12 / 64
1 諦めた私
1‑11 推挙
しおりを挟む
🏫
エリオス殿下は、エスコートしてとっていた私の手の指先に軽く口づけて、敬意を表す挨拶をした。
驚く父と義母。義母と妹の眼が見開いた後、やや醜悪な光を灯したことに気づかないフリをした。
──いつものこと
「で、でで殿下? エステルは、その、デビュタントは済ませたもののまだ学生でして⋯⋯」
「もちろん識ってるよ。魔法士学校の同期だからね。
わたしは、自他共に認める国内随一の魔力と魔力量を誇るけれど、精霊魔法は明るくなくてね。精霊魔法では国内一番のアァルトネン公爵家の当主にぜひにもご教授願いたいと、先の災害の時から考えていたのだよ。
あの時は、わたしの力技で抑えたけれど、精霊魔法が使えたらもっとスムーズに、周辺への被害もこの身の負担も、少なく抑えられたのではないかと思ってね。
こうして、命の恩人に教鞭を願い出ているのだけれど、あまりいい返事をもらえなくてね。
父親であるリレッキ・トゥーリからもぜひ説得してくれないかな?」
殿下は物腰柔らかく丁寧に話しているけれどその言葉は、自分の能力が認められない、日々不当な扱いを受けているとすら思っている父の、コンプレックスを刺激するもの言いにも感じられた。
私がそう思うのだから、本人もそう思ったに違いない。
額の辺りを赤黒く染めて言葉を探す様子は、やはり傷ついたのだろう。
「そ、れは、どうでしょうか。エステル自身まだ未熟なもので、お役に立てるか⋯⋯」
「基礎が出来ていて、魔法士学校でも優秀な成績を修める彼女になら、共同研究も進むと思うのだけどね」
「あら、あなた。殿下から望まれるのなら光栄なことなのではないのかしら? 殿下も仰る通り、お互いまだ学生なのですから、学び合うだけでしょう? なにも、宮廷魔法士として国のお役に立てと命じられている訳ではありませんわ。学生同士多少の失礼があっても許されるでしょう?」
父はあまり乗り気でないみたい。そして、義母の言い方も、父を宥め私を推挙しているようなもの言いでありつつ、私が殿下の役に立たないだろうけど構わないといっている風にもとれる。
「聞きしに勝る、だね。いつもこうなのかい?」
「お恥ずかしい限りです」
殿下の要望に素直に応えづらい父と、表向き勧めておきながら私が何か失礼すると決めつける義母。
エリオス殿下は苦笑いで、こっそりと耳打ちしてきた。
「どうだろう? ここで居場所がないというのなら、学園でも魔法省でも、寮を用意するよ?」
この家を、出られる? この家族から離れて暮らす?
「まあ、無理にとは言わないが、出来れば前向きに考えてくれると嬉しい。リレッキ・トゥーリもエステル嬢も、よく考えてくれ」
そう言い残し、殿下は、馬車を出して帰って行かれた。
「どこで殿下と顔見知りになったのだ? こんな(星が出る)時間まで、どこにいたのだ」
私が日中何をしていようとあまり関心のない父が、晩餐の手を止め、普通の父親のような事を訊いてきた。
貴族の晩餐は、一般庶民に比べて遅い時間だ。
社交の場として夕方から始まる舞台や演奏会などに参加する事が多く、それに合わせて少し前に軽食を兼ねたお茶を摂り、観劇のあと、帰宅して晩餐となるのが習慣になっているためである。夜会の場合は、会場で饗されたものを摘まむため、帰宅して身を清めたら就寝である。
庶民は、日暮れと共に帰宅し、簡素な食事をしたら、翌日のためにも灯りに使う獣脂や魚脂の節約のためにも、早めに就寝する。その分、朝は夜明けである。日の出にはすでに活動を始めているという。
貴族も、当主は朝議のため夜明け前暁七つから身仕度をし、朝日が差す中一人で朝食を摂り、朝イチで登城する。
ギムナジウムや士官学校、魔法士学校に通う、デビュタント前後の子女も明け六つに身仕度を調え朝食を摂り、朝五つには授業が始まっている。
「いつもの通り図書館で勉強していたら、殿下に声をかけられただけです。元々親しくしていた訳ではありません。個人的に言葉を交わしたのも、今日が初めてですわ」
崖から飛び込みをした事は伏せ、いつも帰宅をギリギリまで遅くするために図書館にいるので信憑性はあるだろうし、怪しまれないためにも、殿下の行動範囲であろう学校施設で会ったことにした。
「⋯⋯そうだろうな。だが、命の恩人というのはなんだ?」
「先ほど殿下も仰っていた王城裏手の山津波の事ですわ。殿下が魔力切れをおこさないよう、何度か魔力譲渡を行いました。その事を未だに恩に思ってくださっているだけですわ」
「魔力譲渡? お前の魔力と、殿下の魔力に親和性が?」
有り得ないと思っているのだろう、かなりの驚きを見せた。
親兄弟でも拒絶反応を起こすことが少なくないのだ、他人である殿下と私の魔力質が近いとは、とても思えないのは仕方のない事だ。
ただ、お母さまから、遠くても王家の血は僅かに入っているので、可能性はなくはない。
「ええ。その分、共同魔法などの構築の研究にも、わたくしが役立つとお考えのようです」
あまり食欲もなかったので、主菜を待たず当主より先に席を立つ非礼を詫び、自室に戻る事にした。
エリオス殿下は、エスコートしてとっていた私の手の指先に軽く口づけて、敬意を表す挨拶をした。
驚く父と義母。義母と妹の眼が見開いた後、やや醜悪な光を灯したことに気づかないフリをした。
──いつものこと
「で、でで殿下? エステルは、その、デビュタントは済ませたもののまだ学生でして⋯⋯」
「もちろん識ってるよ。魔法士学校の同期だからね。
わたしは、自他共に認める国内随一の魔力と魔力量を誇るけれど、精霊魔法は明るくなくてね。精霊魔法では国内一番のアァルトネン公爵家の当主にぜひにもご教授願いたいと、先の災害の時から考えていたのだよ。
あの時は、わたしの力技で抑えたけれど、精霊魔法が使えたらもっとスムーズに、周辺への被害もこの身の負担も、少なく抑えられたのではないかと思ってね。
こうして、命の恩人に教鞭を願い出ているのだけれど、あまりいい返事をもらえなくてね。
父親であるリレッキ・トゥーリからもぜひ説得してくれないかな?」
殿下は物腰柔らかく丁寧に話しているけれどその言葉は、自分の能力が認められない、日々不当な扱いを受けているとすら思っている父の、コンプレックスを刺激するもの言いにも感じられた。
私がそう思うのだから、本人もそう思ったに違いない。
額の辺りを赤黒く染めて言葉を探す様子は、やはり傷ついたのだろう。
「そ、れは、どうでしょうか。エステル自身まだ未熟なもので、お役に立てるか⋯⋯」
「基礎が出来ていて、魔法士学校でも優秀な成績を修める彼女になら、共同研究も進むと思うのだけどね」
「あら、あなた。殿下から望まれるのなら光栄なことなのではないのかしら? 殿下も仰る通り、お互いまだ学生なのですから、学び合うだけでしょう? なにも、宮廷魔法士として国のお役に立てと命じられている訳ではありませんわ。学生同士多少の失礼があっても許されるでしょう?」
父はあまり乗り気でないみたい。そして、義母の言い方も、父を宥め私を推挙しているようなもの言いでありつつ、私が殿下の役に立たないだろうけど構わないといっている風にもとれる。
「聞きしに勝る、だね。いつもこうなのかい?」
「お恥ずかしい限りです」
殿下の要望に素直に応えづらい父と、表向き勧めておきながら私が何か失礼すると決めつける義母。
エリオス殿下は苦笑いで、こっそりと耳打ちしてきた。
「どうだろう? ここで居場所がないというのなら、学園でも魔法省でも、寮を用意するよ?」
この家を、出られる? この家族から離れて暮らす?
「まあ、無理にとは言わないが、出来れば前向きに考えてくれると嬉しい。リレッキ・トゥーリもエステル嬢も、よく考えてくれ」
そう言い残し、殿下は、馬車を出して帰って行かれた。
「どこで殿下と顔見知りになったのだ? こんな(星が出る)時間まで、どこにいたのだ」
私が日中何をしていようとあまり関心のない父が、晩餐の手を止め、普通の父親のような事を訊いてきた。
貴族の晩餐は、一般庶民に比べて遅い時間だ。
社交の場として夕方から始まる舞台や演奏会などに参加する事が多く、それに合わせて少し前に軽食を兼ねたお茶を摂り、観劇のあと、帰宅して晩餐となるのが習慣になっているためである。夜会の場合は、会場で饗されたものを摘まむため、帰宅して身を清めたら就寝である。
庶民は、日暮れと共に帰宅し、簡素な食事をしたら、翌日のためにも灯りに使う獣脂や魚脂の節約のためにも、早めに就寝する。その分、朝は夜明けである。日の出にはすでに活動を始めているという。
貴族も、当主は朝議のため夜明け前暁七つから身仕度をし、朝日が差す中一人で朝食を摂り、朝イチで登城する。
ギムナジウムや士官学校、魔法士学校に通う、デビュタント前後の子女も明け六つに身仕度を調え朝食を摂り、朝五つには授業が始まっている。
「いつもの通り図書館で勉強していたら、殿下に声をかけられただけです。元々親しくしていた訳ではありません。個人的に言葉を交わしたのも、今日が初めてですわ」
崖から飛び込みをした事は伏せ、いつも帰宅をギリギリまで遅くするために図書館にいるので信憑性はあるだろうし、怪しまれないためにも、殿下の行動範囲であろう学校施設で会ったことにした。
「⋯⋯そうだろうな。だが、命の恩人というのはなんだ?」
「先ほど殿下も仰っていた王城裏手の山津波の事ですわ。殿下が魔力切れをおこさないよう、何度か魔力譲渡を行いました。その事を未だに恩に思ってくださっているだけですわ」
「魔力譲渡? お前の魔力と、殿下の魔力に親和性が?」
有り得ないと思っているのだろう、かなりの驚きを見せた。
親兄弟でも拒絶反応を起こすことが少なくないのだ、他人である殿下と私の魔力質が近いとは、とても思えないのは仕方のない事だ。
ただ、お母さまから、遠くても王家の血は僅かに入っているので、可能性はなくはない。
「ええ。その分、共同魔法などの構築の研究にも、わたくしが役立つとお考えのようです」
あまり食欲もなかったので、主菜を待たず当主より先に席を立つ非礼を詫び、自室に戻る事にした。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる