皆まとめて婚約破棄!? 男を虜にする、毒の花の秘密を暴け! ~見た目だけは可憐な毒花に、婚約者を奪われた令嬢たちは……~

飛鳥井 真理

文字の大きさ
38 / 138

第38話 綺麗な薔薇には棘があるもの

しおりを挟む
 

「とても嬉しいですわ、剣聖様。でも……」

「まだ、何か不安があるのかい?」

 ルイーザの心の揺らぎを敏感に感じ取った剣聖が、優しく先を促す。

「先程、ご覧になっていたのでしょう? わたくし、ご存じかと思いますが貴族令嬢としては少し……憚りがありますの」

 感情のまま、クレイブに向かって扇を投げつけた。

 後悔はしていないが、貞淑な淑女でいることを求められる貴族令嬢としては考えられない無作法を、憧れの人に見られてしまったのだ。



 彼女自身は自分の生き方に誇りを持っているし、女性だからと言って泣き寝入りする気など更々ない。

 何しろ辺境の地で、女の細腕で男と戦えば腕力が劣るからと魔法による身体強化を極め、男と同等以上の力をつけてずっと戦ってきたのだ。

 一部の貴族達からはまるで蛮族だ、貴族令嬢らしくないと蔑んだ目で見られているのも知っている。

 だが軟弱な中央の貴族の言葉など、彼女には響かない。


 ――しかし、彼はどう思っただろう?


 女として、幻滅されてしまってはいないだろうか。

 才能も美貌も何もかもが一流の男相手に、急に心配になってきたのだ。


「君の強さに惹かれたと言ったでしょう? 私は普通の貴族令嬢を求めた訳じゃない」


 だがそれは杞憂だった。

 即座に否定の言葉を返される。


「美しい薔薇には棘があるもの。私には、それがとても好ましい」


 蕩けるように甘いバリトンでそう告げられた。

 気障なセリフが嫌みなく似合っているが、こんな歯の浮くようなことを言う人だっただろうか?


 少なくとも彼女は今まで聞いたことがない。


 思いがけない一面を知って思わず、一瞬で真っ赤になってしまうルイーザ。


 まさか、彼から花の女王である薔薇に例えて口説かれるなんて……それに、これでは……。


 彼女の全てを認め、受け止めると言われたのと同じではないか。


(男として、器の大きさが違う……)


 同年代のクレイブなどでは相手にもならない。

 勝手にまた、ドキドキと高鳴り出した心臓が苦しい。

 異性からこんなに情熱的に口説かれた経験のないルイーザは彼の熱量に呑まれ、ポーっと見惚れることしか出来なかった。

 まるで、時が止まってしまったかのように……。



「ルイーザ嬢?」


 心配気にかけられた声にハッとする。

 彼女の様子がおかしいと気づかれたらしい。

 呑気に呆けている場合ではなかった。

 彼の想いに、真摯に答えたいと思ったばかりだというのに。


 だって、知らなかったのだ……。


 魅力的すぎる男の熱を受け止めるのは思いの外、気合いがいるということを。


 精神的な消耗が激しく、沸騰した頭がショートしそうになるのを何とか堪えて、ルイーザは口を開く。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...