見習い聖女の厄介事!

神山 祐太

文字の大きさ
11 / 12
「見習い宣教師と最初の大事件」

コックと中間管理職の幕間劇

しおりを挟む
 ソフィアが連れ出され、課長が胃を押さえながら出て行った後の会議室。

 海外渡航課へと続く廊下を、沢山の料理を台車に乗せてせっせと歩く小男の姿があった。

 コックの、アーサーである。

「どいてどいて!」

 頭に乗せたコック帽が、今にも振り落とされそうな勢いの小走りだった。

「アンタ、どうしたのよ。その料理。フルコースもいいところじゃない。」

 同僚のケイトが、目ざとく指摘した。

 どう考えても、渡航課の同僚だけで食べるには、量が多過ぎるのだ。

「今、事件の調査で一等書記官がいらっしゃってるだろ?事件が無事、解決したら、懇意にしていただくかもしれないんだから!そして、ゆくゆくは俺も料理長に……」

「一体いくらかかったのよ。」

 アーサーの野望を打ち砕くように、ケイトが尋ねた。

「え?」

 現実問題として、各省庁はもちろん、出先機関も、「予算」というものが厳密に決められている。内部部局や、各部署もまた然りなのだ。

「それ、どこの予算から出したの?まさか、機密費じゃないでしょうね?課長にまた怒られるわよ。」

「良いんだよ。課長だって、どうせ今頃「私が訓示を致します!」なんて言って媚び売ってんだから。オリヴィアさんに、原稿でも書かせてさ。」

「どいたどいたー!!」

 ケイトの忠告も無視して、そのまま、台車を押して、渡航課へと突入して行く。

 そして、そのまま更に奥の会議室へと突っ込んで行った。

「…ごほん。失礼いたします、書記官。そして、本省の皆様方。」

 突然現れた小柄で年若いコックと豪勢な料理の品々に、一同が面食らっている。

「我々、大使館のラウンジ総出で、書記官殿及び本省の方々をお・も・て・な・ししようと、お料理をご用意いたしました。お口に合うかどうかわかりませんが、我々ラウンジの公邸料理人一同、心を込めてご用意いたしましたので、どうかお召し上がりください。」

「頂けません。」

 セリアズは、アーサーの口上を聞き終わると、申し出を一蹴した。

「え?お好みではございませんでしたか?これは大変失礼いたしました。ただ今、急いで作り直し……」

「君は、昨今、本省で監察官や主計局員らに対しての、過剰な接待行為が問題になっていることを知らないのか?」

 セリアズはアーサーを睨むと、再び書類へと目を落とした。

「……振られちゃったわね。」

 アーサーの後ろでその様子を見ていたケイトが、半ば呆れながらそう漏らすのだった。


*****

「オリヴィア君、ちょっと。」

「?はい、何でしょうか。課長。」

「本省の方々や、職員の士気向上のために、ここは私も訓示をしようかと思ってね。」

「ええ?余計なことするな、って、また怒られちゃいますよ。」

「良いから!事件が無事解決した暁には、私もオリヴィア君も、懇意にしていただくかもしれないんだから。」

「はあ……そういうものですか?」

「そういうものですよ。では、良いね?原稿、よろしくね!」

 課長はそう言うと、スーツの襟を正し、ネクタイを締め直して、会議室へと消えて行った。

「失礼いたします、書記官。」

 セリアズのデスクの前で、仰々しく課長が一礼する。

「士気向上のため、ここは私も訓示をですね「調査は秘密裏に行います。出来る限り、」

「……振られちゃいましたね。」

 そのやり取りを見ていたオリヴィアは、課長の後ろでそう一言呟くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...