存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

文字の大きさ
23 / 31

第22話

しおりを挟む
「よぉ、豆奈いるかー?」

 俺は確定課の扉をあけ、いつも座っている位置に足を向けた。

「あっ! 是明さ~ん」

 相変わらず、緊迫感のない声だ。
 毎回相談しているうちに、声をかけやすくなったのもある。

「今日はどうされたんですか?」

「ああ、実はな。ここだと話しづれぇんだ。別室で相談できるか?」

「わかりました。こちらへどうぞ」

 わざわざお茶まで用意してくるなんざ確定課すげぇな。

「さて、どのようなご用件で?」
「……もしかして、私に会いに来てくれたとか?」

 視界の端で在香の手がわずかに震えた。

「ちげぇよ。仕事だ仕事」
「え~? 是明さんって素っ気なくするときほど、優しいですよね」

 豆奈は無邪気に笑ったが、空気が一瞬だけ張りつめた。

 在香の指が、カップの取っ手をかすかに軋ませた。
 ……気のせいか、気配が冷たい。
 よくねぇ空気だな。
 ……気を取り直して、本題に戻る。


「それでだ。神無大戦の遺物が複数体、神族の領域を一部蹂躙した。俺が救出した二名以外死亡していた」

「それは大事件ですね」

「ああ、近いうちに局長代理から調査依頼がいくと思う」

「何のですか?」


「神族たちの脱税・未納・脱獄は深刻な状態だ。だから、その者たちが今どこにいるか地域を知りたい」

「地域ですか? 脱税の有無でなく?」

「ああ、そうだ。こいつら組織がかりで研究と実験をしている」

 なんか説明がめんどくせぇな。
 もうさっさと調べてくんねぇかな。
 まあ、しゃあねえ。
 しばらく付き合うか。

「実験ですか?」

「かなりヤバイヤツだ。深淵の女神の逆鱗にふれるぐらいな」

「えええ。それって関わっちゃいけない案件ではないですか?」

「いや、もう脱税犯を捕まえるという体ではかかわっている」

 なんだその……妙な笑顔は。
 いや、こいつの場合わざとじゃねぇな。天然で出てんだ、これ。

「わかりました。彼らの位置で次に危険な地域を割り出すわけですね」

「そうだ。あとは脱税者と未納者の共通点を知りたい」

「わかりました。急いで調べます」

 そこで在香が口をはさむ。

「……へぇ。仕事に熱心ね」

 声色だけは穏やかだが、温度がねぇ。
 豆奈の表情が笑みのまま固まっていた。

「助かる。俺たちの地域も難癖つけられたらたまんねぇからな」

「それでも我々は、世界の意向に従って動いているので、大丈夫そうな気がしますけどね」

「まあな、念のためだ。できる対処はしておきたい」

「わかりました」

 在香が俺の袖を、
 ――いつもより強く引いた。
 指先だけ冷たい。
 何も言わねぇのに圧だけ伝わる。




 俺は執務室に戻り、脱税犯のリストに目を落としていた。
 おかしい。

 妙に引っ掛かりやがる。
 何かを見落としている。

 俺は確かに魔導探知でたまたまこの男の場所へ飛んだ。
 その前になんで、この男の様子を見に行ったのか?

 本当に単なる偶然か?
 資料をくまなくみて、再度三面図を見た。

 もう存在していないが直近の姿は反映されている。

「これかっ!」

「どうしたの是明」

 思わず声を上げちまった。
 これだ。こいつだ。違和感の正体は。

「見つけたぞ」

「え?」

「違和感の正体だ」

「どういうこと?」

 在香のその表情、久しぶりに見たな。
 わからなさ過ぎて困惑顔。
 たまにはいい顔しやがるぜ。

「以前、俺と在香で神族の研究施設行ったよな?」

「ええ、あの時のことね。それがどうかしたの?」

「あの時見つけたもんがあった」

「見つけた? 何を?」

 資料の三面図を指した。
 それは、あの時の奇妙なマークだ。

「エリザがその場にいたから、間接的に関与しているんだろうな」

「これは?」

「土下座して屁こいた画像に見えるが、オルツプロジェクトのマークだ」

 在香が思わず眉をひそめる。

「……え、何その例え。それが今回の件と?」

「大ありだ。こいつのローブにそのマークが誤解なく複数書かれている」

「でも変ね。普通それだけ慎重なら、書くにしてもこっそりなのでは?」

「これは彼らが誇示したいのかもな。これができるのは自分たちだけだと」

 スマポが震え、空間に小さな光の窓が開く。存子だ。

「そうですー! 是明さまのいうとおりです」

「自己顕示欲の塊だろ? あいつらって」

「まさにそうです。よく見つけましたね」

「要は動いた結果として、女神の逆鱗に触れたというわけか」

「そうだと思います。たとえ全く力が及ばない物だとしても、これはダメだと思います」

「だろうな。俺たちには関係がまったくないな」

 やりたきゃ勝手にやりゃいいが、
 それで、未納や脱税で仕事増やさねぇでくれ。
 まあ、あとは器探しが身内に及ばなければ、あとはどうでもいいな。

「はい。神族がそれをしようという考えそのものが淘汰されるように、殲滅されると思います」

「神族はいいとして、天使たちの情報は何かないか?」

「変わらず14区では、勇者と天使は拮抗している様子です」

 俺は机を指で思わずトントンと叩く。
 嫌な予感しかしねぇ。

「あいつ等もコソコソ何かやってそうだな」

 マジでやらかしそうだな。
 おいおい頼むぜ、やるなよ?

「天使ですか? 勇者ですか?」

「天使だ。勇者は(建前上は)深淵の女神直属の兵だからな。
今は女神がひと柱だけだしな……本来なら、目を光らせててもおかしくねぇだろう?」

「そうでもないですよ? この間捕まった連続強姦魔は、勇者です」

「な? マジか?」

「勇者の威厳を使いやりたい放題の奴らもいます」

「勝てば官軍、負ければ賊軍。これを地でヤッてる奴らか」

「そうですね。ゲス・クソ野郎どもです」

「官僚地域が比較的マシってヤツか」

「今のところはそうですね。鮮度の高い神肉と天使肉もここだけです」

「勇者圏の肉はまずいのか?」

「はい、クソまずいです。泥を固めて焼いた感じで、ゲロの匂いと苦味しかないかと」

「すげーたとえだな。名前からしてよさそうなんだが」

「ポイントなしで食える肉はヤバイです!」
 
 ……まあ食わねぇけどな。
 アレ食う気になったら終わりだろ。

「しかしよお、食文化一つとっても、地域差がでけぇよな」

「ええ、そうですね。ここは官僚の地ならではの特色がありますし」

「存子、お前って食の話だと、テンション上がるよな」

「ええ、上がります。いつか味わえたらと夢見ております。
ちなみに、アウリア大陸はもともと“光明の女神”と“深淵の女神”で領域が分かれていたのですが――」

「光明の女神は、もういねぇけどな」

「はい。ですが、光明の女神が治めていた側は“人基準”の文化だけは残っていて、
どうしても味付けが地味になりがちです」

 なんだ? 残念極まりない表情なんてするんだな。
 ごちそう逃したみてぇーな面ってやつか。
 
「存子、元気だせや」
 
「ありがとうございます。今は、女神がまとめて納税しないので、未納多発地帯。マジでクソです。
そのせいで、徴税局の支部がアウリア各地に点在しているわけです」

「相変わらずロクでもねぇな、あの辺りは。まぁ納税さえされりゃ文句はねぇんだが」

「逆に、深淵の女神が直に収めている側は、楽ですよね」

「ああ。深淵側は女神がまとめて納税してくれるからな。
俺たち本庁は基本ノータッチだ。
アウリアの光明側は光明側で、支部が死ぬ気でやってる」

 それにしても、どうにも見えねぇな。
 天使の連中は、とりあえず神族の欲しい物を奪っておいた感じだな。
 確か天使らの狙いは、全種族統一だよな?
 そんで神族は世界の支配か。

 どっちでもいいけどよぉ。
 マジ納税しろよな。

 存子の窓がふっと消え、部屋には俺と在香だけが残った。
 静かすぎる。さっきまでの喧騒が嘘みてぇだ。

 俺は椅子にもたれて天井を眺める。
 覗き込むようにして在香が笑む。

「どうしたの?是明」

「いやな、天使も神族も面倒だなってな」

「他種族だから?」

「いんや、納税しろよってな」

「何それ。ふふ。納税さえすれば、後は気にしない?」

「いや、大事なヤツにちょっかいかけてきたら潰す」

 在香の目が、ほんの一瞬だけ笑った。
 すぐいつもの顔に戻ったけどな。

「あなたらしいわね」

「そういうわけだ。何かされたら全力で火の粉を振り払う。それだけだ」

「そうね」

 なんだ妙だな。
 在香はなんでそんなに朗らかなんだ?
 わけわかんねぇぞ。

 ……あの朗らかさ、逆に怖ぇな。
 あいつ、何か決めた顔してやがる。

 まあいい。あとで聞くか。
 今は仕事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...