神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
43 / 150
バターの微笑み

04 − 銀色の狼

しおりを挟む

 騎士団は別の門から入るということで、誠は城門の隣に小さく作られた門からセーヴルの街に足を踏み入れることとなった。
 北の港街ということだが、建物は白い塗装がされていて、オレンジや明るい茶色の屋根が並んでいる。

「何か地中海っぽいな」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でも。北の港街って言うから、もっと暗い色合いかと思ってたんだ」

 顔を覗き込んでくるアレクセイに、誠は少し慌てた。

「ああ。スルト辺境伯の領地の一つに、良い土が出る村があるんだ。そこの煉瓦を使っているからだろう」
「辺境伯領って、いくつもの街や村があんの?」

 いまいち貴族社会に明るくない誠は、首を傾げる。領地の一つということは、辺境伯は日本で言うと区長や市長ではなく、都知事や県知事なのだろうか。

「そうだな。確か辺境伯は、この港街と…三つの村が領地だったか」
「へー」

 なるほどと聞きながらも、誠の目はアレクセイと通りの店を行ったりきたりしている。遊びに来ているのではないのは分かっているが、知らない場所というのは楽しいし、どうしても散策したくなる。
 アレクセイはそれに気付いたのか、苦笑いをしながら誠の頬をそっと撫でた。

「時間があれば、一緒に街を回ろうか」
「おう。よろしく」

 ソワソワしているのがバレた誠は、開き直ってアレクセイに笑いかけた。

「班長、それって港も行きますか?」

 前を歩くレビが振り返る。

「レビ、班長のデートに着いて行くのか?無粋な奴だな」
「ち、違うって!港に行くんなら、どうせマコトは魚介類とか買うだろ。晩飯のメニューが気になってだな…」

 オスカーに慌てて言い訳をするレビに、ルイージが冷ややかな目線を送っていた。

「はぁ…本当に、無粋でバカですか。僕達の夕飯は関係無いでしょうが」
「だってさぁ…ルイージも楽しみにしてるじゃねぇかよ」
「だってもクソもありません!マコトさんは善意で僕達のご飯を作ってくれているんです。班長とのデートに僕達の夕飯は関係無いじゃないですか」
「まあまあ…」

 ヒートアップしそうな二人の言い合いに、誠が止めに入る。そこまで楽しみにして貰えているのは嬉しいし、港も見てみたいからレビの言う通り、魚介類を買いまくって夕食に出すだろうことを自分でも予想できる。
 デートという言葉に擽ったさを感じるが、ルイージやうんうんと頷いているオスカーとドナルドがここまで自分に心を配ってくれていることも嬉しかった。

「しかし、マコト…」

 食い下がるルイージの肩を、誠はポンポンと叩く。

「そう言ってくれんのは嬉しいけどさ、俺、いつでもスイーツと料理のこと考えちまうんだよ。それに、皆が美味しそうに食べてくれるのが嬉しいから、気にしないで」
「…そうですか?」
「そうそう」
「マコトの言う通りだ。それに俺は、マコトが楽しそうならそれで良い。お前は気にせず、時間が空いたらレビとデートでもすればどうだ?」

 アレクセイの援護射撃に、頬を赤く染めたルイージが撃沈した。普段は毅然とした態度を取りながらも笑みを絶やさない彼にしては、珍しい光景だ。

「まさか班長が、そんなことを言うなんて…」
「僕、初めて聞きましたよ、オスカー先輩…」

 コソコソと話すオスカーとドナルドの会話が聞こえてしまい、誠は思わず笑ってしまった。
 話している間に、辺境伯の邸の前に着いたようだ。邸を守るようにそびえる外壁は頑丈そうで、ここが街の要だと知らしめているみたいだ。誠は日本の城とは違う造りに、密かに感心していた。
 外壁の内側が気になるも誠は中に入れないので、アレクセイ達が辺境伯に会う間は暇になる。
 アレクセイは誠を一人にするのは不安だと少々取り乱していたが、自分は子供ではないと誠に言われたので押し黙ってしまった。結局アレクセイの連絡鳥と一緒に行動することで、決着が着いた。

「マコト…」

 耳と尾を垂らし、キューンという声が聞こえてきそうなアレクセイが、往生際悪く誠を引き止めようとする。
 無関係な自分が辺境伯に会えるはずがないし、会ってどうするんだ。誠は心を鬼にして、アレクセイの額にデコピンをかましてやった。

「痛っ…」
「我儘言うなよ。俺は関係無いんだっつーの」
「しかし…セーヴィルは今までの村とは違い、人が多い。マコトは美人だから、目を付けられるに決まっている」

 アレクセイにそう言い切られると、悪い気はしない。しかし、それとこれとは別だ。

「あのさぁ、これでも俺、身持ちは固い方なんだけど」

 それでも信じられないのか?と言外にアレクセイを睨み付けると、アレクセイは誠を腕の中に閉じ込めてしまった。

「それは…分かっている。しかし、君に声をかける奴ら全てが憎い…」
「あのー…マコト、あんま班長を怒ってやんなよ。ヴォルク家のヒトって、みーんな班長みたいな感じだ
そうだから」
「え、マジで?」

 今、オスカーが恐ろしいことを言った気がする。
 誠は何とか動く首を、オスカーの方に向けた。

「そうですね。僕達犬系獣人は、ツガイが何よりも大事ですが、ヴォルク家は、その…」
「何、ルイージ。途中で止められると、余計に怖いんだけど」
「ああ、すみません。その、ヴォルク家は…ツガイ至上主義と言いますか、ツガイこそ我が命と言いますか。ツガイが居れば百人力、ツガイに手を出すと食い殺されると言う伝説が、まことしやかに囁かれていると言いますか…」
「マコトだけに…」

 言葉を濁そうとして失敗したルイージをフォローしたかったのか、レビの言葉に一瞬だけ空気が凍った。
 全員がジト目でレビを見る中、誠は頭を抱えたくなった。
 アレクセイの…いや、ヴォルク家の症状は、どこかで聞いたことのある話だ。「ここまで執着されるのは、慣れるしかないな」と遠い目をしながら九本の尾を揺らしていた始祖を思い出しながら、誠はアレクセイの背をポンポンと叩く。

「仕事しろ」

 キッパリと言い捨てて、するりとアレクセイの腕から逃れた誠はアレクセイをオスカーに任せ、さっさと人混みの中へ消えて行った。
 こういう時は、突き放すに限る。身内を見て学んだ方法だった。

 大きな街は、店の数も種類も多い。日本とは違う、ヨーロッパ風の色合いや商品の陳列の仕方、雑貨の模様を見ながら、誠は店を冷やかしながら通りを歩いていた。

「なあ、屋台が集まってるとこって分かるか?」

 誠の居場所は、アレクセイに借りっぱなしになっているブレスレッドで分かるようになっている。少し遅れて自分の元にやって来た連絡鳥に、誠は聞いてみた。

「チュン?…チュン!」
「お、分かるのか。どっち?」

 ある程度の言葉が分かるのか、肩に止まった連絡鳥は、少し考えてあっちだと言うように羽で示す。誠は鳥に礼を言うと、その指示に従って進んだ。
 屋台は複数の場所にあるらしく、十字路に差し掛かると鳥は三法を示した。見れる所は見てみたかったので、誠は一番近い所から制覇することにした。
 港街なので魚料理が多いかと思っていた屋台だが、意外と肉料理も多い。そこらから魚や肉の焼ける良い匂いが上り、さっきから誠の胃を刺激している。

「そろそろ昼飯の時間だもんなー」
「チュン」

 合意するように鳥が鳴く。誠は指で優しく鳥の胸元を撫でながら、屋台を見て回った。気になった物はどんどん買ってはマジックバッグに入れる。それを繰り返しながら三箇所の屋台群を攻略した頃には、誠はヘトヘトになっていた。

「そろそろどっかで、ご飯にするか」
「チュン!」

 食べ歩きをしても良かったのだが、一応研究も兼ねていたのだ。食べることに集中してしまっては、元も子もない。誠は今居る広場のベンチに座り、バッグから肉の串焼きを取り出した。
 連絡鳥には、自家製のライ麦パンを一切れ用意する。皿に乗せてベンチに置いてやると、鳥は誠の頬に嘴をちょんと付け、ゆったりとベンチに下りた。

「礼のつもりかな?」

 足で器用にパンを押さえながら啄むのを見ながら笑っていると、誠の上に影が落ちてきた。
 何か用だろうか。アレクセイの予感が的中かと顔を上げたが、どうやら要らぬ心配だったらしい。

「よう、兄ちゃん。また会ったな」

 目の前には、ミョート村に入る時に会った、犬系獣人のおっちゃんが居た。
 覚えていたのは職業柄というのもあるが、おっちゃんの立派でフサフサした尾も理由だ。アレクセイ程ではないが、オッサンにしては手入れが行き届いていたからだ。

「おっちゃん…どうも。おっちゃんもこの街に?」
「おう。さっき着いたばかりだ。すぐに寄らないといけない所があるんだが、先に腹拵えよ」

 そう言いながら笑うおっちゃんの手には、屋台で買ったであろう紙袋が山盛りになっている。誠が隣を勧めると、おっちゃんは「あんがとよ」と言いながら座った。

「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はレイナルドだ」
「俺はマコトと言います」
「マコトか。ここらじゃ聞かない名前だな。確か、マコトは東の方の出だったか?」
「よく覚えてましたね」
「そりゃあ、こんだけ美人なんだ。覚えもするさ」

 ニカっと笑うレイナルドに、嫌味もいやらしさも無い。 誠は徐々にレイナルドに対して警戒心を解いていった。

「こっちの方って、そうやって褒めるのが主流なんですか?」
「いーや。兄ちゃんみたいに美人さんにしか、褒めねぇよ。何だ、誰かに言われたのか?」
「ええ、まあ」

 さすがに、初対面の狼に跪かれて指にキスされたとは言えない。
 誠が言葉を濁して答えると、レイナルドは笑みを濃くした。

「そうか…相手は銀色の狼ってとこ、かな」
「…え?」

 いつの間にか、レイナルドの笑みは誠を探るようなものに変わっている。これは一体、どうしたものか。誠はレイナルドの出方を探るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。 第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...