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一話 転生の経緯
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「長かった……ここに来るまで本当に長かった……!」
ここはイース王国、軍事都市アルスターにある騎士学校。校門を見上げた私は深い溜息をついた。
今日は待ちに待った騎士学校の入学試験! 私――アイリーン=オハラは、この日に人生を賭けていた。
それというのも、私はド田舎の貧乏農村出身。日々の生活は辛く、厳しかった。
私が育ったレット村は、控えめに言ってもかなり貧乏だった。せっかく育った農作物も徴税で持っていかれるから、主食はライ麦で作られたボソボソの黒パンと、カブやビーツの塩漬け。あるいは味のしないほど薄められたスープばかり。
おかげで物心ついた頃から、私は常にお腹が空いていた。
でも私には、持って生まれた珍しい能力があった。
その名も【怪力】! ……って、自分でもそのまんまやないかいってツッコミを入れたくなる。だけど実際、そうとしか言えないんだから仕方がない。
この能力のおかげで獣やモンスターを自力で狩り、獣肉やモンスター肉を食べるようになった。おかげで最近ではあまり空腹にならなかったけど。
しかし私は満足していない。満足できる筈もない。
何故なら私は前世の記憶を覚えている。六歳の時、畑仕事の最中に頭を打って前世の記憶を取り戻した。
前世の私は日本で暮らす、十八歳の女子高生だった。ごく普通の、オタク趣味を持つ平凡な女子。
強いて違うところをあげるとすれば、コミュ障気味で友達が少なかったってことかな。そんなどこにでもいるような学生だった。それなのに……。
***
――ツルッ。ガスッ。
「ぎゃんっ」
ある日、私は死んだ。
自宅の玄関先で滑り、縁石に後頭部を打ち付けて死んでしまったのだ。
『おお、なんということだ……』
ふと気付くと真っ暗な空間で、神様を名乗る……美青年? 美女? よく分からないけど、中性的な美形と対峙していた。
『お前はまだ死ぬ運命になかったというのに、何もないところで転んだだけで死んでしまうとは……なんと虚弱な』
『え!? 私、死んじゃったんですか!?』
『後頭部がぱっくり割れて死んだ。即死だった』
『うわあ……ていうか、本来なら死ぬ予定じゃなかったんですか?』
『ああ。本来なら百歳まで生きる予定だった』
『かなりの長寿ですね。単純計算で、あと八十二年は生きる予定だったんじゃないですか!……それじゃあ、生き返らせてもらえるんですか?』
『いや』
神がパチンと指を慣らすと、暗い空間にテレビのモニターのようなものが浮かび上がる。
見た感じ、火葬場のようだ。棺が火葬炉に入っていく。見送る人々の中には、私の両親の姿もあった。
『あれがお前。たった今火葬が行われた。お前の本体はもう燃えてしまった。生き返るには手遅れだ』
『ひいいぃぃ! エンチャント・ファイアアァァァー!?』
『見ろ、お前の骨が出てきたぞ。ほう、色白で形がしっかり残っているな。若く健康だった証拠だな』
『なんてことしてくれるんですかあああ!? 火葬された自分の骨なんて、絶対に拝みたくなかったんですけどおぉ!?』
『仕方がないだろう! ここは現世とは時間の流れが違うのだ! 第一、毎日どれほどの死人が出ると思っているのだ! 私が管轄しているのは人間だけではないのだぞ! 植物や虫に至るまで、魂を有する者の転生はすべてこの私――転生を司る神が管理しなければならないのだ! 連日の激務を考えれば、いくら神でも失敗ぐらいするわ!』
『うわあ、開き直って逆切れしたよ』
神様がそれでいんですか。疑問の眼差しを向ける。神様はハッとしたように咳払いをして、佇まいを直した。
『……まあいい。とにかくお前は死ぬ運命ではなかった。かといって生き返ることもできん。そこで代わりに特殊能力を与えて転生させてやろう。ちょうどお前たちの世界で流行っているんだろう。異世界転生。喜べ、来世のお前は勝ち組だ』
『忙しい割にくだらないことは知っているんですね』
『何か言ったか?』
『い、いえ、何も!』
ここで神様の機嫌を損ねるのは得策じゃない。ここは神様に話を合わせよう。
それに、現世にそこまで未練があるわけじゃない。
両親の仲は冷え切っていたから、家は居心地がいい場所じゃなかった。
かといって、友達もそんなにいなかった。数少ない友達も表面上の付き合いって感じだし。
もちろん恋人もいない。夢や目標があったわけでもない。転生して特殊能力が得られるのなら、生き返るよりずっと魅力的だよね。
『それにしても転生か、どんな条件がいいかな? 最近の流行だと、ヨーロッパ風の世界で貴族令嬢? 最強の魔力を持つ聖女様も捨てがたいな! あっ、中華風の後宮で知識無双もいいかも! うーん、転生と言ってもいろんな転生先があるよね。しかも特殊能力まで与えてもらえるなんて、何にするか迷っちゃうなあ!』
『転んだだけで死んでしまったお前には、強靭な肉体と類まれなる怪力を与えてやろう』
『ちょ、私の希望は無視ですか!?』
『問答無用! 他にも仕事が山積みなのだ! この能力ならどんな世界でも生きていけるだろうから、転生先の世界はランダムで決定する。……よし、特殊能力付与完了したぞ! さあ転生だ!』
『いやあああぁーーッ!?』
……と、こんな下らないやり取りを経て、私は転生した。
ここはイース王国、軍事都市アルスターにある騎士学校。校門を見上げた私は深い溜息をついた。
今日は待ちに待った騎士学校の入学試験! 私――アイリーン=オハラは、この日に人生を賭けていた。
それというのも、私はド田舎の貧乏農村出身。日々の生活は辛く、厳しかった。
私が育ったレット村は、控えめに言ってもかなり貧乏だった。せっかく育った農作物も徴税で持っていかれるから、主食はライ麦で作られたボソボソの黒パンと、カブやビーツの塩漬け。あるいは味のしないほど薄められたスープばかり。
おかげで物心ついた頃から、私は常にお腹が空いていた。
でも私には、持って生まれた珍しい能力があった。
その名も【怪力】! ……って、自分でもそのまんまやないかいってツッコミを入れたくなる。だけど実際、そうとしか言えないんだから仕方がない。
この能力のおかげで獣やモンスターを自力で狩り、獣肉やモンスター肉を食べるようになった。おかげで最近ではあまり空腹にならなかったけど。
しかし私は満足していない。満足できる筈もない。
何故なら私は前世の記憶を覚えている。六歳の時、畑仕事の最中に頭を打って前世の記憶を取り戻した。
前世の私は日本で暮らす、十八歳の女子高生だった。ごく普通の、オタク趣味を持つ平凡な女子。
強いて違うところをあげるとすれば、コミュ障気味で友達が少なかったってことかな。そんなどこにでもいるような学生だった。それなのに……。
***
――ツルッ。ガスッ。
「ぎゃんっ」
ある日、私は死んだ。
自宅の玄関先で滑り、縁石に後頭部を打ち付けて死んでしまったのだ。
『おお、なんということだ……』
ふと気付くと真っ暗な空間で、神様を名乗る……美青年? 美女? よく分からないけど、中性的な美形と対峙していた。
『お前はまだ死ぬ運命になかったというのに、何もないところで転んだだけで死んでしまうとは……なんと虚弱な』
『え!? 私、死んじゃったんですか!?』
『後頭部がぱっくり割れて死んだ。即死だった』
『うわあ……ていうか、本来なら死ぬ予定じゃなかったんですか?』
『ああ。本来なら百歳まで生きる予定だった』
『かなりの長寿ですね。単純計算で、あと八十二年は生きる予定だったんじゃないですか!……それじゃあ、生き返らせてもらえるんですか?』
『いや』
神がパチンと指を慣らすと、暗い空間にテレビのモニターのようなものが浮かび上がる。
見た感じ、火葬場のようだ。棺が火葬炉に入っていく。見送る人々の中には、私の両親の姿もあった。
『あれがお前。たった今火葬が行われた。お前の本体はもう燃えてしまった。生き返るには手遅れだ』
『ひいいぃぃ! エンチャント・ファイアアァァァー!?』
『見ろ、お前の骨が出てきたぞ。ほう、色白で形がしっかり残っているな。若く健康だった証拠だな』
『なんてことしてくれるんですかあああ!? 火葬された自分の骨なんて、絶対に拝みたくなかったんですけどおぉ!?』
『仕方がないだろう! ここは現世とは時間の流れが違うのだ! 第一、毎日どれほどの死人が出ると思っているのだ! 私が管轄しているのは人間だけではないのだぞ! 植物や虫に至るまで、魂を有する者の転生はすべてこの私――転生を司る神が管理しなければならないのだ! 連日の激務を考えれば、いくら神でも失敗ぐらいするわ!』
『うわあ、開き直って逆切れしたよ』
神様がそれでいんですか。疑問の眼差しを向ける。神様はハッとしたように咳払いをして、佇まいを直した。
『……まあいい。とにかくお前は死ぬ運命ではなかった。かといって生き返ることもできん。そこで代わりに特殊能力を与えて転生させてやろう。ちょうどお前たちの世界で流行っているんだろう。異世界転生。喜べ、来世のお前は勝ち組だ』
『忙しい割にくだらないことは知っているんですね』
『何か言ったか?』
『い、いえ、何も!』
ここで神様の機嫌を損ねるのは得策じゃない。ここは神様に話を合わせよう。
それに、現世にそこまで未練があるわけじゃない。
両親の仲は冷え切っていたから、家は居心地がいい場所じゃなかった。
かといって、友達もそんなにいなかった。数少ない友達も表面上の付き合いって感じだし。
もちろん恋人もいない。夢や目標があったわけでもない。転生して特殊能力が得られるのなら、生き返るよりずっと魅力的だよね。
『それにしても転生か、どんな条件がいいかな? 最近の流行だと、ヨーロッパ風の世界で貴族令嬢? 最強の魔力を持つ聖女様も捨てがたいな! あっ、中華風の後宮で知識無双もいいかも! うーん、転生と言ってもいろんな転生先があるよね。しかも特殊能力まで与えてもらえるなんて、何にするか迷っちゃうなあ!』
『転んだだけで死んでしまったお前には、強靭な肉体と類まれなる怪力を与えてやろう』
『ちょ、私の希望は無視ですか!?』
『問答無用! 他にも仕事が山積みなのだ! この能力ならどんな世界でも生きていけるだろうから、転生先の世界はランダムで決定する。……よし、特殊能力付与完了したぞ! さあ転生だ!』
『いやあああぁーーッ!?』
……と、こんな下らないやり取りを経て、私は転生した。
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