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第83話 捕り物

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 真っ白な詰襟に金の肩章やボタンのついた軍服……それは誰もが知る王宮の近衛騎士団のもの。

 彼らは本来、城内での警護が主な任務だ。

 様々な儀式に対応するための正装として、華やかさと機能美が考慮された飾りの多い制服は、血なまぐさい仕事が主な任務ではないからこそ選ばれた色と意匠だった。


 そんな彼らが、王の弟の屋敷で行われた夜会とはいえ、こうして出向いてきたということは……。

 誰の意向なのかは明らかであろう。

 王宮が今回の事態を重く見ているという証であると理解して、会場全体が緊迫した空気に飲まれていく。

 ざわめいていた貴族達も、再び静かになっていった。



 人々の注目を一身に浴びながらも、決して慌てることなく優雅に歩いてきたひとりの騎士。

 彼こそが、彼女の待ち人だった。

 美形揃いの近衛騎士らしく、彼もまた人目を引く華やかな美貌の持ち主であった。

 こんな時でなければ、女性達から黄色い歓声が上がっていたに違いない。

 秀でた額にふわりと波打つ、艶のある若葉のような緑の髪に、シャンデリアの光をうけて琥珀色に煌めく瞳。

 中性的で優雅な容姿をした彼は、息をのむほどに美しかった。

 よく鍛えられてはいるが騎士にしては細身の身体に、純白の騎士服がよく似合っている。



「……エイドリアン……君が来たのか」

 騎士の姿を目に留めたランシェル王子が、ポツリと呟く。それは周りが聞き取れないほどの囁きで、どこか思い詰めたような響きを含んでいた。

「遅くなりました、ダフネ嬢」

 その場にいたランシェル王子に軽く目礼した後、真っ先にダフネに声をかける。

「申し訳ありません。奴を取り逃がしてしまいました」

「……仕方ありませんわ。元々、こちらの対応が後手後手にまわってしまっていたのですもの」

 表情を曇らせ悄然として詫びるのを止めさせると、首を横に振った。

「……それよりも、例の者達は?」

「はい。そちらは万事、抜かりなく」

「それは重畳ですわ」


 実は先ほど、サリーナの悪事が暴かれていたその裏で、捕り物が行われていたのだ……。

 それは、魅了封じの魔道具が発動し、人々の視線が釘付けになっていた時だった。

 こっそりとパーティー会場から抜け出そうとする、貴族の一団がいたのである。




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