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第111話 条件
しおりを挟むそれぞれの立場から様々な思惑が入り乱れ、駆け引きの結果、時間はかかったものの……。
近年になってようやく、二人の婚約が正式に公表されることになる。
「君の婚約者がなかなか決まらず心配していた王妃の嘆願に、最終的には兄王もバーリエット公爵も許可を出した……と言われているが」
そこで一旦言葉を切って、正面からじっとランシェル王子を見る。
「では元々、彼女が誰との婚約を望まれていたのか、君は知っていたかい?」
「……ええ、勿論。母上から聞かされていましたから」
「……っ!?」
そう答えると、視線の先でシルヴィアーナが息を飲んだのが分かった。
彼女との関係が、初顔合わせの時から拗れた理由の一端が今、判明したからだろう。
――知らないとでも思っていたのか。
そんなわけないだろう?
自分はこの国の第一王子だ。
黙っていても情報が入ってくる。
帝国も、母である王妃も、アランが婚姻により国内で影響力を持つことを恐れ、神経尖らせていた。
なにしろ王子の身分を剥奪されたとはいえ、ランシェルよりもずっと、生まれつき魔力の器が大きかったのだ。
当然ながら年月が経つにつれ、王家の血統魔法「統率」の力も強くなっていくのだから、危機感を抱かないわけがない。
王妃に、ランシェルの他にも王子か王女でもいたらまた、状況が変わったのかもしれない。
しかし彼女は、たった一人の王子しか授からなかった。
だからこそ思い入れも強く、過保護にもなった。
最大限の愛情を注いで慈しみ、彼の地位を守るために策を練っていたが、それがハワード王国の国益に繋がるとは限らず、夫である王と対立することも多い。
アランの扱いついての考え方はその最たるものだった。
国王は国外へ出すことの危険を、王妃は国内へ留めることの危険を考えた。
秘密裏に行われた二人のお見合いの情報も早い段階で掴んでおり、アランの地盤を固めようとする国王の意向を感じ、焦りを募らせていた。
外国の血を引く王子を望まない純血主義者たちを、これ以上勢いづかせてはいけない。アランから、奪わなければ……。
その為には、いずれは国民の心を掴むであろう、絶大な治癒魔法の能力を持つ娘を効果的に使う必要がある。王家の血を色濃く引くシルヴィアーナを。
模索した結果、反対勢力を取り込むための、人気取りに利用することが最善だと考えたのだ。
しかし彼女の決断は、最愛の息子を幸せにはしなかったのである。
王妃は決して、認めないだろうが……。
「ではこれは知っているかい? 彼女との婚約にあたって兄王とバーリエット公爵がひとつ、王妃達に出した条件のことを?」
国王は二人を可愛がっていたが、帝国と関係上、表だってこの婚約を反対することは難しかった。
そこで、一計を練った。
「万が一、君との間に何かあった場合のことをね?」
ハワード王は、諦めていなかった。
その時、引き出せる最大の譲歩を王妃陣営に迫っていたのである。
そしてこれは、アランとランシェル、二人の息子のためでもあると信じていた。
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