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12.「vsエビルガーゴイル(四天王最強)」
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時は少し遡って。
「次が四人目だよね、四天王? 全員倒したら、どうなるの?」
「魔王の居場所が分かる、と言われているわ」
僕たちは、オースバーグ王国王都ロマノシリングで絶品のポトフに舌鼓を打った後、更に西方へ馬車で移動、〝エルフ・ドワーフ連合国〟にあるエルフの森へと向かっていた。
「魔王?」
「すっごく強い存在で、モンスターたちの親玉よ。ボスってやつね。魔王を倒したら、修行は終了よ」
「うう……怖い……大丈夫かなぁ?」
「くすっ。大丈夫よ、ルド君なら。それに、強くなるんでしょ?」
「うん、強くなる! 泣き虫も卒業する!」
「じゃあ、頑張らなきゃね」
「うん! 僕、頑張る!」
御者台で僕を膝に乗せるお姉ちゃんは「そうそう」と、思い出したようにつぶやいた。
「そう言えば、ルド君、またレベルアップしてたわよ。LV 300になってたわ!」
「また上がった! やったああああああ!」
「くすっ。固有スキル〝呼吸〟が<LV 2>になっているわ。あと、〝パンチ<LV 1>〟っていうのも獲得しているわね」
「固有スキル〝パンチ〟、カッコ良い!」
「それと、私もLV 178になっていたわ」
「一緒に上がった! わ~い!」
「フフフ……ここまでレベルが上がれば、そう簡単に暗殺されることもないわよね……上手く利用してこの旅を続けてきて、本当に良かったわ」
「え?」
「ううん、何でもないわ。気にしないで」
最後、声が小さ過ぎてよく聞こえなかった僕が小首を傾げると、お姉ちゃんは微笑んで首を横に振った。
※―※―※
「悪いけど、今はエルフの森には誰も入れないんだぞ」
鬱蒼と生い茂った巨大な森の入口にて。
弓矢を背負った長い銀髪の綺麗なエルフ少女が、申し訳なさそうに告げる。
お姉ちゃんと同い年くらいだろうか、クリクリとした大きな瞳が印象的だ。
「どうして?」
「みんなが四天王に石――じゃなくて、それは秘密なんだぞ」
僕の問いに、危うく〝秘密〟を話しそうになるエルフ少女。
「腕、どうしたの?」
見ると、彼女の左腕は石化していた。
「こ、これは……その……筋トレのし過ぎて、硬くなり過ぎたんだぞ!」
「そうなんだぁ! 筋トレやってるけど、僕はそんな風になったことないや! お姉さんはすごいね!」
「そんな訳ないでしょ! 騙されちゃ駄目よ、ルド君!」
「え? 嘘なの?」
エルフ少女は、「このフィオレラの嘘を見破るだなんて、あんた中々やるぞ!」と目を見開き、「いや、バレバレでしょ」と、お姉ちゃんは溜め息をつく。
「だけど、どこの誰か分からない奴らに、これ以上エルフ族の情報を教えることは出来ないんだぞ!」
頑ななフィオレラさんに対して、お姉ちゃんは切り札を出した。
「私はメアリー。この子はルド君。私たちは〝ルドメア〟よ!」
「〝ルドメア〟!? あの四天王を次々と撃破していると噂の!? 言われてみると確かに、〝幼気な男の子を無理矢理連れ回す女〟という情報にあんたたちはピッタリなんだぞ!」
「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
〝ルドメア〟の知名度は抜群で、フィオレラさんは「あんたたちなら大丈夫だと思うんだぞ。中に入って良いぞ」と言って、森の中へと入れてくれた。
歩きながら周囲を観察してみると、森の中には、巨木の枝の上に家が建っていたりと、自然と調和する形で暮らしているのが分かる。
ただ、幾つかの家屋は壊れており、倒れている木もある。
最近何かがあったのは明らかだ。
「ちょっと、フィオレラ! 今このタイミングで人間を森の中に入れるって、どういうつもり!?」
そんな風に目くじらを立てるエルフ仲間たちも、「この人たちは〝ルドメア〟だぞ!」とフィオレラさんが言うと、「あの有名な!? 確かに見た目が噂通りだわ! それならしょうがないわね」と、納得してくれた(フィオレラさんが代わりに森の入り口の見張りを頼んだ人も、同じような反応だった)。
本当、〝ルドメア〟さまさまだ!
それにしても、木の上から呼び掛けるエルフの人たちはみんな、腕や脚など、どこか身体の一部が石化している。どういうことなんだろう?
「あんたたちなら、話しても良いと思うぞ。えっと、その……実はエルフは、その身体を食べることで莫大な魔力を手に入れることが出来るからと、モンスターから度々狙われているんだぞ。前族長は、その命を賭して一族を守り、散ったんだぞ。そして今は、若き族長に交代しているんだぞ」
フィオレラさんが、エルフの現状を説明してくれる。
「三日前に、三百匹のモンスターが空から襲って来たので、全員で迎撃しにいったんだぞ。問題なくモンスターは駆逐出来たんだけど、みんなの気が緩んだ隙を突かれて、四天王最強のエビルガーゴイルに襲われたんだぞ」
「四天王最強! エビルガーゴイル……!」
「〝石化〟の固有スキルを持っている厄介な奴だぞ。エルフ族は危うく全滅するところだったけど、現族長が庇ってくれたおかげで、みんな部分的に石化するだけで済んだんだぞ」
「族長さん、すごい!」
「そう、すごいんだぞ! エルフ一族の誇りなんだぞ!」
フィオレラさんが豊かな胸を張る。
「でも、身体の一部が石になっちゃうの、辛いよね。大変そう」
「いや、確かに不便だけど、一番問題なのは、石化そのものじゃないんだぞ。一日ごとに〝膂力〟と〝魔力〟が封じ込まれていくのが本当に厄介なんだぞ。三日経った今では、みんな弓矢も使えず、魔法も使えなくなってしまったんだぞ……」
項垂れるフィオレラさん。長い耳が垂れ下がっている。
「ここに入るんだぞ」
僕らは、一際大きな木の幹の内部に造られた家の中へと、案内された。
見張りのエルフの人たちの横を素通りして、寝室へと入っていくと。
「彼女が姉ちゃ――現族長のリーフィーだぞ」
「「!」」
ベッドの上には、全身が完全に石化したエルフ女性が寝かされていた。
銀髪ショートヘアのリーフィーさんは、さすが姉妹なだけあって、見開いたまま固まった瞳も、その顔も、フィオレラさんとよく似ていた。フィオレラさんよりも少し大人っぽい感じだ。
「三日前の襲撃以来、エビルガーゴイルは襲ってきていない。恐らくは、石化の副作用によって、フィオレラたちが膂力と魔力を封じられるを待っていたんだぞ。三日経って十分に無力化出来たから、いつまた襲ってきてもおかしくない。だからみんなピリピリしてたんだぞ」
フィオレラさんの瞳には、悲しみと怒りが滲む。
「どうやったら、石化は解けるの?」
「本来なら、高位の神官の祈祷によって解くことも出来るんだぞ。でも、それは通常のモンスターの話。四天王最強なんていうとんでもないレベルの相手に掛けられた石化は、術者を――エビルガーゴイルを倒すしかないんだぞ。でも……フィオレラたちは全員、力を封印されちゃってるんだぞ……姉ちゃんを救いたいのに……救えないんだぞ……!」
上に向けられた彼女の右の手の平に小さな氷が生まれるも、一瞬で粉々になり霧散する。
唇を噛む彼女は、悔しさと無力感から、その頬を涙が伝う。
「僕たちが、エビルガーゴイルを倒すよ!」
彼女の涙を目にした瞬間、気付いたらそう宣言していた。
「あんたたちが……?」
僕は、「うん!」と胸を張った。
「こんなことするの、許せないから! リーフィーさんも、みんなの石化も、僕たちが解いてみせる!」
「本当に……?」
「私たちは〝ルドメア〟よ? 今まで四天王を三人倒してきたわ。四天王最強だろうがなんだろうが、関係ないわ!」
「ルド……メアリー……」
フィオレラさんは、ぐしぐしと涙を拭うと、顔を上げた。
「ありがとう! 恩に着るんだぞ!」
歯を見せるフィオレラさん。
やっとフィオレラさんの笑顔を見ることが出来た。
「敵襲だ!」
「「「!」」」
慌てて建物の外に出ると。
「ガギャギャギャ! 〝四天王最強〟のエビルガーゴイルが地獄に送ってやるガ! 〝空の覇者〟の力、思う存分味わうガ!」
森の上空に現れたのは、角と牙が二本ずつ、黒翼が一対、長い黒尻尾があり、目が赤い、身長二メートルで〝悪魔〟のような見た目のモンスターだったが、それだけではなく。
「そんな!? 三日前よりも更にモンスターの数が多いんだぞ! 何匹いるんだ!?」
「みんな気を付けて! 千匹いるわ!」
「千匹!?」
ハーピーとワイバーンによる空襲専用モンスターたちが、空を埋め尽くしていた。
あんなにたくさん……!
こ、怖い……
「ぐすっ」
涙が出ちゃう……
「このエビルガーゴイルの前に、まずはモンスター軍の力を見せ付けてやるガ! このために、かなり魔力を使って召喚魔法を発動したガ! 今なら生意気なエルフどもも、弓矢も使えず、魔法も発動出来ず、ただ耳が長いだけの無能集団と化しているガ! お前たち、やってしまうガ! めそめそ泣いてるそこの人間のガキも一緒にだガ!」
「「「「「ピイイイイ!」」」」」
「「「「「ガアアアア!」」」」」
一斉に急降下してくる空のモンスターたちに。
「神さま、お願いします! エルフの森を守って下さい!」
僕が〝お祈り〟すると、森全体が防御魔法の光に包まれた。
ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ
「「「「「ピイッ!?」」」」」
「「「「「ガアッ!?」」」」」
ハーピーとワイバーンたちは、魔法障壁に阻まれて、それ以上進むことが出来ない。
「これは一体!? そこのガキ、何したガ!?」
その問いには答えず、僕は、「固有スキル〝呼吸〟!」と叫ぶ。
僕の声に呼応して、僕とお姉ちゃんの背中から一時的に翼が生えてきて、僕らは防御魔法の光を通り抜けて、高空へと舞い上がっていく。
「この固有スキルのおかげで、空気が薄い上空でも呼吸が出来るんだ!」
「いや、どう見てもそれ、〝翼を生やして飛ぶためのスキル〟だガ! 〝呼吸〟がおまけみたいになってるガ!」
「リーフィーさんやフィオレラさんたちに酷いことをして! 許さない!」
「いや、話聞けガ!」
エビルガーゴイルは、「まぁ良いガ。術者であるお前を倒せば、防御魔法も消えるガ。エルフたちはそれからじっくり殺せば良いガ。エルフの肉を喰えば膨大な魔力が手に入り、エビルガーゴイルのモンスター軍団は、史上最強になるガ!」と、口角を上げた。
「お前たち、まずはこのガキをやってしまうガ!」
「「「「「ピイイイイ!」」」」」
「「「「「ガアアアア!」」」」」
同時に襲い掛かってくる千匹のモンスターを真っ直ぐに見据えた僕は、腰を落として、右拳を引いた。
「固有スキル〝パンチ〟!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
「………………へ?」
突き出した拳から生み出されるは、千の衝撃波。
千匹のモンスター軍団は、全て空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「ガキ! 一体何したガ!?」
「固有スキル〝パンチ〟だよ!」
「いやいやいや! 今の〝パンチ〟っていうか、凄まじい衝撃波だったガ! しかも、同時に千個も生み出されてたガ! ワイバーンなんて並みの冒険者だったら数人掛かりでも手こずるのに、五百匹一気に倒されたガ! おかしいガ!」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
「行くよじゃないガ! 無視するなガ!」
こうして、僕らと四天王最強エビルガーゴイルの戦いが始まった。
「次が四人目だよね、四天王? 全員倒したら、どうなるの?」
「魔王の居場所が分かる、と言われているわ」
僕たちは、オースバーグ王国王都ロマノシリングで絶品のポトフに舌鼓を打った後、更に西方へ馬車で移動、〝エルフ・ドワーフ連合国〟にあるエルフの森へと向かっていた。
「魔王?」
「すっごく強い存在で、モンスターたちの親玉よ。ボスってやつね。魔王を倒したら、修行は終了よ」
「うう……怖い……大丈夫かなぁ?」
「くすっ。大丈夫よ、ルド君なら。それに、強くなるんでしょ?」
「うん、強くなる! 泣き虫も卒業する!」
「じゃあ、頑張らなきゃね」
「うん! 僕、頑張る!」
御者台で僕を膝に乗せるお姉ちゃんは「そうそう」と、思い出したようにつぶやいた。
「そう言えば、ルド君、またレベルアップしてたわよ。LV 300になってたわ!」
「また上がった! やったああああああ!」
「くすっ。固有スキル〝呼吸〟が<LV 2>になっているわ。あと、〝パンチ<LV 1>〟っていうのも獲得しているわね」
「固有スキル〝パンチ〟、カッコ良い!」
「それと、私もLV 178になっていたわ」
「一緒に上がった! わ~い!」
「フフフ……ここまでレベルが上がれば、そう簡単に暗殺されることもないわよね……上手く利用してこの旅を続けてきて、本当に良かったわ」
「え?」
「ううん、何でもないわ。気にしないで」
最後、声が小さ過ぎてよく聞こえなかった僕が小首を傾げると、お姉ちゃんは微笑んで首を横に振った。
※―※―※
「悪いけど、今はエルフの森には誰も入れないんだぞ」
鬱蒼と生い茂った巨大な森の入口にて。
弓矢を背負った長い銀髪の綺麗なエルフ少女が、申し訳なさそうに告げる。
お姉ちゃんと同い年くらいだろうか、クリクリとした大きな瞳が印象的だ。
「どうして?」
「みんなが四天王に石――じゃなくて、それは秘密なんだぞ」
僕の問いに、危うく〝秘密〟を話しそうになるエルフ少女。
「腕、どうしたの?」
見ると、彼女の左腕は石化していた。
「こ、これは……その……筋トレのし過ぎて、硬くなり過ぎたんだぞ!」
「そうなんだぁ! 筋トレやってるけど、僕はそんな風になったことないや! お姉さんはすごいね!」
「そんな訳ないでしょ! 騙されちゃ駄目よ、ルド君!」
「え? 嘘なの?」
エルフ少女は、「このフィオレラの嘘を見破るだなんて、あんた中々やるぞ!」と目を見開き、「いや、バレバレでしょ」と、お姉ちゃんは溜め息をつく。
「だけど、どこの誰か分からない奴らに、これ以上エルフ族の情報を教えることは出来ないんだぞ!」
頑ななフィオレラさんに対して、お姉ちゃんは切り札を出した。
「私はメアリー。この子はルド君。私たちは〝ルドメア〟よ!」
「〝ルドメア〟!? あの四天王を次々と撃破していると噂の!? 言われてみると確かに、〝幼気な男の子を無理矢理連れ回す女〟という情報にあんたたちはピッタリなんだぞ!」
「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
〝ルドメア〟の知名度は抜群で、フィオレラさんは「あんたたちなら大丈夫だと思うんだぞ。中に入って良いぞ」と言って、森の中へと入れてくれた。
歩きながら周囲を観察してみると、森の中には、巨木の枝の上に家が建っていたりと、自然と調和する形で暮らしているのが分かる。
ただ、幾つかの家屋は壊れており、倒れている木もある。
最近何かがあったのは明らかだ。
「ちょっと、フィオレラ! 今このタイミングで人間を森の中に入れるって、どういうつもり!?」
そんな風に目くじらを立てるエルフ仲間たちも、「この人たちは〝ルドメア〟だぞ!」とフィオレラさんが言うと、「あの有名な!? 確かに見た目が噂通りだわ! それならしょうがないわね」と、納得してくれた(フィオレラさんが代わりに森の入り口の見張りを頼んだ人も、同じような反応だった)。
本当、〝ルドメア〟さまさまだ!
それにしても、木の上から呼び掛けるエルフの人たちはみんな、腕や脚など、どこか身体の一部が石化している。どういうことなんだろう?
「あんたたちなら、話しても良いと思うぞ。えっと、その……実はエルフは、その身体を食べることで莫大な魔力を手に入れることが出来るからと、モンスターから度々狙われているんだぞ。前族長は、その命を賭して一族を守り、散ったんだぞ。そして今は、若き族長に交代しているんだぞ」
フィオレラさんが、エルフの現状を説明してくれる。
「三日前に、三百匹のモンスターが空から襲って来たので、全員で迎撃しにいったんだぞ。問題なくモンスターは駆逐出来たんだけど、みんなの気が緩んだ隙を突かれて、四天王最強のエビルガーゴイルに襲われたんだぞ」
「四天王最強! エビルガーゴイル……!」
「〝石化〟の固有スキルを持っている厄介な奴だぞ。エルフ族は危うく全滅するところだったけど、現族長が庇ってくれたおかげで、みんな部分的に石化するだけで済んだんだぞ」
「族長さん、すごい!」
「そう、すごいんだぞ! エルフ一族の誇りなんだぞ!」
フィオレラさんが豊かな胸を張る。
「でも、身体の一部が石になっちゃうの、辛いよね。大変そう」
「いや、確かに不便だけど、一番問題なのは、石化そのものじゃないんだぞ。一日ごとに〝膂力〟と〝魔力〟が封じ込まれていくのが本当に厄介なんだぞ。三日経った今では、みんな弓矢も使えず、魔法も使えなくなってしまったんだぞ……」
項垂れるフィオレラさん。長い耳が垂れ下がっている。
「ここに入るんだぞ」
僕らは、一際大きな木の幹の内部に造られた家の中へと、案内された。
見張りのエルフの人たちの横を素通りして、寝室へと入っていくと。
「彼女が姉ちゃ――現族長のリーフィーだぞ」
「「!」」
ベッドの上には、全身が完全に石化したエルフ女性が寝かされていた。
銀髪ショートヘアのリーフィーさんは、さすが姉妹なだけあって、見開いたまま固まった瞳も、その顔も、フィオレラさんとよく似ていた。フィオレラさんよりも少し大人っぽい感じだ。
「三日前の襲撃以来、エビルガーゴイルは襲ってきていない。恐らくは、石化の副作用によって、フィオレラたちが膂力と魔力を封じられるを待っていたんだぞ。三日経って十分に無力化出来たから、いつまた襲ってきてもおかしくない。だからみんなピリピリしてたんだぞ」
フィオレラさんの瞳には、悲しみと怒りが滲む。
「どうやったら、石化は解けるの?」
「本来なら、高位の神官の祈祷によって解くことも出来るんだぞ。でも、それは通常のモンスターの話。四天王最強なんていうとんでもないレベルの相手に掛けられた石化は、術者を――エビルガーゴイルを倒すしかないんだぞ。でも……フィオレラたちは全員、力を封印されちゃってるんだぞ……姉ちゃんを救いたいのに……救えないんだぞ……!」
上に向けられた彼女の右の手の平に小さな氷が生まれるも、一瞬で粉々になり霧散する。
唇を噛む彼女は、悔しさと無力感から、その頬を涙が伝う。
「僕たちが、エビルガーゴイルを倒すよ!」
彼女の涙を目にした瞬間、気付いたらそう宣言していた。
「あんたたちが……?」
僕は、「うん!」と胸を張った。
「こんなことするの、許せないから! リーフィーさんも、みんなの石化も、僕たちが解いてみせる!」
「本当に……?」
「私たちは〝ルドメア〟よ? 今まで四天王を三人倒してきたわ。四天王最強だろうがなんだろうが、関係ないわ!」
「ルド……メアリー……」
フィオレラさんは、ぐしぐしと涙を拭うと、顔を上げた。
「ありがとう! 恩に着るんだぞ!」
歯を見せるフィオレラさん。
やっとフィオレラさんの笑顔を見ることが出来た。
「敵襲だ!」
「「「!」」」
慌てて建物の外に出ると。
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「みんな気を付けて! 千匹いるわ!」
「千匹!?」
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ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ
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その問いには答えず、僕は、「固有スキル〝呼吸〟!」と叫ぶ。
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「いや、どう見てもそれ、〝翼を生やして飛ぶためのスキル〟だガ! 〝呼吸〟がおまけみたいになってるガ!」
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「いや、話聞けガ!」
エビルガーゴイルは、「まぁ良いガ。術者であるお前を倒せば、防御魔法も消えるガ。エルフたちはそれからじっくり殺せば良いガ。エルフの肉を喰えば膨大な魔力が手に入り、エビルガーゴイルのモンスター軍団は、史上最強になるガ!」と、口角を上げた。
「お前たち、まずはこのガキをやってしまうガ!」
「「「「「ピイイイイ!」」」」」
「「「「「ガアアアア!」」」」」
同時に襲い掛かってくる千匹のモンスターを真っ直ぐに見据えた僕は、腰を落として、右拳を引いた。
「固有スキル〝パンチ〟!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
「………………へ?」
突き出した拳から生み出されるは、千の衝撃波。
千匹のモンスター軍団は、全て空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「ガキ! 一体何したガ!?」
「固有スキル〝パンチ〟だよ!」
「いやいやいや! 今の〝パンチ〟っていうか、凄まじい衝撃波だったガ! しかも、同時に千個も生み出されてたガ! ワイバーンなんて並みの冒険者だったら数人掛かりでも手こずるのに、五百匹一気に倒されたガ! おかしいガ!」
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