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閑話①
閑話 ―会いにきたよ③―
しおりを挟む昨晩遅くの突然の出来事に、スペンサー男爵家ハイスペック執事のユニは少々驚きはしたが、ルードヴィヒがセリーナの部屋にたどり着けるように、然り気無く使用人を下がらせたりしていた。ルードヴィヒが捜索されていそうなこともしっかりと把握していて、信頼のおける迎えを寄越すようにとこっそりと王都へと連絡を入れていた。
王都へ連絡がついた時には、勘のいい騎士がルードヴィヒの不在にいち早く気付いており、既にスペンサー男爵家に向かっているという事だった。そして、今朝この顔見知りの騎士が現れたのだ。
迎えの騎士とスペンサー男爵家の執事がゆったりとお茶を楽しんでいる頃、セリーナとルードヴィヒは膝をならべていた。ペッタリとすがり付くようにくっついてこようとするセリーナの頭を、ルードヴィヒはなでなでしながら言い聞かせた。
「リーナいいかよく聞け、 寂しかったらいつだって呼べばいい。あいつらに頼めばいつだって連絡はつくだろ? オレだって、リーナの大切な星の友達だって、リーナに呼ばれるの絶対に待ってるんだからなっ」
真朱色のつり目が細められ弧を描く。温かい手がセリーナの金色の髪を優しく梳き、撫でてくれる。大して背は変わらないのに、セリーナよりもずっと大きな暖かい手だ。まるで兄に慰められているように、セリーナもうっとりとしてリラックスしている。
――ルーは不思議だ
――同じ歳なのに、兄様みたいだったり
――もっとずっと子供みたいだったりもする
――それに……
――なんか暖かくて、安心するんだよね
「ルーありがとう。ありがとうっ 本当にありがとう …分かった。あたしが、呼んでもいいんだよね」
「当たり前だっ みーんな、リーナが大好きだからな」
自分の口から自然にでてしまった言葉にルードヴィヒは頬を赤くしてそっぽを向いた。向いてしまった。そんな様子にセリーナも自然と笑みを浮かべていた。
「みんな、来てくれるかな」
「呼んでみたらいいじゃんかっ」
だが、何かを思い出して悲しそうに金髪の頭が横に揺れる。
「……お父様がダメだって」
「…ここにリーナの父上はいないから、バレないっ」
「え?」
「リーナはあいつ等の姫なんだから、あいつ等の方がよっぽど来たがってるって」
「そうなの? 」
「そーだろっ 王子なんて名ばかりで誰も信頼できないって父上はいってたけど、リーナのあいつ等は姫をちゃんと大事にしてくれるんだろ? だから、リーナの父上にだって負けねえよっ……今も近くにいるんじゃないか?」
「……そうかな……そうだね…そうだよねっ!」
思い起こしてみれば、セリーナの大切な星の友人たちは何を置いてもセリーナ第一主義だ。彼らを従わせられるのは、セリーナとセリーナの母であるソフィアだけ。その上、星獣達に姫と呼ばれるセリーナはソフィアよりも優遇される存在であるのだが、セリーナはまだその事に気付いていない。他の者でもお願いすれば気まぐれに聞いてくれることもあることはあるが。
――本当にいいのかな?
――確かに、あの子達が黙っててくれるならバレないよね……来てくれるかな…
――お父様がダメっていったら、母様からお願いされてるのかもしれないし…
ちょっと怖いからと、ギュッとルードヴィヒに手を握ってもらい深呼吸した後、セリーナは息を吸い込んだ。
「ねえ、そこにいる? スピカ…?」
空かさず鈴の音の様な声が響く。
『やっと呼んでくれたわね……姫っ』
そこに手のひらサイズの虹色に透ける羽を生やした小さな乙女。処女宮の乙女座の星獣スピカが姿を表した。
「来てくれたの?」
『ずっといたのっ! 当たり前じゃないっ』
「でもでも、本当は来ちゃいけないんでしょ? お父様に怒られない?」
『本当なんてのは知らないっ! 私たちを縛れるものなんて、姫とソフィアだけよ。姫にこんなに寂しい思いをさせて置いて、文句あるって言うならこっちからやつけてやるわっ』
ぷりぷりと怒る姿もスピカはかわいい。姿こそ可愛いが、実際その力も保持している。スピカの言葉に、セリーナの視界が歪んだ。金色の髪をふわりと暖かい手が頭に乗ると、ポロポロと雫が零れる。
「……うぅ」
「こいつ等だって、オレだって、リーナの味方だ。いつだって呼べ。どこだって飛んでってやる」
金髪の頭がコクリと縦に動く。優しく頭を撫でてくる幼馴染に笑顔を向けると、いつの間にかその背後に人が佇んでいる。朱色の頭を大きな手がガシッとつかんだ。セリーナの瑠璃色の目が見開かれ、ルードヴィヒの背後の人物を捉えた。
「良い演説だな~ルードヴィヒ殿下?」
頭を掴み持ち上げてくる大きな手をルードヴィヒが離せとばかりに掴み、大きな手の持ち主を見上げた。そこにいる人物に、大いに覚えがあるようだ。
「……げっ」
「『げっ』じゃないだろう…殿下。貴方はもう魔導騎士団預かりなんですよ。急にいなくなったら、私が迎えに来るのは当たり前なんですよ」
「……うぐ」
淡々と言葉を放つ騎士服に身を包んだ男を、セリーナはポカーンと見上げたまま固まっている。片手で持ち上げられてしまった幼馴染は離せともがいている。頭を掴んで持ち上げているが、騎士の顔を見れば怒っている様にはみえなかった。
「ルー?」
「離せっ! オレはリーナにっ!!」
「はいはい……まぁ、今回はおいしいお茶も頂けるし、もう少しゆっくりしていきますかねっ」
「……は?」
ぽかんと口を開け、呆然とするルードヴィヒ。ルードヴィヒではなく、セリーナに向かってウインクする騎士様に、セリーナはなんだかおかしくなって声を出して笑いだした。ルードヴィヒと騎士はその日、セリーナと共にゆったりと過ごし夜遅く王都へと帰っていった。
寂しいが、ぽっかりと胸に穴が開くことは無かった。会いたければ呼べばいいのだから……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後に、その騎士様が自分の父親の魔法の教師だったことを知るセリーナであった。
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