神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
1 / 150
まずは…

01 ー プロローグ

しおりを挟む
 二十代後半の青年を異界への扉から異世界へと送り出した直後、白を基調としたこの神域にある大きな邸内の大広間では、二柱の神と一人の三十代前半だろう青年が、それぞれ違う表情を浮かべながら対峙していた。

「ルシリューリク、先程の『あっ!』と言うのは一体…?」

 ここの主である関東を統括する男神は、目の前でヘラヘラしている異世界の神、ルシリューリクに対して地を這う様な声で問いかけた。室内に差し込む光の加減で、黒にも紺色にも見える髪の毛がサラリと音を立てながら統括の神の肩から胸元にかけて滑り落ちる。
 その一歩後ろでは、黒い細身のスーツをきっちりと着ている青年が、ルシリューリクに対して「このゴミ虫が」と言わんばかりの目を向けている。
 一見するとただの小学校中学年の男の子に見えるルシリューリクは、極限まで機嫌が悪くなっているであろう神と青年に対して、ニコニコしながらすっとぼけた。

「えー?僕、そんなこと言ったっけ?」
「お主、まだ若いであろうに、もう耄碌してしもうたのか。お主が『神の料理番』が必要だと駄々を捏ねるから、我らは仕方無しに誠をそちらの世界に送ったのだ。まだお主の世界は不安定だが安全に送り届けると言う約束であったであろう」

 統括の神は眉間を思いきり寄せながら子供に向かって凄むが、背後からの絶対零度の冷気が凄い。統括の神は、怒りながらも背中に冷や汗をかくという矛盾する体験をしていた。
 そもそもの原因は、目の前のクソガキだ。
 統括の神は、送り出した誠という青年の一族…特に遠野の祖達に大恩があり、かつ自分の料理番としても重宝しているので、それはそれは丁寧に旅支度に必要な物を用意した。背後で控える青年、陰陽省職員の相模もそうだ。
 あのクセの強い遠野一族にしては物腰が柔らかく、そして料理のリクエストもよく聞いてくれる。彼と彼の兄は、そんな遠野の祖の血が色濃く出ている割には、遠野一族の潤滑剤的な立ち位置なので、統括の神と相模にとってはありがたい存在なのだ。
 それに、『神様の料理番』という職業はとかくいろんなモノに狙われやすい。兄弟揃って祖の血が特に色濃く出ており、そのため特別目をかけている。
 遠野は一族の結束が強く、先祖返りの者は特に祖達の庇護下に入る。なので、遠野を敵に回すと厄介なのだ。
 その厄介を見事引き寄せたのが、目の前に、居る。
 遠野の兄弟だけでも戦力はかなり大きいが、問題は遠野の祖だ。未だに健康で若い姿を保ち、かつ片方だけでも戦力過多なのに、両方揃うともう手がつけられない。小さな神域なぞ神ごと跡形もなく吹っ飛ぶだろう。
 恐らく、ルシリューリクも平手一発で消滅するだろうと統括の神はみている。

「当初の"約束"はすでに"契約"として成っている。覆されることはない。諦めろ。貴様が何をミスしたのか知らぬが、送り出した誠に傷一つでもつけてみろ。あの遠野一族からの報復は免れぬぞ」

 そう怖い表情を浮かべながら統括の神が忠告したが、ルシリューリクは若さゆえの全能感なのか元からチャランポランなのか、まだヘラヘラとしながら大丈夫だとたかを括っている。

「やだなー、ちゃんと僕の世界に到着してるから大丈夫だよ。それに僕は神だよ。その遠野一族?そんな一族が僕にどうやって攻撃するのさ。これだから、地球の神って歳ばっか喰ってて頭硬いのが多いんだから~」
「なっ…!貴様…」

 その言い草に瞬間的に怒りが頂点に達した神は、ルシリューリクの胸ぐらを掴もうとした。しかしそれは、青年にその腕を掴まれたことによって阻まれてしまう。

「相模…何ゆえ邪魔をする…」
「神よ。百十五年前の神議りで決まったことをお忘れですか。"神間の、正当な理由なき暴力は禁止"と」
「しかし…」

 引き下がらない統括の神を相模はギッと睨み、その耳元に顔を寄せる。

「先に約束を破ったのは向こうです。"神は契約を破ることは出来ない"。貴方も知っているでしょう。それに、我々はことの顛末を遠野の祖に報告する義務があります」

 そう小声で言うと、相模は元の位置に戻った。
 相模のおかげで頭が冷えた神は、髪をバサリと後ろに払う。

「相談事は終わった~?僕を傷付けるイコール、向こうの世界の破壊だからね。丁重に扱ってよね。じゃあ、そろそろ向こうに戻るね~」

 最後までヘラヘラしっぱなしだったルシリューリクは、そう言いながら神域から消えて行った。
 残された神と相模は、同時に溜息を吐く。

「クソッ…だから創造神などと言う神は面倒臭い」
「そうですね。この地球とは成り立ちが違いますから、どうしても自己中なのが多いので本当に面倒臭いです死ねば良いのに」

 笑顔なのだが目の奥が笑っていない相模は、息を吐くのと同じように毒を吐き出す。
 明治の頭に廃止になったが秘密裏に復活した陰陽省だが、近年新たな業務となったものの中に「異世界に無理やり召喚された地球の人間を連れ戻す」というものがある。相模は職員になった当初から統括の神の付き人の様な立ち位置だが、そういった業務も兼ねているために行く先々の異世界でいろんな神を見ている。そのため、創造神は相模の地雷だ。自己中が多いので、話が進まないからだ。

「相模よ…お主、怖いぞ」
「は?何がですか?とにかく誠君のご家族に説明へ…いや、先に出雲の温泉宿ですか。先程の顛末を伝えに行かないと」
「…何も悪いことはしておらぬのに、怒られるのは我らか」
「ええ、それが中間管理職と言うものでしょう。本当に無事に誠君が到着しているのか疑わしいですが、落ち着いたら携帯鳥居で連絡をくれると信じましょう。ほら、行きますよ。牡丹さんか諏訪様が間違って島根を爆心地にしないためにも…!」
「確かにな。しかし、中国地方の地形が変わるのを抑えるのは我の仕事…か」
「ええ、ええ、そうですよ。頑張ってくださいね。手土産の菓子折りはもう用意していますので」

 どこから出したのか、相模はしっかりと高級洋菓子店の紙袋を手にしている。

「はー…流石よの」

 仕事の早い相模に関心しながら、神は相模と共に出雲の温泉宿へと向かった…誠の無事を祈りながら。ついでに、自分達が五体満足でこの神域に戻れることも祈りながら。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。 第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...