。

『じゃぁそろそろこの紙の山、燃やす? 』

 セレナとルイスの間に浮きあがるとスピカは、二人と目線を合わせどうする? と、手を顔の前で合わせて首をかしげた。スピカの囁きに、いい案だとルイスが身をのり出す。

「…燃やすの?」
「おぅ……燃やしちまおうっ」

 2人が乗り気なので、しょうがないとセレナの口から小さな息が吐き出される。ルイスの風魔法で紙の山を窓から外に出し、魔の森に続く西北の城門の端にある訓練所に運びそこで燃やす事になった。粗方要らないものを分けた2人はそれも一緒に燃やしてしまおうと窓から運び出す。
 窓から身をのり出すと人気は無い。おおいぬ座のシリウスの背に乗り、そこへひとっ跳びだ。その量にうんざりしつつ焼却処理する山の前に立つと、地面の土に焦げが出来ない様に風魔法で山ごと宙に浮かせ火を放った。ルイスの得意とする魔法、焔と風での大炎上だ。ものの見事に王城を超えるような火柱を上げゴミを塵も残さず燃やし尽くしてしまった。一瞬の火柱を見たものは目を見開いたが、目をこすっている間にそれが無くなってしまい首をかしげている事だろう。
 魔導騎士団の詰め所から慌てた様子で出てきたアレクサンドロがちらりと見えたが、既にセレナとルイスは窓から部屋に入った後だった。

「お掃除終了っ」
「だな」

 残りの本など必要と判断されたモノをとなりのルイスの部屋に移して戻ってくると、簡易キッチンなどの水回りがあるだけで、ガラーンと余分なものは何もない部屋にシリウスとこいぬ座のパルムがゴロンと寝転んでいる。風に揺られてフワフワと銀色の毛が揺れている。セレナとルイスは顔を見合わせ頷くと、シリウスたちに飛び着いた。キャッキャと戯れ休憩していると、朱色頭が動きをやめそこから規則的な寝息が聞こえてくる。

 ――そういえば、アレクさんに攫われて罰則の作業した後、一晩中探してくれてたんだよね…

 よく見れば、一緒になって遊んでいたパルムも寝てしまっているようだ。そこに近づいて朱色の髪を撫でてやると、寝ながらも眉間に入っていた皺が緩む。
 
 ――フフッ
 ――寝顔は変わんないっ

 暫くルイスの寝顔を見ていると、シリウスが主も寝ろとばかりにセレナと先に寝た2人を抱き込むように尻尾で抱き込まれた。日向の匂いのするシリウスたちと、たまに吹き抜ける心地よい風。窓辺ではスピカが新しい本を見つけてきたようでそれを読んでいる。朱色の髪に顔を寄せ瞼を降ろすとあっという間に睡魔に襲われた。





*


*


*


『主っ! 主っ!!』

 それからどれくらい経ったのだろうか、耳に心地いい低音が話しかけてくる。起こされセレナは目をこすった。暖かいモノに抱き込まれていて心地よかったのだが、さっきまで抱き込んでくれていたシリウスのふわふわの尻尾がセレナの背を揺すり起こそうとしている。

「な…に…?」
『客人が、来る』

 まだ覚醒しきらない頭で、ボンヤリと今の状況を確認してみる。ガランとした部屋で起きているのはシリウスと自分。いつの間にか混じって寝ているスピカとパルム、ルイスはまだ夢の中の様だ。窓の外はオレンジ色に染まっている。

 ――来…る…?
 ――…だれ……?

 体を起こすと胸の上で寝ていたらしいスピカが転がり落ちた。傍らで寝ていた朱色頭は寝返りをうっただけでまだ寝息を立てている。

 ――相変わらず、良く寝るなぁ……

『主、御免っ』

 いつまでもぼんやりしている主に、シリウスは魔法で出した水の球で主の顔を濡らした。

「ふわっ!? 」

 そして風魔法で乾かす。いつもの事なのか、セレナはされるがままだ。

『お目ざめか?』
「…びっくりした……覚めたよ…目…」


 それはよかったと菫色のたれ目が目を細めると、その背後の扉が”コンコン”とノックされた。
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