存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

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第11話

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「勇者くんたちがさ、天使族に侵攻しはじめたよ」

 なんでそうなるのか、俺にはさっぱりわかんねぇ。

「ん? なんで今それなんだ?」

 わかっていることは――いずれ深淵の女神が絡む、ってことだけだ。


「理由は単純。勇者直属の部下が続けざまに天使にさらわれたんだよ」

 ――おいおい、さらわれた?
 何やってんだ勇者のくせに。

「上位である女神にそれって、デメリット大きすぎやしねぇか?」

「で、捕まった部下の一人がさ……お宅の局長」

「はぁ? あいつ勇者の部下かよ」

「アリサのはただの撒き餌。局長が本命だったんだよね。
勇者直属の“徴税係”みたいな立ち位置だったみたいだよ」

 在香はしかめっ面だ。
 ああーそういえば、事情を話してねぇな。

「なあ在香、これ他言無用な。
本物の神は深淵の女神だけ。神族と天使は“強い種族”、勇者は女神直属――それだけ覚えろ」

「そういうことだったのね。というより局長が勇者の配下だったなんて驚くより、陰謀めいた圧を感じるわ」

「それは普通に抱く感覚だと思うぜ」

「そしてそれを以前から知っているあなたと、この人は何なのかしらね?」

 在香の声が、ほんの少し低く落ちた。
 疑いでも、怒りでもない。
 ただ“知りたい”という圧があった。

 俺の心臓が“ひとつ”だけ強く打った。

「言っとくが、この話は在香にしかしてねぇ」

「こいつは、ポコポコが裏返った姿だぜ?
こいつはポコポコを認識してるけど、ポコポコの方はこいつを認識してない」

「……ちょっと待って。
つまり“あなたの後ろにいる存在”の一部ってこと?」

「そういわれてもな。今ここでポコポコに戻ってもらうわけにはいかないしな」

「それじゃあ、この人は人ではないのね?」

「人らしくはしているけどな。まあ本人の好きにさせておけばいいんじゃね?」
 
 呪女は俺を見てニヤリとした。  
 この女、深淵寄りの“裏ガイド”みたいな役目してるからたちが悪い。


「でもね~ここでしたことは、ポコポコの夢に出ちゃうから気を付けているんだけどね」

 こいつわざと脱線させているのか?
 まあいい。
 ヤツらの動き見えてきたところでどうするか。

「俺たちが介入する必要性はなさそうだな、今のところは」

「そうね~。そうとらえてもいいかも。来期の存在確定の前に確定課で回収課に回す案件確認した方がいいかもしれないわ」

「なぜそういえる?」

「天使や神は、遅れることはあっても不正はしないからね」
 
「ちょっと待って、なんで不正しないと言い切れるの?」
 
「世界が問答無用で即処罰する。やった瞬間、存在ごと消える」

「それで、回収課に回される遅延者の神と天使を洗い出して、大きく遅延しているヤツは尻に火ついたヤツだから、そいつをマークしていけば、情報がつかめるってやつか」

「ピンポーン! 大正解」

「つまり、後がないから、なりふり構わず行動する可能性があるということね」

「さすが在香」
「素朴な疑問なんだけどよ、なんで税がおさめられないほどカツカツなんだ? 何か新しいことしているのか? それとも単なる浪費か?」

「神無大戦の影響よ。昔、神族と天使族がやらかした、あの大戦争」

「おいおい。今さら白き羽族のためにとかいって排他主義ごっこか?」

「夢みている連中がくすぶっているってことよ」

 よし整理だ。

 納税できずに消滅寸前。
 で、金ありそうな勇者サイドを拉致って、勇者がキレて侵攻。
 やることなすこと全部、最悪の選択肢ばかりだ。
 クソみてぇな連鎖だな。

 そして予測される事態が――
 情勢不安定で稼ぎが乏しくなる。
 納税遅延者はさらなる危機へ突入する。
 そこに「税金過払いだ」と主張する烏合の衆がわく。
 過払い返還請求と、拉致と、脅迫。

 クズすぎんだろ。

 まぁでも、女神が介入することもないただの種族の小競り合いだな。

「静観だ」

「そうね私も賛成」

「わかったわ今日のところはこれで。ね、ポコポコが寂しがっているから、ね」

「わかったよ。近い内にいく」

「そういうことにしておいてあげる。それじゃあね」

「ああ、またな」

「ありがとうございます」

 在香は丁寧に会釈をした。
 このタイミングで金色の粒子となった呪女はまたたくまに消えていく。
 静かになった執務室で、在香がぽつりと言った。
 
「なんだかんだといいながら、優しいね是明は」
 
 在香が、少しだけ生暖かい眼差しを向ける。
 やめろ、その言い方はくすぐってぇんだよ。
 
「知らねぇよ。ただ、心配なだけだ」
「……それ以上でも、それ以下でもねぇ」

 思わず大きく息を吸い込み吐き出した。
 
「さっそく回収課なんだが」

 静観だなんて言った舌の根も乾かねぇうちに、これだ。
 
「回収課の名簿は“やべぇ奴リスト”だ。動き読むにはそこが一番早い」

「ええ行きましょう」

 俺たちは、そのまま確定課に向かう。回収課に回すリストを先にみる。
 豆奈なら、そのあたり資料は普通に見せてくれるだろうな。
 
 それにしても、あの2区リストがどうにも引っかかる。



「よぉ!」

 俺は確定課の扉をあけて、すぐに目についた豆奈に声をかけた。

「あっ! 是明さ~ん」

 なんでこいつは、いつもドタバタと息せききってくるんだ。
 落ち着こうぜ、な?

「わりぃな。わざわざ急いできてくれて」

「大丈夫ですよ。課の恩人でもありますからね。ところで今日は?」

「ああ、回収課に回す回収者リストが見たい。
こいつらが一番ケツに火ついた奴らだから、何すっかわかんねぇだろ? 先回りして知っておきたい」

 確定課は紙仕事。
 回収課はバット持って走る連中。
 俺たち徴税局は、そのバットが折れたあとに呼ばれる部署だ。

「いいですよ。他でもない是明さんの頼みですし、内容も正当です。
徴税局の担当者からの正当な閲覧理由で処理させてもらいます」

「理解が早くてたすかる」

「こちらで見れますのでどうぞ。〇回と印鑑が押してあるのが、その該当リストです。
終わりましたらとくに声かけずに退出してもらって大丈夫です。
ただ、リストは持ち出さないでください。複写したいときは、そこの魔道複写道具でお願いします」

「ああ、ありがとな」

 大きなテーブルがあり、本棚が並ぶ。
 ちょうど、魔道図書館の小規模な感じだ。

 テーブルの上に十冊ほど積み重ねる。
 案外すくないもんだな。

「在香はそっちから頼む。俺はこっちから天使リストを抽出する」

「わかったわ」

 しばらく資料を見ていると、天使の一部の種族に偏りがある。
 というより、特定の区の奴らだけがこのリストにいる。

 どういうことだ?

 天使2区。
 それが該当区だ。凶悪犯罪組織の区でほかの職員連中も被害にあっている。
 未だによくわからない場所なんだよな。

 区別に官庁があって城があるのは天使の地域の独特さだ。
 その区まるごとってのが不気味というか奇妙だな。

「そっちどうだ?」

「私の方にはないわ。他種族だけね。是明は?」

「ああ、俺はこの一冊だけだ。奇妙なことに天使2区のヤツらだけなんだよな」

「2区? 一つの区画だけって……そこまで思想が別れるものなの?」

「いや~そこまで天使の事情はわからねぇな」

 なんだぁ? 嫌な胸騒ぎがするぜ。

 奴らのリストは複写魔導具に頼るか。
 印刷し終えたら製本して完了だ。

 部屋をでるときに豆奈と視線が合い片手をふり、確定課の部屋を出た。

 執務室に戻って在香に渡す。

「本当にただのリストなのかしら? 何か裏があるかもって思うわ」

「何か気になるか?」

 在香の指す場所。
 そこは、異常じゃねぇか?

 督促3回。未納。

 すべて2区にいる天使に共通した記載だ。

 しかも、2区の奴らといえば、ポコポコの店に出入りしてる連中が多い。
 胸の奥が、ぞわりと冷えた。
 どうしても不安がおさまらない。

「わりぃ。ちょっとポコポコの所へ行く」

「どうしたの? 急に」

「気のせいならいいが、胸騒ぎがする」

「わかった。是明の勘、当たるからね。私も行くわ」

 俺たちは馬でポコポコの店に向かう。
 なんだ? この不安感は。
 なぜだ? あの店に何がある?

 店先の肉食植物か? いや違う。
 回収課の横流し品か? いやそれとも違う。
 店の金か? 金はあるだろうが違う。
 特殊な魔道具か? 貴重だがそれもどこか違う。
 まさかポコポコか? いやまさか。
 呪女の変化か? もしかすると。
 ポコポコと呪女、バレたか? まずい!

 心臓が、さっきとは別の“強くて嫌な音”で鳴った。
 
 きのせいでいてくれ。
 俺は祈るような気持ちで向かった。
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