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1 諦めた私
1‑16 蜻蛉はメッセンジャー
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𓆤
人の気配で目が覚めると、侍女のラケルが花瓶に、矢車菊とハイデを生けているところだった。
「お嬢さま、起こしてしまいましたか」
「いえ。元々、ぼんやり考え事をしていたらいつの間にか寝ていただけで、浅い眠りだったから」
「でしたら、ちゃんとお休みになってください。晩餐前にお起こししますから」
「⋯⋯そうね。晩餐はいいわ。もう休みます。その前に湯浴みを」
「かしこまりました。準備します」
ラケルは、アァルトネン血族の分家の中でも比較的権力の小さな伯爵家の次女が士爵を得たで家門の出で、精霊魔法は守護属性の水の精霊魔法しか使えない。ただし、魔力は少なくなく、一般的な魔術は多くの属性を扱える。
それらを、侍女として、私の世話にのみ使っているという、勿体ない女性だ。
精霊術で浴槽に水を溜め、湯を沸かし、美容オイル抽出と香りのアロマ効果、保温を兼ねて、バラの生花が浮かべられる。
義母やエミリアと違って、着替えや湯浴みにたくさんのメイドの手を借りることはない。
どちらが貴族として正しいのかは、他の家のルールを知らないので判らない。
でも、見えない背中を洗うのも大変ではあるけれど、精霊たちに頼めば、他人の手を借りる必要もないので、いつもそばにいるのはラケルのみ。
ゆったりとした部屋着のワンピースを纏い、腰にサッシュリボンを巻いてガウンを羽織り、ベッドに腰掛けてラケルの入れたハーブティを受け取る。
「お疲れのようでしたので、神経の尖りをとり、安らかに眠れるハーブを調合しておきました」
「ありがとう。興奮⋯⋯とは少し違うと思うけれど、本を読んでも目を閉じてもどこか緊張しているみたいで、内容は頭に入らないし眠りは浅くてすぐに目が覚めるの。身体は休みたがっているのにね」
「でしたら、ちょうどいい塩梅にブレンド出来ていると思います。
リンデンをベースに、カモミールとレモンバームが、心を安らげてくれると思いますから、温かいうちにどうぞ」
ラケルいわく。
リンデンは高ぶった気持ちを鎮め、体を温めて緊張でこわばった心や体をほぐす作用があるとかで、ハーブティーにすると上品で甘い香りがする。
寝る前に飲むと、ストレスや不安を抑えてくれるため、安眠しやすくなると、よくラケルは淹れてくれる。
カモミールは高いリラックス効果があるとされる、一般的な家庭でもよく見られる代表的なハーブで、ストレスや不安、怒りなどを落ち着かせる他、内臓機能も整えるらしい。カモミールティーは甘みがあって、ハーブティが苦手な人にも飲みやすい。
レモンバームは悲しみや心配を和らげ、気持ちを明るくするハーブとして古くから用いられ、先々に不安がある時やストレスの影響で月経のリズムが乱れた時にも効果的だとか。
ハーブティーにすると酸味がなく、ふんわりとした後味が楽しめ、小さな鉢植えにして窓際にも置いてあるので、時々葉を一枚摘んでちぎり、指先で揉んで香りを楽しんでいる。
そこに、ラケルの水の精霊が祝福を加えてくれるので、効果は高いのだ。
「本当に、晩餐は良いのですか? 正餐もお摂りになってらっしゃらないのでしょう?」
「ええ。でも、無理に食べても胃にもたれるだけだと思うから、今夜はラケルのハーブティーで胃も身体も休めておくわ。心配してくれてありがとう」
ハーブティーを飲み干し、布団に入ろうとした時。
部屋の中に、可愛らしいトンボの形をした風霊が飛び込んで来た。
「あら?」
ラケルも特には慌てないし、他の精霊たちも警戒していない。
それもそのはず、このトンボはレントと名付けられた、セオドア従兄さまの使役するメッセンジャーだから、この屋敷を守っている騎士達も守護する精霊達も認識済みで、彼が飛び回っても追いかけたり阻害したりしない。
〘エステル。今、自宅にいるのなら、訪ねてもいいか?〙
「セオ従兄さまなら、いつでも歓迎ですわ」
私が返事して間もなく、部屋の前に来た家令から、セオドア従兄さまの来訪を告げられる。
私の部屋は、庭に面した寝室とリビングルームに別れていて、更にバスルーム、ウォーキングクロゼットルームと、メイド達がお茶の準備や掃除などの作業部屋と控室も続いている。
寝室とバスルーム以外は、直接廊下に出る扉がある。
レントからセオドア従兄さまのメッセージを受け取ってすぐだったので、もしかしたら、家の近くからレントをよこしたのかもしれない。
ワンピースの上に厚手のガウンを羽織り、更にラケルがケープを掛けてくれた。
「こんな時間にすまないね、晩餐までには帰るから、少しいいかな」
「ええ、もちろんよ。セオ従兄さまが訪ねてみえるなんて、久し振りね?」
「まあな。ただ、ちょっと、その、信じられない話を聞いてな? 確認したいというか、信じたいというか信じられないというか⋯⋯」
いつもはハッキリとものを言うセオドア従兄さまが、かなり歯切れが悪い。
良くない話なのかしら?
「遠回しに訊いてもしかたない、間違いだったとき失礼かとは思うが、間違いだったと笑い飛ばして欲しい」
何かしら?
「クレディオスと離縁したって本当か?」
人の気配で目が覚めると、侍女のラケルが花瓶に、矢車菊とハイデを生けているところだった。
「お嬢さま、起こしてしまいましたか」
「いえ。元々、ぼんやり考え事をしていたらいつの間にか寝ていただけで、浅い眠りだったから」
「でしたら、ちゃんとお休みになってください。晩餐前にお起こししますから」
「⋯⋯そうね。晩餐はいいわ。もう休みます。その前に湯浴みを」
「かしこまりました。準備します」
ラケルは、アァルトネン血族の分家の中でも比較的権力の小さな伯爵家の次女が士爵を得たで家門の出で、精霊魔法は守護属性の水の精霊魔法しか使えない。ただし、魔力は少なくなく、一般的な魔術は多くの属性を扱える。
それらを、侍女として、私の世話にのみ使っているという、勿体ない女性だ。
精霊術で浴槽に水を溜め、湯を沸かし、美容オイル抽出と香りのアロマ効果、保温を兼ねて、バラの生花が浮かべられる。
義母やエミリアと違って、着替えや湯浴みにたくさんのメイドの手を借りることはない。
どちらが貴族として正しいのかは、他の家のルールを知らないので判らない。
でも、見えない背中を洗うのも大変ではあるけれど、精霊たちに頼めば、他人の手を借りる必要もないので、いつもそばにいるのはラケルのみ。
ゆったりとした部屋着のワンピースを纏い、腰にサッシュリボンを巻いてガウンを羽織り、ベッドに腰掛けてラケルの入れたハーブティを受け取る。
「お疲れのようでしたので、神経の尖りをとり、安らかに眠れるハーブを調合しておきました」
「ありがとう。興奮⋯⋯とは少し違うと思うけれど、本を読んでも目を閉じてもどこか緊張しているみたいで、内容は頭に入らないし眠りは浅くてすぐに目が覚めるの。身体は休みたがっているのにね」
「でしたら、ちょうどいい塩梅にブレンド出来ていると思います。
リンデンをベースに、カモミールとレモンバームが、心を安らげてくれると思いますから、温かいうちにどうぞ」
ラケルいわく。
リンデンは高ぶった気持ちを鎮め、体を温めて緊張でこわばった心や体をほぐす作用があるとかで、ハーブティーにすると上品で甘い香りがする。
寝る前に飲むと、ストレスや不安を抑えてくれるため、安眠しやすくなると、よくラケルは淹れてくれる。
カモミールは高いリラックス効果があるとされる、一般的な家庭でもよく見られる代表的なハーブで、ストレスや不安、怒りなどを落ち着かせる他、内臓機能も整えるらしい。カモミールティーは甘みがあって、ハーブティが苦手な人にも飲みやすい。
レモンバームは悲しみや心配を和らげ、気持ちを明るくするハーブとして古くから用いられ、先々に不安がある時やストレスの影響で月経のリズムが乱れた時にも効果的だとか。
ハーブティーにすると酸味がなく、ふんわりとした後味が楽しめ、小さな鉢植えにして窓際にも置いてあるので、時々葉を一枚摘んでちぎり、指先で揉んで香りを楽しんでいる。
そこに、ラケルの水の精霊が祝福を加えてくれるので、効果は高いのだ。
「本当に、晩餐は良いのですか? 正餐もお摂りになってらっしゃらないのでしょう?」
「ええ。でも、無理に食べても胃にもたれるだけだと思うから、今夜はラケルのハーブティーで胃も身体も休めておくわ。心配してくれてありがとう」
ハーブティーを飲み干し、布団に入ろうとした時。
部屋の中に、可愛らしいトンボの形をした風霊が飛び込んで来た。
「あら?」
ラケルも特には慌てないし、他の精霊たちも警戒していない。
それもそのはず、このトンボはレントと名付けられた、セオドア従兄さまの使役するメッセンジャーだから、この屋敷を守っている騎士達も守護する精霊達も認識済みで、彼が飛び回っても追いかけたり阻害したりしない。
〘エステル。今、自宅にいるのなら、訪ねてもいいか?〙
「セオ従兄さまなら、いつでも歓迎ですわ」
私が返事して間もなく、部屋の前に来た家令から、セオドア従兄さまの来訪を告げられる。
私の部屋は、庭に面した寝室とリビングルームに別れていて、更にバスルーム、ウォーキングクロゼットルームと、メイド達がお茶の準備や掃除などの作業部屋と控室も続いている。
寝室とバスルーム以外は、直接廊下に出る扉がある。
レントからセオドア従兄さまのメッセージを受け取ってすぐだったので、もしかしたら、家の近くからレントをよこしたのかもしれない。
ワンピースの上に厚手のガウンを羽織り、更にラケルがケープを掛けてくれた。
「こんな時間にすまないね、晩餐までには帰るから、少しいいかな」
「ええ、もちろんよ。セオ従兄さまが訪ねてみえるなんて、久し振りね?」
「まあな。ただ、ちょっと、その、信じられない話を聞いてな? 確認したいというか、信じたいというか信じられないというか⋯⋯」
いつもはハッキリとものを言うセオドア従兄さまが、かなり歯切れが悪い。
良くない話なのかしら?
「遠回しに訊いてもしかたない、間違いだったとき失礼かとは思うが、間違いだったと笑い飛ばして欲しい」
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