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第86話 捕縛
しおりを挟む彼らには、隣国との繋がりの他にも不正な賄賂や、資金の着服などの疑いもあるので、そちらもまとめて取り調べることになるだろう。
サリーナのことも、当初は別室で密かに処罰する予定だったのだが、国のためにはこれでよかったのかもしれない。
拘束した上位貴族達をこの場で裁く訳にはいかないし、見せしめのためなら元平民で下位貴族の彼女ひとりで十分だ。
この夜会に参加している諸外国からの招待客にも、隣国が国ぐるみでこちらに揺さぶりをかけてきても次世代の若者達だけで対処できると示すことが出来たことだし。
まぁ、肝心のランシェル王子とその側近がまんまと罠に嵌まって無能ぶりを露呈してしまったことは誤算だったが……。
(きっと、今宵の出来事はすぐ社交界に広まるはず。結果的に彼女は役に立ってくれましたわ……)
サリーナを大勢の貴族達の前で惨たらしく破滅させたことは、国内外の貴族達に強烈な印象を残したはずだ。
しかし、今回派手に暗躍してくれたサーカス団の道化師を取り逃がしたことで、黒幕と魅了魔法の魔道具を作れる技師への手がかりの両方が途切れてしまったのは悔やまれる。今後も第二、第三のサリーナが現れる可能性が残ってしまったのだから……。
技師の生死が確認できない以上、隣国が同じ手口を使わないという保証はないだろう。
勿論、引き続き追っ手は放つし、技師についての調査も継続するが、今、早急しなければいけないのは次の寄生先を潰すことだった。
甘言に誘われても尻込みしてしまう事例として、サリーナの惨め末路は良い反面教師になることだろう。
完璧な対応とは程遠いものの、一定の成果を挙げることができてホッとするダフネに、エイドリアンが耳打ちした。
「そう、分かりましたわ。後はお願いいたします」
「お任せください。おい、連れていけ」
「「はっ、隊長!」」
エイドリアンの部下達が、サリーナを捕縛するために動き出す。
「きゃぁっ、いやぁ……来ないでぇ! ランシェルさまぁ、みんなお願いっ、サリーナを助けてぇ!!」
自分達の名前を呼び、泣きじゃくりながらズリズリと後ずさって逃げようとするサリーナを見ても、魅了魔法が解けかけているランシェル王子達はもう、動かなかった。
顔色を悪くしながらも目を反らさず、じっと見守っている。
いくら泣き喚いて暴れても、サリーナのような非力な女性が騎士から逃れることは不可能だ。
テキパキと後ろ手にして両手首に縄をかけ、拘束してしまった。
「痛っ! うぅぅっ……離してよっ。わたしは悪くないっ、悪くないわっ。こんなの冤罪よ~!!」
最後まで往生際が悪く自分の無実を訴えて抵抗していたが、近衛兵に両脇を捕まれ引きずられていったのだった。
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