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「見習い宣教師と最初の大事件」
コックと中間管理職の幕間劇
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ソフィアが連れ出され、課長が胃を押さえながら出て行った後の会議室。
海外渡航課へと続く廊下を、沢山の料理を台車に乗せてせっせと歩く小男の姿があった。
コックの、アーサーである。
「どいてどいて!」
頭に乗せたコック帽が、今にも振り落とされそうな勢いの小走りだった。
「アンタ、どうしたのよ。その料理。フルコースもいいところじゃない。」
同僚のケイトが、目ざとく指摘した。
どう考えても、渡航課の同僚だけで食べるには、量が多過ぎるのだ。
「今、事件の調査で一等書記官がいらっしゃってるだろ?事件が無事、解決したら、懇意にしていただくかもしれないんだから!そして、ゆくゆくは俺も料理長に……」
「一体いくらかかったのよ。」
アーサーの野望を打ち砕くように、ケイトが尋ねた。
「え?」
現実問題として、各省庁はもちろん、出先機関も、「予算」というものが厳密に決められている。内部部局や、各部署もまた然りなのだ。
「それ、どこの予算から出したの?まさか、機密費じゃないでしょうね?課長にまた怒られるわよ。」
「良いんだよ。課長だって、どうせ今頃「私が訓示を致します!」なんて言って媚び売ってんだから。オリヴィアさんに、原稿でも書かせてさ。」
「どいたどいたー!!」
ケイトの忠告も無視して、そのまま、台車を押して、渡航課へと突入して行く。
そして、そのまま更に奥の会議室へと突っ込んで行った。
「…ごほん。失礼いたします、書記官。そして、本省の皆様方。」
突然現れた小柄で年若いコックと豪勢な料理の品々に、一同が面食らっている。
「我々、大使館のラウンジ総出で、書記官殿及び本省の方々をお・も・て・な・ししようと、お料理をご用意いたしました。お口に合うかどうかわかりませんが、我々ラウンジの公邸料理人一同、心を込めてご用意いたしましたので、どうかお召し上がりください。」
「頂けません。」
セリアズは、アーサーの口上を聞き終わると、申し出を一蹴した。
「え?お好みではございませんでしたか?これは大変失礼いたしました。ただ今、急いで作り直し……」
「君は、昨今、本省で監察官や主計局員らに対しての、過剰な接待行為が問題になっていることを知らないのか?」
セリアズはアーサーを睨むと、再び書類へと目を落とした。
「……振られちゃったわね。」
アーサーの後ろでその様子を見ていたケイトが、半ば呆れながらそう漏らすのだった。
*****
「オリヴィア君、ちょっと。」
「?はい、何でしょうか。課長。」
「本省の方々や、職員の士気向上のために、ここは私も訓示をしようかと思ってね。」
「ええ?余計なことするな、って、また怒られちゃいますよ。」
「良いから!事件が無事解決した暁には、私もオリヴィア君も、懇意にしていただくかもしれないんだから。」
「はあ……そういうものですか?」
「そういうものですよ。では、良いね?原稿、よろしくね!」
課長はそう言うと、スーツの襟を正し、ネクタイを締め直して、会議室へと消えて行った。
「失礼いたします、書記官。」
セリアズのデスクの前で、仰々しく課長が一礼する。
「士気向上のため、ここは私も訓示をですね「調査は秘密裏に行います。出来る限り、」
「……振られちゃいましたね。」
そのやり取りを見ていたオリヴィアは、課長の後ろでそう一言呟くのだった。
海外渡航課へと続く廊下を、沢山の料理を台車に乗せてせっせと歩く小男の姿があった。
コックの、アーサーである。
「どいてどいて!」
頭に乗せたコック帽が、今にも振り落とされそうな勢いの小走りだった。
「アンタ、どうしたのよ。その料理。フルコースもいいところじゃない。」
同僚のケイトが、目ざとく指摘した。
どう考えても、渡航課の同僚だけで食べるには、量が多過ぎるのだ。
「今、事件の調査で一等書記官がいらっしゃってるだろ?事件が無事、解決したら、懇意にしていただくかもしれないんだから!そして、ゆくゆくは俺も料理長に……」
「一体いくらかかったのよ。」
アーサーの野望を打ち砕くように、ケイトが尋ねた。
「え?」
現実問題として、各省庁はもちろん、出先機関も、「予算」というものが厳密に決められている。内部部局や、各部署もまた然りなのだ。
「それ、どこの予算から出したの?まさか、機密費じゃないでしょうね?課長にまた怒られるわよ。」
「良いんだよ。課長だって、どうせ今頃「私が訓示を致します!」なんて言って媚び売ってんだから。オリヴィアさんに、原稿でも書かせてさ。」
「どいたどいたー!!」
ケイトの忠告も無視して、そのまま、台車を押して、渡航課へと突入して行く。
そして、そのまま更に奥の会議室へと突っ込んで行った。
「…ごほん。失礼いたします、書記官。そして、本省の皆様方。」
突然現れた小柄で年若いコックと豪勢な料理の品々に、一同が面食らっている。
「我々、大使館のラウンジ総出で、書記官殿及び本省の方々をお・も・て・な・ししようと、お料理をご用意いたしました。お口に合うかどうかわかりませんが、我々ラウンジの公邸料理人一同、心を込めてご用意いたしましたので、どうかお召し上がりください。」
「頂けません。」
セリアズは、アーサーの口上を聞き終わると、申し出を一蹴した。
「え?お好みではございませんでしたか?これは大変失礼いたしました。ただ今、急いで作り直し……」
「君は、昨今、本省で監察官や主計局員らに対しての、過剰な接待行為が問題になっていることを知らないのか?」
セリアズはアーサーを睨むと、再び書類へと目を落とした。
「……振られちゃったわね。」
アーサーの後ろでその様子を見ていたケイトが、半ば呆れながらそう漏らすのだった。
*****
「オリヴィア君、ちょっと。」
「?はい、何でしょうか。課長。」
「本省の方々や、職員の士気向上のために、ここは私も訓示をしようかと思ってね。」
「ええ?余計なことするな、って、また怒られちゃいますよ。」
「良いから!事件が無事解決した暁には、私もオリヴィア君も、懇意にしていただくかもしれないんだから。」
「はあ……そういうものですか?」
「そういうものですよ。では、良いね?原稿、よろしくね!」
課長はそう言うと、スーツの襟を正し、ネクタイを締め直して、会議室へと消えて行った。
「失礼いたします、書記官。」
セリアズのデスクの前で、仰々しく課長が一礼する。
「士気向上のため、ここは私も訓示をですね「調査は秘密裏に行います。出来る限り、」
「……振られちゃいましたね。」
そのやり取りを見ていたオリヴィアは、課長の後ろでそう一言呟くのだった。
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