一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第二章 旅立ち

第四話 疑問

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日が落ちかけた夕暮れ時。

ラルフの思惑は結局叶わず、もう一日、泊まることになった。

それもこれも早めに行動しなかった自分が悪いわけだが、用意に手間取ったと言い訳もしたくなる。

ミーシャはラルフに選んでもらった服に着替え、るんるん気分で先を行く。ミーシャの出で立ちは、新衣装に替わっていた。

麻の生地を使った白を基調とした長袖の服。手の甲が隠れるくらいの長さで指がチラリと見える。

胸とお腹のちょうど真ん中あたりに服を絞るためのひもが備え付けられ、裾が簡単にめくれ上がらないようにリボン結びに結っていた。パンツは暗い灰色でくるぶしまで隠れるタイプを採用し、スカートはやめた。

気分に合わせて変えてもらえればと思い、一応ワンピースと他一着の計三着を購入したが、せっかくラルフが選んだのだからとパンツ姿だ。

革靴とサンダルをそれぞれ購入したが、ずっとヒールを履いていて、足がキツかった経験から、ミーシャは裸足でいたいと申し出た。

いくら傷がつかないと言っても、裸足では周りの目が気になるので、せめてサンダルを履いてもらう事になった。

クロークを羽織り、寒さ対策も完了。
一見地味だが、機能性に長けた服装だ。

正直センスなど皆無。
男の子の衣装と言っても差し支えないが、ミーシャの女の子らしい部分がそれを否定する。

「ラルフー!はやくはやくー!」

はしゃぐミーシャを見て「喜んでるし、まいっか」という気持ちでラルフは駆け足でミーシャに近寄る。

アルパザは吸血鬼騒動が過ぎてから平和そのものだ。露店が立ち並び、大きな声で集客している。

「らっしゃいらっしゃい!!うちの揚げ物は美味しいよぉ!」

中でも食べ歩きに最適な揚げ物専門店が大きな声を張り上げていた。

「おっ!ラルフじゃねぇか!どうだい一つ」

店主はラルフを見つけると声をかけてきた。

「何やら美味しそうだな。ラルフ、あれはなんだ?」

「ん?お嬢ちゃんが噂の子か。この食いもんは油で揚げた、サクサクの食いもんさ!うまいぞぉ!」

店主はミーシャに対して警戒心なく揚げ物を差し出す。ラルフがミーシャを町の中で自由に歩かせるため町民にダークエルフを助けたと嘘をついているためだ。

ミーシャにも口裏を合わせてもらっているため難なくアルパザデビューを飾れた。

「そうなのか?食べてみたい!」

ラルフに目をキラキラさせて懇願する。

「ん、了解。おやっさんそれ二つ宜しく」

「まいど!」

まだ湯気が立つ揚げ物を、紙に包んで渡される。
わざわざ熱々を選ぶあたり店主の人の好さがうかがえる。

「ありがとう。おじさん!」

「ほぉー元気のいい子だねぇ!そんないい子にはサービスしちゃう!」

店主はミーシャにもう一つ揚げ物を渡す。
ミーシャは目を輝かせて受け取る。

「うわぁ!ありがとー!!」

もちろん感謝を忘れない。ミーシャもこの町の好待遇にノリノリで少女を演じる。

ラルフはミーシャに対して「調子良い奴」と、内心思うが、別に負の感情はなかった。むしろ自分が魔王だからと、偉ぶらない、不和をまき散らさない、そんな都合がいいほど殊勝なミーシャには感心と感謝の念があるくらいだ。

強いて言うならこことは違う路地裏の方に感じる睨みつける様な、嫌な視線が気に食わない。

それもそのはず、吸血鬼と魔王がひそかにこの町に侵入し、町民をたばかっているせいだ。
そのことがより一層気に食わない守衛のリーダーは物陰から様子を見ていた。

三日の猶予を与え、明日ラルフ一行はようやくこの町を去る。その前にひと悶着あっても困る為、この二日間じっと観察していた。

ラルフは約束通り吸血鬼を外に出さず、また他の騒ぎも起こしていない。良くコントロールできている事に感心するが、逆に、言っちゃ悪いがどうしてラルフ如きに操縦できるのか全く理解しがたい。

とにかく不安でいっぱいで、早く出て行ってほしい反面、出て行った後、アルパザは今後も無事に何事もなく生活できるのか心配だった。

黒曜騎士団団長が言ったセリフが頭から離れない。

『アルパザは結局戦場になる!』

それが事実なら荷物をまとめてまた違う土地に平和を求めて旅立つべきである。ラルフの見解では単なる脅しとして捉えているが、ラルフの見解など信用できない。

しかしだからと言って、すぐにすぐ用意できるわけもない。好きな異性がいるし、部下たちだって放っておけない。この事を知るのは町民では自分だけなのだ。

この自分だけという孤独感が焦燥を生んでいた。

そんな一人の男の機微など知らないラルフはとにかくいい加減にしてほしい気持ちだった。この嫌な気配を人であるラルフが感じて、ミーシャが感じないわけがない。リーダーの和を乱す行動こそ、災いの種であると思っている。

「ラルフ。早く食べよ!」

ミーシャは変わらず笑顔を振りまく。
そんな事などつゆ知らないといった感じで。

店主に別れを告げ、”綿雲の上”まで移動する。
食べた揚げ物はミーシャにとっても絶品で、舌鼓を打っていた。食べ終わった後は余韻を楽しんでいたのか、途端に無口になった。

「…食べないのか?それ」

ミーシャは店主から二個揚げ物を貰っていた。
一つはぺろりと食べたが、もう一つは持ったままだ。

「うん。ベルフィアに上げようと思って…」

ミーシャはベルフィアを思い、残してあげたようだ。
ベルフィアとの関係もかなり良くなった。
最初こそ傲岸不遜な態度を崩さなかったのに、今となっては上下関係はあるが、ミーシャ自ら友達のように接していた。

「そうか、優しいな。全く考えてなかったわ」

ベルフィアは食事こそ普通に取るが、血が好物である以上満たされることはないらしい。
それを聞いた時、食費が浮いたと内心喜んだものだ。
まぁミーシャ的には見捨てられた小動物にエサを与える感覚に近いのだろうからあえて突っ込まず好きなようにやらせる。ベルフィアも拒まないから安心だ。

「…ラルフ…」

「ん?」と思ってミーシャを見ると隣にいない。
振り返ると、ミーシャが立ち止まっていた。

「どうしたミーシャ?」

暗い顔をして俯いている。
ラルフはミーシャに近づいてちょっと腰を下げて
視線を合わせる。

「…大丈夫か?」

突然の揚げ物のせいで胸やけを起こして気持ち悪いとかそんなのだろうか?とりあえずミーシャから言葉を聞くまでは決めつけないことにする。

最近人と接していなかったせいで、空回りし続けていた為、知的生物と接する時は、先読みはやめることにした。

「…私はどうしたらいいのかな…人類は私の敵だったのにこんなに良くしてもらえて…魔族は私の味方だったのに裏切られて…」

ミーシャは今まで起こらなかった事態に対し、対応しきれず、自問自答してフリーズしてしまっていた。

子供の頃から破格の強さを誇った彼女は、周りから恐れられるのが普通だっただけに、整合性が合わずチグハグになったのだろう。

きっとミーシャは服屋の店員やおやっさんの人情味あふれる人柄と、路地裏の痛い視線との板挟みのせいで妙な気分になったのだ。言っちゃなんだが柄じゃない。

正直、暴力装置として動いていた昔の自分の方が考えることも少なく楽だったとまで考えている。

「…答えはないよ」

ミーシャは「え?」という顔でラルフを見る。

「正確に言えば、君の好きなように生きるのが答えかな。魔族に傾こうが、人に寄り添おうが自由さ。どんなことにも正解があり、後悔がある。俺は自由人だし、好きなように生きてきたから俺の意見なんざ聞く必要もないんだけど、ミーシャが決めて進む道が失敗でも成功でもそれが答えだと思ってるよ」

「自分の進む道が答え…」

ミーシャは噛み砕くようにつぶやく。
魔王として敷かれたレールの上を進んでいたミーシャは国を思い、脱線することがなく生きてきたのに、突然レールを外されたのだ。不安にもなる。

ラルフはミーシャの肩に手を置いて、ミーシャの目を見る。

「ミーシャはミーシャだ。不安なら一緒に考えよう」

笑顔を見せて、頭をなでる。不安を感じる子供を落ち着かせるような行動を示す。ミーシャは自分よりかなり年上だろうが、見た目から言動から何故かこっちの方が大人な気がしてこのような接し方をしてしまう。

ミーシャも別に嫌がったりしない。
不安で幼児退行している可能性もある。

「さ、戻ろう。ベルフィアが待ってる…」

ミーシャの背中に手を回した時、寒気が走った。
それはミーシャから発せられている。

ラルフは一瞬ヤバいと思ったが、あまりの事に金縛りにあったように動かなくなった。

「ラルフ…あなたも感じた?」

「は?」と思うが、ミーシャは振り向いて遠くの方を眺める。それを震えながら目で追って、ラルフも振り向く。

空に浮かぶ黒い点が見えた。

「あれは一体…」

ミーシャは揚げ物をラルフに押し付ける。ラルフは取り落としそうになりながら受けとると、ミーシャに目を向ける。

「おい!なんだよ!」

「渡しといて、ちょっと行ってくる」

ミーシャは突然浮遊し始めた。
みるみる内に上昇するミーシャ。

どうして飛んだのか、何故離れていくのか。

もう一度、黒い点に目を向けるとその数は異常だった。空を多い尽くす黒い影。

ラルフは直感的に気付く。

「……魔族だ…魔族が攻めてきやがった!」
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