6 / 64
1 諦めた私
1‑5 家族の肖像
しおりを挟む
👪
王族の使う馬車は、とても座り心地はよいもので、リビングで高級ソファに座っているようだった。
ただし、居心地は良くない。
だって、隣に王家の男性が、第二王子殿下がぴったりとくっつくように座っているのだ。
──普通、家族でもない男女なら、少しでも隙間を空けるように気を使わないかな?
魔法士学校の生徒代表委員の長をされていて、ご自身も強い魔法を使え、人を教えることは入念な下調べなど復習と予習とを以て学びでもあると、下級生向けに講義を持つほどの魔法に対する才能ゆえに、一部の臣下には、王太子よりも人気があるとか。
私は、これまであまり接点を持たずに来たので、それ以上のことは詳しくは知らない。
こうして隣に座っているだけでも感じるほどに魔力を帯びた白金の髪と、精霊が好きそうな宝石のように透きとおる薄藤色の瞳。
王妃に似て優しい感じの面差しは、王太子よりも令嬢達には人気がある。王子妃や婚約者がいないのも拍車をかけているだろう。
みな、あわよくばと思っているらしく、生徒代表委員会に参加したがる。けどその殆どは第二王子目当てで、学園生活をよくしたいという意欲に燃えてのことではないので、誰も役員になることは適っていないらしい。
まだ18歳だ。成人まで間があるし、彼の妃になる令嬢は、王宮の方で吟味しているのかもしれない。選考委員会などもありそうだ。
第三王子には既に婚約者がいて、王太子は昨年結婚したばかり。第二王子をすっとばして、第三王子が先に王子妃を決めているのは政治的事情というやつだろうか?
18歳の第二王子──エリオス殿下は、学校でも誰に対しても紳士的で公平。6年生として学ぶ一方、1年目で基礎を学びある程度魔法を使える2~3年生に教えながら研究もしている、教員室の並ぶ学習棟に研究室を持つ講師兼研究生でもある。
そんな方が、私の隣で、私の肩を抱き寄せるようにくっついて座っているのだ。
緊張するなと言うのが無理だし、恩人でもあるし、肩を抱き寄せているからと言って、下心があるとかいやらしい雰囲気があるとがでもなく、海に落ちて死にかけて、這い上がった風穴から脱出できずにいた心細かったであろう私を力づけるためだと判るから、放せと突っぱねる訳にもいかない。
それに、そもそも死のうと思った事情と、海に落ちて凍えかけた直後であることから、人の温かみが触れているのが安心するのは事実なのだ。
「クレディオスのせい?」
ビクッ 肩が跳ねる。肩を抱き寄せるようにされていたので反応してしまったのを誤魔化せない。
「ご存知だったのですか?」
「詳しくは知らない。が、婚約者である君といる姿を最近はあまり見かけない。しかも、貴族の婚姻は契約でもあるというのに、婚約解消の手立てを探していると聞いたから一応諌めておいたが、その様子だと、考え直してはいないようだな」
そう。私が海に身を投げる気になった理由。
それは、家族からの裏切り。
公爵家の跡取り娘として、厳しく育てられたこと自体は文句はない。感謝もしている。
奔放に爛漫に育った妹を見ていると、貴族としてのマナーや教養を叩き込まれたのは当然だと思っているし、それでよかったのだと実感する。
ただ、家族にとって、私は、家名を背負い、次代に繋ぐための胎でしかなかったのだ。
教養として、慈善事業の一環で公爵家で投資している劇団の視察として、伝統的な古典文学が原典の公演を婚約者と観劇したり、当主を継ぐにあたっての社交の場を設けるために、夜会を開いたり他家の夜会に婚約者と参加したり、令嬢達の茶会に参加したり。
それらは定期的に行っているものの、妹と家族での娯楽のための観劇や食事会に同行させてもらったことはない。
誕生日や各種祝いのおりに、付き合いのある貴族家や王族から祝いの品が届くけれど、妹のように家族からもらったことはない。
長女の私は、王家からも高価な品をもらえるのだからいいだろうと言うが、そういう問題ではないとは言えなかった。
私は、十四歳で社交デビューするまで、父と食事の席に座ることは許されなかった。初めて同席する緊張に身を縮めていると、妹を伴って父が食堂に来た。義母も一緒だ。妹は離乳食の時から一緒だったと知ったときの衝撃は、言葉に出来ないほどだ。
いわく、後継ぎの私は、次期当主として貴族らしい習慣に則り、マナーを学び自発行為への責任能力が認められる大人になるまでは同席は許されないが、早い内に政略結婚で家を出される妹とは今のうちしか共にいられないからだという。
そういうものかと、納得はいかなかったものの異議を唱えることはしなかった。
しても無駄なのだと、この十数年で嫌というほど身に染みたからだ。
──そして、婚約者のクレディオス
王族の使う馬車は、とても座り心地はよいもので、リビングで高級ソファに座っているようだった。
ただし、居心地は良くない。
だって、隣に王家の男性が、第二王子殿下がぴったりとくっつくように座っているのだ。
──普通、家族でもない男女なら、少しでも隙間を空けるように気を使わないかな?
魔法士学校の生徒代表委員の長をされていて、ご自身も強い魔法を使え、人を教えることは入念な下調べなど復習と予習とを以て学びでもあると、下級生向けに講義を持つほどの魔法に対する才能ゆえに、一部の臣下には、王太子よりも人気があるとか。
私は、これまであまり接点を持たずに来たので、それ以上のことは詳しくは知らない。
こうして隣に座っているだけでも感じるほどに魔力を帯びた白金の髪と、精霊が好きそうな宝石のように透きとおる薄藤色の瞳。
王妃に似て優しい感じの面差しは、王太子よりも令嬢達には人気がある。王子妃や婚約者がいないのも拍車をかけているだろう。
みな、あわよくばと思っているらしく、生徒代表委員会に参加したがる。けどその殆どは第二王子目当てで、学園生活をよくしたいという意欲に燃えてのことではないので、誰も役員になることは適っていないらしい。
まだ18歳だ。成人まで間があるし、彼の妃になる令嬢は、王宮の方で吟味しているのかもしれない。選考委員会などもありそうだ。
第三王子には既に婚約者がいて、王太子は昨年結婚したばかり。第二王子をすっとばして、第三王子が先に王子妃を決めているのは政治的事情というやつだろうか?
18歳の第二王子──エリオス殿下は、学校でも誰に対しても紳士的で公平。6年生として学ぶ一方、1年目で基礎を学びある程度魔法を使える2~3年生に教えながら研究もしている、教員室の並ぶ学習棟に研究室を持つ講師兼研究生でもある。
そんな方が、私の隣で、私の肩を抱き寄せるようにくっついて座っているのだ。
緊張するなと言うのが無理だし、恩人でもあるし、肩を抱き寄せているからと言って、下心があるとかいやらしい雰囲気があるとがでもなく、海に落ちて死にかけて、這い上がった風穴から脱出できずにいた心細かったであろう私を力づけるためだと判るから、放せと突っぱねる訳にもいかない。
それに、そもそも死のうと思った事情と、海に落ちて凍えかけた直後であることから、人の温かみが触れているのが安心するのは事実なのだ。
「クレディオスのせい?」
ビクッ 肩が跳ねる。肩を抱き寄せるようにされていたので反応してしまったのを誤魔化せない。
「ご存知だったのですか?」
「詳しくは知らない。が、婚約者である君といる姿を最近はあまり見かけない。しかも、貴族の婚姻は契約でもあるというのに、婚約解消の手立てを探していると聞いたから一応諌めておいたが、その様子だと、考え直してはいないようだな」
そう。私が海に身を投げる気になった理由。
それは、家族からの裏切り。
公爵家の跡取り娘として、厳しく育てられたこと自体は文句はない。感謝もしている。
奔放に爛漫に育った妹を見ていると、貴族としてのマナーや教養を叩き込まれたのは当然だと思っているし、それでよかったのだと実感する。
ただ、家族にとって、私は、家名を背負い、次代に繋ぐための胎でしかなかったのだ。
教養として、慈善事業の一環で公爵家で投資している劇団の視察として、伝統的な古典文学が原典の公演を婚約者と観劇したり、当主を継ぐにあたっての社交の場を設けるために、夜会を開いたり他家の夜会に婚約者と参加したり、令嬢達の茶会に参加したり。
それらは定期的に行っているものの、妹と家族での娯楽のための観劇や食事会に同行させてもらったことはない。
誕生日や各種祝いのおりに、付き合いのある貴族家や王族から祝いの品が届くけれど、妹のように家族からもらったことはない。
長女の私は、王家からも高価な品をもらえるのだからいいだろうと言うが、そういう問題ではないとは言えなかった。
私は、十四歳で社交デビューするまで、父と食事の席に座ることは許されなかった。初めて同席する緊張に身を縮めていると、妹を伴って父が食堂に来た。義母も一緒だ。妹は離乳食の時から一緒だったと知ったときの衝撃は、言葉に出来ないほどだ。
いわく、後継ぎの私は、次期当主として貴族らしい習慣に則り、マナーを学び自発行為への責任能力が認められる大人になるまでは同席は許されないが、早い内に政略結婚で家を出される妹とは今のうちしか共にいられないからだという。
そういうものかと、納得はいかなかったものの異議を唱えることはしなかった。
しても無駄なのだと、この十数年で嫌というほど身に染みたからだ。
──そして、婚約者のクレディオス
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる