出て行けと追い出されたが、そもそも私の家ではなかった

Estella

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第一章

家族のぬくもり

 目が覚めてからというもの、私――セレンティア・カルデンシアの周りでは、信じられないことが次々と起こった。

 まずは姉のアルデリカが、私の部屋に次々とドレスを持ち込んできた。

「これはシルクよ、触ってごらん。そしてこれは、今夜の夕食に着ていくのにいいわね!」

 彼女は淡々としているが、一つ一つのドレスを丁寧に説明してくれた。どれもこれも、見たこともないほど繊細で美しい。私はただ、ぼんやりとそれらを見つめるしかなかった。

(こんなにたくさん……私が汚してしまったら、どうしよう……)

 すると、兄のギルバートが、宝石箱のようなものを抱えて現れた。

「君に似合いそうなアクセサリーをいくつか選んできたよ。全部、君のものだ」

 中には、きらめくネックレスやイヤリング、髪飾りが所狭しと並んでいる。

(本物の……宝石? 私がつけても、いいの……?)

「まずは栄養をつけなさい」

 優しい声と共に現れた父は、トレイに載った温かなスープと、ふわふわのパン、色とりどりのフルーツを運んできた。
 お腹は空いていたのに、私は思わず後ずさりしてしまった。

(こんなにたくさん……食べていいの? わ、私なんかが……)

「どうかしたのかい、セレンティア?」

 父の声は心配そうだ。

「あ、いえ……ただ、あまりにもたくさんで……」

 私は必死に言葉を探す。

「ど、どれから……いただけば……」

「焦らなくていい」

 父は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、スプーンを手に取った。

「まずはスープから一口ずつ、ゆっくりでいい。もし気に入らなければ、別のものを用意するから」

 スプーン一杯のスープを口に運ぶ。温かく、優しい味が口の中に広がる。

(……美味しい) 

 思わず、また一口。そしてまた一口。目の前に出されたものを、少しずつ食べ進めていく。

「よしよし、よく食べてる」

「ティア、こっちも見て! この人形、可愛いでしょう? 貴方が生まれた時に貴方に買っておいたものなの!」

 アルデリカが可愛らしい布人形を持ってきた。もうそんな年齢ではないけれど、私がいなかった時間を埋めようとしてくれているのは分かる。
 可愛くてふわふわな人形を胸に抱いて、私はただただ戸惑うばかりで。

「そしてこれは、最新の魔法図書だ。君の勉強に役立つかもしれない」

 ギルバートは分厚い本を何冊も置いていく。難しい勉強はさせてもらえなかったから、彼の熱意を失望させてしまわないか怖かった。

「音楽は好きかい? この小さなオルゴールはいかが?」

 父は繊細な彫刻が施されたオルゴールを取り出した。綺麗な音楽が流れていく。こういうものは、クラリスにこそ似合うものだと、私には過分なものだと、思っていた。
 次から次へと贈られる贈り物。美しい服、輝く宝石、美味しい食べ物、可愛い人形、興味深い本、素晴らしい音楽……。

 私は、ただただ圧倒されていた。嬉しい。本当に嬉しい。こんな温かいものを、一度にこんなにたくさんもらったことは、人生で一度もなかった。

 でも……同時に、得体の知れない恐怖が胸を締め付ける。

(これが全部、夢だったら? 目が覚めたら、あの冷たい地下室に戻っていたら? ううん、もし現実だとしても……私が何か失敗をして、全部、取り上げられちゃったら? そもそも私は、こんな幸せを受け取るのに相応しいのかしら……?)

「あ……」

 ふと、スープのお椀を手に取ろうとした時、指が震えて、お椀がカチンと音を立ててしまった。

「す、すみません! 壊しませんでした、ちゃんと……!」

 私は反射的に謝罪の言葉を口にした。侯爵家では、食器を少しでも鳴らせば、「品がない」と叱責されていた。閉じ込められるようになってからは、あまり関係がなかったが……。

 しかし、予想していた叱責はやってこなかった。

「大丈夫だ、セレンティア」

 父がそっと私の手を包み、震えを鎮めてくれる。

「君は何も悪いことをしていない」

「……でも、お行儀が悪くて……」

「そんなことはない」

 父が深い声で言った。

「家族と食卓を囲むのに、堅苦しい礼儀など必要ないよ」

 ギルバート兄はにっこり笑って言った。

「そうだよ、ティア。俺が子どもの頃は、もっとひどかったんだ。スープをこぼして絨毯をダメにしたこともある」

「あら、あの時は本当にひどかったわね、問題児ギルバート」

 アルデリカが呆れたように言いながらも、目は笑っている。これが、家族というものなのか。失敗しても、k行儀が悪くても、笑って許し合える。

「でも……彼の言う通りよ。ここはティアの家だから、もっとわがままになってもいいの」

(わがまま……?)

 その言葉の意味が、私にはまだよくわからなかった。でも……この温かさは、嘘ではない気がした。この人たちの瞳は、侯爵やクラリスのように冷たくない。

 私はゆっくりと、もう一度スプーンを手に取った。そして、もう一度、スープを口に運んだ。温かさが、喉を通り、ゆっくりと胃に落ちていく。その温もりは、確かに体中に広がっていく。

 もしかしたら……本当に、ここは違うのかもしれない。
 もしかしたら……私は、わがままになってみても、いいのかもしれない。

 それは、ほんの小さな、かすかな希望の灯りだった。しかし、それは確かに、私の凍りついていた心を、ゆっくりと溶かし始めていた。

「……あり、がとう、ございます」

 私はそう呟きながら、もう一口、スープを味わった。

 私は溢れんばかりの愛に戸惑い、怯えながらも、家族の温もりを受け入れたいと、そう考えた。

 長く苦しい冬の終わり、春が訪れようとしていた。
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