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12 握る人
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フラールはお茶を置きながらマイゼルたちの土下座を思い出していた。
「お三方に婚姻前に釘を刺せたことはよかったのかもしれませんわね」
「ふふ。『手綱を握る』とは良くできたお言葉だと思いませんかっ?」
「「本当にそうですわね(ねぇ)」」
「暴れ馬になったら放逐してしまえばいいのですものぉ」
「「それはいいですわね」」
メイドたちは心の中で彼らのことを少しだけ不憫に思った。
「馬も長く飼えば情は湧きますものね」
「「ええ」」
微笑んで首肯する。
「長く飼えるとよろしいのですがっ。うふふ」
三人の笑い声が鈴のように鳴る。
『お嬢様に情を持ってもらえる可能性があるなら上等ね』
メイドたちは先程不憫に思ったことをなかったことにする。大好きなお嬢様を少なからず傷つけただろうことは赦せない。
「そういえば、随分と懐かれた気がいたしますわ」
「「ええ。わたくしも」」
彼らは彼女たちに熱い視線を送ってくるようになっていた。
マイゼルたちは騒動の後に自宅で両親から婚約者について聞かされ、婚約者の大きな心で守られていたことを理解する。
「まるで親鳥を見る雛のようですわぁ」
卒業式の後、毎週末に婚約者の家を訪れ再教育の内容などを嬉々として報告している。彼女たちはそれを笑顔で聞いてあげているのであった。
彼らはこれまでは何があっても結婚するのだからと本気で彼女たちを深く知るのは結婚後でいいと考えていた。これを機に彼女たちを知り、どんどんと惹かれていっていた。
「「「プッ!!!」」」
流石のメイドたちも馬の次に雛と言われて吹き出してしまった。フラールたちも一緒になって笑っていた。
彼らは彼女たちを深く知っていっているつもりだが、それさえも彼女たちの掌の上だ。『親鳥』にはその意味も含まれていることはここにいる者たちは理解している。
「ニーナ様にお幸せになっていただきたいですねっ」
「妾婚でいただく準備金より、今回の謝罪金の額が多くなるようですもの。後はヘンリ男爵様にお任せするより無いですわ。
そういえば、ダリス公爵様―マイゼルの父親―がニーナ様のお相手をお探しになっていらっしゃるそうですの」
「それは手厚い支援ですわねぇ」
メリナとダリアーナはびっくりしていた。
「ニーナ様は、あの場でもマイゼル様をお選びになられたようなお話をなさっておりましたでしょう。ダリス公爵様はマイゼル様の責任を重くお感じになっていらっしゃるのですわ」
「ですが、公爵様のお名前でご婚姻をおすすめになって、公爵様は大丈夫なのですかっ?」
ニーナは憎めない少女であったが、知識も常識もなく貴族夫人としてはあのままでは無理そうであった。
「一ヶ月の修道院生活で随分と変わられてきたと報告が入っておりますわ。知識のある女性からの指導が良い方に作用したようですの」
学園の教師はみな男性である。妾の話を女子生徒にできるわけもない。
美少女たちをご覧になってわかるように、この国では女性が強い。そうと言ってもそれは家庭内の立場であり、パーティーなどでは暗黙の了解となっているにすぎない。女性の社会的地位はまだ低く、学園には女性教師は存在していなかった。
「まあ! それでなのかもしれませんわっ。妹が学園入学早々に女子生徒だけ、シスターによる授業が二時間ほどあり、第二夫人のことや妾婚についての説明を受けたそうですわっ」
「下位貴族のみなさまは家庭教師をお付けになれないですものねっ」
「メイドも平民の方では、その制度について理解しているわけはございませんものぉ」
第二夫人や妾婚は貴族令嬢にとってはある意味『仕事』の一つであるのだから、理解しておくべきであろう。
「知らないという理由でご不幸になる方が減るといいですわね」
三人の美少女たちは小さくため息をついて、落ち着くためにお茶を口にした。
彼女たちのお茶会は結婚した後も続きそうだ。
〰️ 〰️ 〰️
半年後、執事は冷静な口調で許可を出した。
「お勉強期間を半年と考えれば、ギリギリの合格ラインです。お嬢様方のご都合も鑑みまして、婚姻は許可いたしましょう。
ですが、まだ安心して領地経営をお任せできるほどではございません。ご婚姻後もお勉強は続けていただきます」
「「「はいっ! よろしくお願いしますっ!」」」
三人は使用人である執事に深々と頭を下げた。
こうして三組は無事に婚姻した。合同結婚式を行い、とても豪華な結婚式であった。
披露パーティーの席では、卒業パーティーで踊らなかった三組が卒業式で着た揃いの装いに着替え招待客の前で素晴らしいダンスを披露した。彼らは愛おしげに彼女たちを見つめながら踊っていた。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
次回最終話です。
最後までよろしくお願いします。
「お三方に婚姻前に釘を刺せたことはよかったのかもしれませんわね」
「ふふ。『手綱を握る』とは良くできたお言葉だと思いませんかっ?」
「「本当にそうですわね(ねぇ)」」
「暴れ馬になったら放逐してしまえばいいのですものぉ」
「「それはいいですわね」」
メイドたちは心の中で彼らのことを少しだけ不憫に思った。
「馬も長く飼えば情は湧きますものね」
「「ええ」」
微笑んで首肯する。
「長く飼えるとよろしいのですがっ。うふふ」
三人の笑い声が鈴のように鳴る。
『お嬢様に情を持ってもらえる可能性があるなら上等ね』
メイドたちは先程不憫に思ったことをなかったことにする。大好きなお嬢様を少なからず傷つけただろうことは赦せない。
「そういえば、随分と懐かれた気がいたしますわ」
「「ええ。わたくしも」」
彼らは彼女たちに熱い視線を送ってくるようになっていた。
マイゼルたちは騒動の後に自宅で両親から婚約者について聞かされ、婚約者の大きな心で守られていたことを理解する。
「まるで親鳥を見る雛のようですわぁ」
卒業式の後、毎週末に婚約者の家を訪れ再教育の内容などを嬉々として報告している。彼女たちはそれを笑顔で聞いてあげているのであった。
彼らはこれまでは何があっても結婚するのだからと本気で彼女たちを深く知るのは結婚後でいいと考えていた。これを機に彼女たちを知り、どんどんと惹かれていっていた。
「「「プッ!!!」」」
流石のメイドたちも馬の次に雛と言われて吹き出してしまった。フラールたちも一緒になって笑っていた。
彼らは彼女たちを深く知っていっているつもりだが、それさえも彼女たちの掌の上だ。『親鳥』にはその意味も含まれていることはここにいる者たちは理解している。
「ニーナ様にお幸せになっていただきたいですねっ」
「妾婚でいただく準備金より、今回の謝罪金の額が多くなるようですもの。後はヘンリ男爵様にお任せするより無いですわ。
そういえば、ダリス公爵様―マイゼルの父親―がニーナ様のお相手をお探しになっていらっしゃるそうですの」
「それは手厚い支援ですわねぇ」
メリナとダリアーナはびっくりしていた。
「ニーナ様は、あの場でもマイゼル様をお選びになられたようなお話をなさっておりましたでしょう。ダリス公爵様はマイゼル様の責任を重くお感じになっていらっしゃるのですわ」
「ですが、公爵様のお名前でご婚姻をおすすめになって、公爵様は大丈夫なのですかっ?」
ニーナは憎めない少女であったが、知識も常識もなく貴族夫人としてはあのままでは無理そうであった。
「一ヶ月の修道院生活で随分と変わられてきたと報告が入っておりますわ。知識のある女性からの指導が良い方に作用したようですの」
学園の教師はみな男性である。妾の話を女子生徒にできるわけもない。
美少女たちをご覧になってわかるように、この国では女性が強い。そうと言ってもそれは家庭内の立場であり、パーティーなどでは暗黙の了解となっているにすぎない。女性の社会的地位はまだ低く、学園には女性教師は存在していなかった。
「まあ! それでなのかもしれませんわっ。妹が学園入学早々に女子生徒だけ、シスターによる授業が二時間ほどあり、第二夫人のことや妾婚についての説明を受けたそうですわっ」
「下位貴族のみなさまは家庭教師をお付けになれないですものねっ」
「メイドも平民の方では、その制度について理解しているわけはございませんものぉ」
第二夫人や妾婚は貴族令嬢にとってはある意味『仕事』の一つであるのだから、理解しておくべきであろう。
「知らないという理由でご不幸になる方が減るといいですわね」
三人の美少女たちは小さくため息をついて、落ち着くためにお茶を口にした。
彼女たちのお茶会は結婚した後も続きそうだ。
〰️ 〰️ 〰️
半年後、執事は冷静な口調で許可を出した。
「お勉強期間を半年と考えれば、ギリギリの合格ラインです。お嬢様方のご都合も鑑みまして、婚姻は許可いたしましょう。
ですが、まだ安心して領地経営をお任せできるほどではございません。ご婚姻後もお勉強は続けていただきます」
「「「はいっ! よろしくお願いしますっ!」」」
三人は使用人である執事に深々と頭を下げた。
こうして三組は無事に婚姻した。合同結婚式を行い、とても豪華な結婚式であった。
披露パーティーの席では、卒業パーティーで踊らなかった三組が卒業式で着た揃いの装いに着替え招待客の前で素晴らしいダンスを披露した。彼らは愛おしげに彼女たちを見つめながら踊っていた。
〰️ 〰️ 〰️
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次回最終話です。
最後までよろしくお願いします。
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