176 / 263
小さな嵐はやがて⋯⋯
23.空飛ぶ紅茶
しおりを挟む王宮女官が、賓客である友好国の王女と、年に何度も交易交渉に訪れている北の大国の大使に茶を出すのは当然である。
次いで、王家と縁深いシスティアーナに出そうとするのも。
その際、商談を始めるフレイラの席を執事が用意したり、システィアーナのために近衛騎士が椅子を引くなど、場を整えるのも当然の流れであろう。
が、システィアーナは自分の役目、フレイラとマリアンナを繋いで話を振れば、自分の席に戻るのは自然な事で、商談に混ざるつもりはなかった。
茶を断り、一歩下がったところで、マリアンナの侍女の一人が近寄り、このままこの場にと請うた。
その侍女を振り払ったり肘で打たないよう、気をつけて姿勢を変えたところ、何かに足をとられ、身体が傾く。
転ぶっ と思った時、椅子を引いた近衛騎士より早く、様子を覗っていたエルネストが抱き寄せ支える。
しかし、システィアーナは無事だったものの、なぜか侍女が女官の懐に飛び込む形になり、女官の手の、淹れ立ての茶が宙に浮く。
運の悪いことに、茶器は側に設けられた席に座ったばかりのフレイラの髪飾りで跳ね、マリアンナのドレスに濃い赤茶の茶が降り注いだ。
「何をなさるの!!」
周りにいた誰が見ても、何人もが同時に動いた結果の、不運な事故のように思われた。
システィアーナを庇いに駆け寄ったエルネスト以外は。
(あの侍女、シスに足を引っかけなかったか?)
しかも、自分がシスティアーナを支えると、自ら女官に向かって飛び込んだようにも見えた。
肩に茶を浴び真っ青になって震える侍女と、賓客の前で有り得ない失態を侵してしまい顔面蒼白に固まる高級女官。
フレイラは幸い、ストールの端に数滴浴びただけなので、すぐにしみ抜きに出せば、精神的ショックはともかく物理的被害は少ない。
問題は、ドレスのスカート部分の左半分が赤茶に染まってしまったマリアンナである。
顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴り散らした。
「幾ら私の事が気に入らないからって、お茶をかけることはないでしょう!?」
なぜか、マリアンナの中では、どさくさに紛れて、システィアーナがマリアンナに茶をかけた事になっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5,626
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる