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第一章
『家族』
ゆっくりと瞼を開ける。まず感じたのは、柔らかな枕と、清潔な寝具の感触。悪夢の余韻がまだ胸にわずかに残っているが、目の前には現実の、穏やかな朝の光が差し込んでいた。
そして、ベッドの傍らには、家族の姿が。
「……ご、ごめんなさい……」
真っ先に口をついて出たのは、やはり謝罪の言葉だった。魔力を暴走させ、気絶し、皆に心配をかけた。自分は相変わらず、迷惑ばかりかけている――。
「おはよう、ティア。朝一番の挨拶が『ごめんなさい』なんて、少し寂しいな」
ギルバート兄が、いたずらっぽくも温かい口調でそう言い、そっと彼女の手を握った。
「噴水の件なら、もう新しいものを発注したよ。むしろ古いのは壊れやすかったと言うべきか。お前のおかげで、より立派なものが設置できる」
父も、少し冗談めかして言った。その表情には、一切の咎める色はない。
「それでなんだけど」
アルデリカ姉が、軽やかに口を開いた。
「あの膨大な魔力を、このままにはできない。せっかくの才能だもの、ちゃんと練習したらいろいろなことができるわ」
彼女はちらりと父と目配せし、続けた。
「というわけで、魔法の先生をつけることにしたの。国内でも指折りの、優秀で、しかも口の堅い人物をね」
「……魔法の、先生……?」
私は目をぱちぱちさせた。私のために、わざわざ?
「もちろんだよ」
ギルバートがにっこり笑った。
「でも、まずはゆっくり休んで、元気になるのが先決だ」
「そうね」
アルデリカも優しくうなずく。
「無理は禁物よ」
皆が、まるで当たり前のように、私のことを気遣い、未来への手立てを整えてくれる。そのあまりの寛大さに、私はまたしても胸が熱くなった。
「……みなさん、どうして……こんなに優しいんですか? 私……何も、お返しできなくて……」
彼女はうつむきながら、小さな声で呟いた。
「お役に、立てるようになりたいのに……何も、できなくて……」
すると、アルデリカがため息をつき、そして――とても自然に、彼女の頭をポンと軽く叩いた。
「バカね」
その言葉は、決して冷たくなく、むしろとても優しく響いた。
「まだこんなに若い令嬢が、そんなこと考えなくてもいいのよ。『お役に立つ』だなんて。まずは、ただここにいて、笑っていてくれればそれでいいの」
「……アルデリカ、お姉様……」
「私たちが望んでいるのは、お前が『何かできる』ことじゃない」
父が深い声で続ける。
「お前がここにいて、幸せでいてくれること。それだけだ」
「……はい」
その言葉を聞いて、私の顔に、ふわっとした、自然な笑顔が浮かんだ。それは、これまでに見せたどの笑顔とも違い、心の底から安心し、ほっとしたような表情だった。
その笑顔を見て、部屋の中の空気がほんわりと温かく変わった。ギルバートは満足そうに笑い、アルデリカは少し照れくさそうに顔を背け、父の目尻には、わずかに笑みの跡ができた。
大きな問題が起こり、私は自分を責めた。でも、家族は私を包み込み、前に進む道を示してくれる。
まだ、この暖かさを完全には信じられていないかもしれない。
でも、少なくともこの瞬間、私は「許されている」という温もりを、確かに感じ取っていた。
これが、家族というものなのかもしれない。
失敗を責めず、ただそこにいることを喜び、そして共に歩んでくれる――。
夢に見ていた幸せの形が、今、私の目の前にあった。
そして、ベッドの傍らには、家族の姿が。
「……ご、ごめんなさい……」
真っ先に口をついて出たのは、やはり謝罪の言葉だった。魔力を暴走させ、気絶し、皆に心配をかけた。自分は相変わらず、迷惑ばかりかけている――。
「おはよう、ティア。朝一番の挨拶が『ごめんなさい』なんて、少し寂しいな」
ギルバート兄が、いたずらっぽくも温かい口調でそう言い、そっと彼女の手を握った。
「噴水の件なら、もう新しいものを発注したよ。むしろ古いのは壊れやすかったと言うべきか。お前のおかげで、より立派なものが設置できる」
父も、少し冗談めかして言った。その表情には、一切の咎める色はない。
「それでなんだけど」
アルデリカ姉が、軽やかに口を開いた。
「あの膨大な魔力を、このままにはできない。せっかくの才能だもの、ちゃんと練習したらいろいろなことができるわ」
彼女はちらりと父と目配せし、続けた。
「というわけで、魔法の先生をつけることにしたの。国内でも指折りの、優秀で、しかも口の堅い人物をね」
「……魔法の、先生……?」
私は目をぱちぱちさせた。私のために、わざわざ?
「もちろんだよ」
ギルバートがにっこり笑った。
「でも、まずはゆっくり休んで、元気になるのが先決だ」
「そうね」
アルデリカも優しくうなずく。
「無理は禁物よ」
皆が、まるで当たり前のように、私のことを気遣い、未来への手立てを整えてくれる。そのあまりの寛大さに、私はまたしても胸が熱くなった。
「……みなさん、どうして……こんなに優しいんですか? 私……何も、お返しできなくて……」
彼女はうつむきながら、小さな声で呟いた。
「お役に、立てるようになりたいのに……何も、できなくて……」
すると、アルデリカがため息をつき、そして――とても自然に、彼女の頭をポンと軽く叩いた。
「バカね」
その言葉は、決して冷たくなく、むしろとても優しく響いた。
「まだこんなに若い令嬢が、そんなこと考えなくてもいいのよ。『お役に立つ』だなんて。まずは、ただここにいて、笑っていてくれればそれでいいの」
「……アルデリカ、お姉様……」
「私たちが望んでいるのは、お前が『何かできる』ことじゃない」
父が深い声で続ける。
「お前がここにいて、幸せでいてくれること。それだけだ」
「……はい」
その言葉を聞いて、私の顔に、ふわっとした、自然な笑顔が浮かんだ。それは、これまでに見せたどの笑顔とも違い、心の底から安心し、ほっとしたような表情だった。
その笑顔を見て、部屋の中の空気がほんわりと温かく変わった。ギルバートは満足そうに笑い、アルデリカは少し照れくさそうに顔を背け、父の目尻には、わずかに笑みの跡ができた。
大きな問題が起こり、私は自分を責めた。でも、家族は私を包み込み、前に進む道を示してくれる。
まだ、この暖かさを完全には信じられていないかもしれない。
でも、少なくともこの瞬間、私は「許されている」という温もりを、確かに感じ取っていた。
これが、家族というものなのかもしれない。
失敗を責めず、ただそこにいることを喜び、そして共に歩んでくれる――。
夢に見ていた幸せの形が、今、私の目の前にあった。
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