死んだ日の朝に巻き戻りしました  ら、溺愛生活がリスタート?

ピコっぴ

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1 諦めた私

1‑2 海の藻屑と消え⋯⋯

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     🌊

 海面まで僅か数秒。恐怖が勝ったところで、魔法を展開する暇もなく叩きつけられることだろう。

 そう思ったけれど、不運か幸運か、或いは守護精霊が何か手を施したのか、頭のてっぺんからするりと、たくさんの泡と共に海水に滑り込むように潜り込み、海面や岩に叩きつけられることはなかった。
 海面からは見えなかった暗い海の中に隠れていた岩が、柔らかい私の肌を傷つける。
 青黒い海水に、私の鮮血が混じり広がっていくのを見ながら、ぼんやりとこれで開放される喜びを感じた。


 だが。なかなか訪れない死の解放に、焦りが出る。
 なにより息苦しい。肺が、脳が、酸素を求めて足掻き始める。
 生き延びないために、魔蔓草で手足を縛ったはずなのに、海中の岩が魔蔓草を切ったのだろうか、自由になった手足は、水面の酸素を求めて海水を掻き始めた。

 待って! ダメよ、私は死にたいのに!! もう、全てを終わりにしたいのに⋯⋯!!

 充分に海水を吸い含んだモスリンのドレスが足にまくいつき、バタつく足の動きを制限する。海水でこの後傷むだろう革のショートブーツも重い。

 それでも、脳の危険信号に抗うことなく素直に酸素を求めて足掻く手足は、私を海面に押し上げた。

 僅かな海水と共に肺に飛び込む酸素が痛い。

 肺と喉、手足の切り傷の痛みよりも、数分間の酸欠による頭痛や眩暈、苦しさに藻搔き続ける。

 気がついたら岸壁の洞穴に上がり込んで寝転がっていた。

 なんという事か、魔蔓草を使っても、水中で纏いつくドレスを着たままでも、泳げる人間は飛び込み自殺は出来ないのっ!?

 頭から極力抵抗が少ない状態で着水したのも、運なのか私の守護精霊の助けなのか⋯⋯

 今は、頭が痛い。

 酸欠による頭痛と、海水にやられた喉がヒリヒリするのと、岩場で削られた手足の切り傷。
 貧血を起こすほど出血したとは思えないけれど、海水の中なので、出るそばから散ってわかりづらくても、案外思ったよりも出血していたのかもしれない。

 濡れて重くなったドレスに血が滲んでいるけれど、構ってられない。
 手足が、頭が、いいえ、全身が重くて、動きたくないのだ。

 回復するまで、このまま転がっていよう。

 海側からしかここへは来られないし、誰かにこの情けない姿は見られる心配はないし、家に帰ろうにも、もう一度海に入って数百m先の浜辺まで泳ぐ元気はない。

 目を閉じて、ゆっくり浅く、呼吸が整うのを待つ。


「⋯⋯バカみたい。死ぬつもりだったのに、泳ぐ元気がないとか、そのまま今度こそ溺れられるんじゃないのっていうのに⋯⋯」

 ──結局、死にたいと思ったのは、本当に死にたいのではなく、今の状況から逃げ出したいだけだったのだろう

 馬鹿馬鹿しくて涙が出ちゃうわ。

 守護精霊がおろおろしながら私の周りを飛び回る。
 魔力の弱い人が見たら、光る蟲が飛んでいるように見えるだろう。ただ、飛び方が羽ばたく昆虫のそれではなく、風に乗って飛ぶ、花の綿毛種子のような動きだけど。

 そのまま目を閉じていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。

 目が覚めると、本当に目が覚めたのかと疑うくらい真っ暗で、一瞬、状況がつかめなかった。
 左手のひらに魔力を集中させ、光の玉を出し、打ち上げる。

〘明光〙 ライティング 

 私の生み出した明かりは、2mも上がることなく天井に当たる。
 ああ、海に落ちた後、岸壁の洞穴に上がったんだったっけ。

 ──お腹空いたな

 さっきまで、深刻になって死にたいと思っていたのに、今は、お腹がすいたとか、本当に笑ってしまう。

 しばらく、両腕を顔に乗せて自嘲の笑いをあげていたが、いつまでもそうしていられるはずもなく。

 妹に嫌味を言われたりお義母さまにまた叱られるだけだ、サッサと帰ろう。

 重い身体を無理矢理起こし、怪我の具合を確認する。
 手足の切り傷はすっかり綺麗になっていて、本当に傷があったのかわからなくなっていた。

「ルヴィラ、ありがとうね」

 未だ、心配して私の周りをフラフラ飛び回る守護精霊に礼を述べる。

 二度ほど強めに明滅してから、私の胸元に飛んできた。

 この子は、私が生まれた時に最初に祝福をしに来てくれた精霊で、光と風と水の霊力を司る子だ。
 複数の霊力を司る精霊は、太古から永い間存在する大きな子で、それだけで尊ばれ重宝される存在だ。

 お父さまの守護精霊も、火と風を司る子で、他にも多くの子を従えている。


 私も、生まれた時は期待されていたはずだった──




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