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バターの微笑み
07 ー 銀色の狼
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「…ト、マコト」
甘く低い声と小さな振動で、誠は目を覚ました。
いつの間にか眠っていたのだろう。アレクセイが部屋に入って来たのも気付かなかった。
「んー…終わった?」
誠が目を擦りながら聞くと、その手を取ったアレクセイはそのまま誠の指に口付けた。
「ああ、さっきな。待たせてしまったか」
「全然。フランシスさんが庭の案内してくれたし、街の歴史も少しだけど教えてもらったし。楽しかったよ」
「そうか。それなら良かった」
アレクセイは誠の隣に座り、当たり前のように誠の肩に腕を回した。眠っている間に少し冷えてしまったのか、アレクセイの体温が心地良い。誠は無意識にアレクセイに擦り寄ってしまった。
「落ちるぞ」
動いた時に膝の上からずれたのか、さっきまで見ていた本をアレクセイが取る。その瞬間、誠の頭は完全に起きた。
しまった…。
アレクセイの動きが止まっている。誠はミスを犯したことを痛感していた。
読んでいたのは、地球ならありふれた本だ。しかしこの世界の印刷技術は現代程でないことは、村にあった本屋で確認済みだ。活版印刷の物と写本が混在しており、やっとカラーインクでイラストが描写されているくらいだ。
大都市に行けばまた違うのだろうが、現代のように四色、もしくは五色以上を使ってカラー印刷された物はこの世界には無いだろう。
「あの…アレクセイ…」
誠が声をかけるも、アレクセイは本の表紙をじっと見たままだ。
お前は石川啄木かと思わないでもないが、動かないアレクセイの袖を引っ張る。それでやっと意識が戻ったのか、誠はアレクセイに勢いよく詰め寄られてしまった。
「マコト、何だこの本は。どんな技術を使っている?それに、この紙の手触りも何だ。そしてこの表紙の絵だ。君はこのスイーツも作れるのか?」
バサバサと動く尾で、アレクセイが興奮していることが分かる。
誠はどこから説明しようかと、頭を悩ませていた。
いい加減な説明もできなければ、これを説明するには誠の存在を明かさなければならない。そうしようと決意したのだが、時間が足りないのは明確だ。
「…時間、いつ取れる?」
アレクセイと、きちんと向かい合いたい。
誠の想いが伝わったのか、アレクセイは少し考えてから誠を抱き締めた。
「この街の事が終わってからとしか、言えないな。…マコト、君はいつか話してくれると言ったな。それか?」
「うん。ちゃんと俺を知って欲しいから。…アレクセイ、きっと驚くよ。でも、俺を嫌いにならないで」
それは誠の本心だった。ただの人間が自分をどう思おうと、関係なかった。自分は妖怪だからだ。
けれど、アレクセイだけは別だ。
誠がアレクセイの首に腕を回すと、アレクセイはゆっくりと誠の背中を撫でた。
「なるわけないだろう」
アレクセイは誠と視線を合わせ、小さくキスをする。
「…信じられないか?」
「分からない。俺は、こんな気持ち、知らないから」
「そうか…君の話を聞いて、俺の気持ちが変わらなければ、信じてくれるのか?」
「…多分?」
「だったら、それで良い。…そうしたら、俺の気持ちも告白させてくれ」
「分かった…」
澄んだアイスブルーに、熱が灯っている。誠はアレクセイの瞳から、目を逸らせないでいた。
言葉に出すことも、行動に移すことも大切だ。だが誠は、自分がアレクセイの言葉を奪っているのを自覚していた。
今までの状態でアレクセイに告白されていたら、きっと誠はアレクセイの前から姿を消していただろう。それを察していたのか、優しいのか、アレクセイは全てを待ってくれている。
誠は、待たせている自分が情けなくなった。
気分が沈んだ誠にいち早く反応したアレクセイは、誠の頬をくすぐる。
「マコト。この本を見てもかまわないか?」
「え?ああ、どうぞ」
察しが良いし、頭も良いのだろう。スマートに話題を変えたアレクセイに感服する。
誠はアレクセイに本を渡そうとしたが、腰を抱き寄せられてアレクセイの膝の上に乗せられてしまった。
「アレクセイ!?」
「生憎、君の国の文字は読めないからな。何が書かれているのか、教えてくれないか」
「…分かった」
耳にかかる吐息がくすぐったい。離さないと言うかのように腹に腕を回された誠は、抵抗することを諦めた。
きっと狼は、こうして自分をドロドロに甘やかして、離れられないようにしている。それに溺れてしまったのは自分だ。
アレクセイの胸に背中を預けながら、誠はページを一枚ずつ捲っていった。
結果的に、ウィーンのカフェやスイーツが載っているこの本は、アレクセイのツボだったようだ。
いろんな種類のケーキや焼き菓子に目を輝かせ、尾もブンブンと振られている。向こうのモーニングやケーキの作り方の項もお気に召したようで、誠にこれは作れるのか、こっちはどうだと何度も聞いていた。
練り切りの本もあるので、アレクセイに見せるとどんな反応をするんだろう。誠がそう考えていると、きゅう、とお腹が鳴ってしまった。
小さな音だったが、しっかり聞かれていたのだろう。アレクセイはクスリと笑うと、誠のお腹を撫でる。
「俺もお腹が空いているんだ。どうする?フランシスに用意してもらうか、どこかに食べに行こうか」
「…両方魅力的だけど、俺、貴族の食事マナーとか知らないぞ。食べに行こうよ」
「決まりだな。そしてそのまま、逗留用の邸に行こう」
「邸、あるんだ。俺はてっきり、アレクセイはここに泊まるんだと思ってた」
「泊まることもあるが、今回はマコトが一緒だしな。ヒトの出入りが少ない方が良いのだろう?…と言っても、邸はここの敷地内だがな」
「大丈夫。気ぃ使ってくれて、ありがとな」
きっとアレクセイは何か勘付いている。
誠はただただ、その配慮がありがたかった。
「それでは、行こうか」
アレクセイは誠を抱きしめたまま立ち上がると、そのまま腰を抱いて終始エスコートをしていた。
誠が連れて来てもらった店は、いわゆる大きな居酒屋のような店だった。美味い魚料理を出す店だとアレクセイは言っていたが、マナーを気にせずに食べられるからというのもこの店を選んだ理由だろうことは、誠には分かっていた。
店を出ると、夜の冷え込みに加えて海風が体から体温を奪っていく。
誠はバッグからマグカップを二つとピッチャーを取り出して注ぎ、一つはアレクセイに渡してやった。
「歩きながらって、ちょっと行儀悪いけどね」
「いや、俺達もよくやるから大丈夫だ。それにしても…これはワインか?」
「そうだよ。ホットワインって言うんだけど、呑んだことある?」
誠がピッチャーに仕込んでいたのは、ホットワインだった。各地のクリスマスマーケットではお馴染みの飲み物で、実家のカフェでも冬になれば夜だけのメニューとして登場するものだ。
日本ではホットワインの名称が定着しているが、これは和製英語で、ドイツだとグリューワイン、フランスではヴァン・ショと呼ばれている。
赤ワインにオレンジピールやシナモン、クローブなどの香辛料とシロップなどを加えて温めるので、飲みやすく、また体を温めるので、こんな夜にはぴったりだ。
「…少し甘いな。うん、美味い」
「あんまりアルコール飛んでないから、呑み過ぎには注意だけどな」
領主の邸に近付くにつれて、人通りは少なくなる。白い石畳が魔道具だろう街灯に照らされて、これだけでも幻想的だ。
お互いの熱を逃さないようにぴったりとくっ付き、誠はアレクセイと少しだけ二人きりの時間を楽しんでいた。
邸の門番に馬車を用意するか聞かれたが、もう少し二人で歩きたい気分なのはアレクセイも同じだったようで、そのまま高台を歩くことにした。
邸よりも一段低い所にあった騎士団の逗留用の館は三階建だが、これまで泊まった邸よりは小さかった。領の騎士団が住んでいる邸はまた別にあるそうで、ここは完全に王都騎士団用として独立していた。
装飾は最低限に抑えられているものの、エントランスの壁には数色のタイルが幾何学模様を描いており、街灯の淡い光が反射して夜ならではの姿を現していた。
「お帰りなさいませ」
アレクセイがドアを開けてくれると、腰を軽く折ったフランシスが出迎えてくれた。
「ああ、戻った。他の団員達は?」
何でもないようにアレクセイはコートをフランシスに渡しているが、この執事はずっとエントランス付近に居たのだろうかと誠は驚いている。こちらを見てきたフランシスに、何だろうと思っていると、アレクセイは小さく「コートを」と言ってきたので、誠は慌ててコートを脱いでマジックバッグだけ外した。
「お預かりしたコートは、後でお持ちしますので」
「分かりました。お願いします」
どうやら自分の話は先に行っているようで、誠の部屋も用意してくれているそうだ。フランシスを先頭に二階に上がり、部屋に案内される。そこでアレクセイと別れた誠は、ベッドにバフっとダイブをした。
しばらくゴロゴロしていると、ドアがノックされる。埃を払ってもらったコートをフランシスに渡されると、誠はついでとばかりに聞いてみた。
「フランシスさん、良かったら市場と教会の位置を教えてほしいんですけど」
「市場と教会ですね」
フランシスはジャケットの内ポケットから地図を取り出し、誠に見せてくれた。防犯のためか、邸のある高台は省略して描かれてあった。
「市場ですが、港の近くとこのお邸から少し離れた所の二箇所が、この街のメインの市場です。朝は五時頃から開いていますので、早朝のお散歩のついでに見るのもよろしいかと。教会は大通りを西にまっすぐ行きますと…こちらです」
フランシスの指が、道を辿る。どうやら邸の反対側にあるようだ。
「礼拝堂ならこちらの敷地内にございますよ」
「そうなんですね。そちらは見ることはできますか?」
「ええ、もちろん。明日お時間のよろしい時に、ご案内いたしましょうか」
「明日ですか…」
誠はしばし考える。予定は真っ白なのだが、アレクセイ達の動き次第で、少し変わってくる。そんな誠の様子を見ていたフランシスは、急がなくても良いと提案してきた。
「マコト様、アレクセイ様との擦り合わせもございましょう。決まりましたら、いつでもお声かけください」
「え…でも、フランシスさんも仕事があるでしょう?」
「いえいえ。私なんかは、他の者達の報告を纏めるだけですよ。ああ、後は旦那様の尻を叩くのも主な仕事ですがね」
「それは重労働ですね」
「ええ、毎回苦労しております」
パチリとウインクをする執事は実はおちゃめだったようで、誠はクスリと笑った。
それからフランシスに地図を貰い品揃えの良い店などを教えてもらうと、誠はアレクセイの部屋に向かうことにした。
甘く低い声と小さな振動で、誠は目を覚ました。
いつの間にか眠っていたのだろう。アレクセイが部屋に入って来たのも気付かなかった。
「んー…終わった?」
誠が目を擦りながら聞くと、その手を取ったアレクセイはそのまま誠の指に口付けた。
「ああ、さっきな。待たせてしまったか」
「全然。フランシスさんが庭の案内してくれたし、街の歴史も少しだけど教えてもらったし。楽しかったよ」
「そうか。それなら良かった」
アレクセイは誠の隣に座り、当たり前のように誠の肩に腕を回した。眠っている間に少し冷えてしまったのか、アレクセイの体温が心地良い。誠は無意識にアレクセイに擦り寄ってしまった。
「落ちるぞ」
動いた時に膝の上からずれたのか、さっきまで見ていた本をアレクセイが取る。その瞬間、誠の頭は完全に起きた。
しまった…。
アレクセイの動きが止まっている。誠はミスを犯したことを痛感していた。
読んでいたのは、地球ならありふれた本だ。しかしこの世界の印刷技術は現代程でないことは、村にあった本屋で確認済みだ。活版印刷の物と写本が混在しており、やっとカラーインクでイラストが描写されているくらいだ。
大都市に行けばまた違うのだろうが、現代のように四色、もしくは五色以上を使ってカラー印刷された物はこの世界には無いだろう。
「あの…アレクセイ…」
誠が声をかけるも、アレクセイは本の表紙をじっと見たままだ。
お前は石川啄木かと思わないでもないが、動かないアレクセイの袖を引っ張る。それでやっと意識が戻ったのか、誠はアレクセイに勢いよく詰め寄られてしまった。
「マコト、何だこの本は。どんな技術を使っている?それに、この紙の手触りも何だ。そしてこの表紙の絵だ。君はこのスイーツも作れるのか?」
バサバサと動く尾で、アレクセイが興奮していることが分かる。
誠はどこから説明しようかと、頭を悩ませていた。
いい加減な説明もできなければ、これを説明するには誠の存在を明かさなければならない。そうしようと決意したのだが、時間が足りないのは明確だ。
「…時間、いつ取れる?」
アレクセイと、きちんと向かい合いたい。
誠の想いが伝わったのか、アレクセイは少し考えてから誠を抱き締めた。
「この街の事が終わってからとしか、言えないな。…マコト、君はいつか話してくれると言ったな。それか?」
「うん。ちゃんと俺を知って欲しいから。…アレクセイ、きっと驚くよ。でも、俺を嫌いにならないで」
それは誠の本心だった。ただの人間が自分をどう思おうと、関係なかった。自分は妖怪だからだ。
けれど、アレクセイだけは別だ。
誠がアレクセイの首に腕を回すと、アレクセイはゆっくりと誠の背中を撫でた。
「なるわけないだろう」
アレクセイは誠と視線を合わせ、小さくキスをする。
「…信じられないか?」
「分からない。俺は、こんな気持ち、知らないから」
「そうか…君の話を聞いて、俺の気持ちが変わらなければ、信じてくれるのか?」
「…多分?」
「だったら、それで良い。…そうしたら、俺の気持ちも告白させてくれ」
「分かった…」
澄んだアイスブルーに、熱が灯っている。誠はアレクセイの瞳から、目を逸らせないでいた。
言葉に出すことも、行動に移すことも大切だ。だが誠は、自分がアレクセイの言葉を奪っているのを自覚していた。
今までの状態でアレクセイに告白されていたら、きっと誠はアレクセイの前から姿を消していただろう。それを察していたのか、優しいのか、アレクセイは全てを待ってくれている。
誠は、待たせている自分が情けなくなった。
気分が沈んだ誠にいち早く反応したアレクセイは、誠の頬をくすぐる。
「マコト。この本を見てもかまわないか?」
「え?ああ、どうぞ」
察しが良いし、頭も良いのだろう。スマートに話題を変えたアレクセイに感服する。
誠はアレクセイに本を渡そうとしたが、腰を抱き寄せられてアレクセイの膝の上に乗せられてしまった。
「アレクセイ!?」
「生憎、君の国の文字は読めないからな。何が書かれているのか、教えてくれないか」
「…分かった」
耳にかかる吐息がくすぐったい。離さないと言うかのように腹に腕を回された誠は、抵抗することを諦めた。
きっと狼は、こうして自分をドロドロに甘やかして、離れられないようにしている。それに溺れてしまったのは自分だ。
アレクセイの胸に背中を預けながら、誠はページを一枚ずつ捲っていった。
結果的に、ウィーンのカフェやスイーツが載っているこの本は、アレクセイのツボだったようだ。
いろんな種類のケーキや焼き菓子に目を輝かせ、尾もブンブンと振られている。向こうのモーニングやケーキの作り方の項もお気に召したようで、誠にこれは作れるのか、こっちはどうだと何度も聞いていた。
練り切りの本もあるので、アレクセイに見せるとどんな反応をするんだろう。誠がそう考えていると、きゅう、とお腹が鳴ってしまった。
小さな音だったが、しっかり聞かれていたのだろう。アレクセイはクスリと笑うと、誠のお腹を撫でる。
「俺もお腹が空いているんだ。どうする?フランシスに用意してもらうか、どこかに食べに行こうか」
「…両方魅力的だけど、俺、貴族の食事マナーとか知らないぞ。食べに行こうよ」
「決まりだな。そしてそのまま、逗留用の邸に行こう」
「邸、あるんだ。俺はてっきり、アレクセイはここに泊まるんだと思ってた」
「泊まることもあるが、今回はマコトが一緒だしな。ヒトの出入りが少ない方が良いのだろう?…と言っても、邸はここの敷地内だがな」
「大丈夫。気ぃ使ってくれて、ありがとな」
きっとアレクセイは何か勘付いている。
誠はただただ、その配慮がありがたかった。
「それでは、行こうか」
アレクセイは誠を抱きしめたまま立ち上がると、そのまま腰を抱いて終始エスコートをしていた。
誠が連れて来てもらった店は、いわゆる大きな居酒屋のような店だった。美味い魚料理を出す店だとアレクセイは言っていたが、マナーを気にせずに食べられるからというのもこの店を選んだ理由だろうことは、誠には分かっていた。
店を出ると、夜の冷え込みに加えて海風が体から体温を奪っていく。
誠はバッグからマグカップを二つとピッチャーを取り出して注ぎ、一つはアレクセイに渡してやった。
「歩きながらって、ちょっと行儀悪いけどね」
「いや、俺達もよくやるから大丈夫だ。それにしても…これはワインか?」
「そうだよ。ホットワインって言うんだけど、呑んだことある?」
誠がピッチャーに仕込んでいたのは、ホットワインだった。各地のクリスマスマーケットではお馴染みの飲み物で、実家のカフェでも冬になれば夜だけのメニューとして登場するものだ。
日本ではホットワインの名称が定着しているが、これは和製英語で、ドイツだとグリューワイン、フランスではヴァン・ショと呼ばれている。
赤ワインにオレンジピールやシナモン、クローブなどの香辛料とシロップなどを加えて温めるので、飲みやすく、また体を温めるので、こんな夜にはぴったりだ。
「…少し甘いな。うん、美味い」
「あんまりアルコール飛んでないから、呑み過ぎには注意だけどな」
領主の邸に近付くにつれて、人通りは少なくなる。白い石畳が魔道具だろう街灯に照らされて、これだけでも幻想的だ。
お互いの熱を逃さないようにぴったりとくっ付き、誠はアレクセイと少しだけ二人きりの時間を楽しんでいた。
邸の門番に馬車を用意するか聞かれたが、もう少し二人で歩きたい気分なのはアレクセイも同じだったようで、そのまま高台を歩くことにした。
邸よりも一段低い所にあった騎士団の逗留用の館は三階建だが、これまで泊まった邸よりは小さかった。領の騎士団が住んでいる邸はまた別にあるそうで、ここは完全に王都騎士団用として独立していた。
装飾は最低限に抑えられているものの、エントランスの壁には数色のタイルが幾何学模様を描いており、街灯の淡い光が反射して夜ならではの姿を現していた。
「お帰りなさいませ」
アレクセイがドアを開けてくれると、腰を軽く折ったフランシスが出迎えてくれた。
「ああ、戻った。他の団員達は?」
何でもないようにアレクセイはコートをフランシスに渡しているが、この執事はずっとエントランス付近に居たのだろうかと誠は驚いている。こちらを見てきたフランシスに、何だろうと思っていると、アレクセイは小さく「コートを」と言ってきたので、誠は慌ててコートを脱いでマジックバッグだけ外した。
「お預かりしたコートは、後でお持ちしますので」
「分かりました。お願いします」
どうやら自分の話は先に行っているようで、誠の部屋も用意してくれているそうだ。フランシスを先頭に二階に上がり、部屋に案内される。そこでアレクセイと別れた誠は、ベッドにバフっとダイブをした。
しばらくゴロゴロしていると、ドアがノックされる。埃を払ってもらったコートをフランシスに渡されると、誠はついでとばかりに聞いてみた。
「フランシスさん、良かったら市場と教会の位置を教えてほしいんですけど」
「市場と教会ですね」
フランシスはジャケットの内ポケットから地図を取り出し、誠に見せてくれた。防犯のためか、邸のある高台は省略して描かれてあった。
「市場ですが、港の近くとこのお邸から少し離れた所の二箇所が、この街のメインの市場です。朝は五時頃から開いていますので、早朝のお散歩のついでに見るのもよろしいかと。教会は大通りを西にまっすぐ行きますと…こちらです」
フランシスの指が、道を辿る。どうやら邸の反対側にあるようだ。
「礼拝堂ならこちらの敷地内にございますよ」
「そうなんですね。そちらは見ることはできますか?」
「ええ、もちろん。明日お時間のよろしい時に、ご案内いたしましょうか」
「明日ですか…」
誠はしばし考える。予定は真っ白なのだが、アレクセイ達の動き次第で、少し変わってくる。そんな誠の様子を見ていたフランシスは、急がなくても良いと提案してきた。
「マコト様、アレクセイ様との擦り合わせもございましょう。決まりましたら、いつでもお声かけください」
「え…でも、フランシスさんも仕事があるでしょう?」
「いえいえ。私なんかは、他の者達の報告を纏めるだけですよ。ああ、後は旦那様の尻を叩くのも主な仕事ですがね」
「それは重労働ですね」
「ええ、毎回苦労しております」
パチリとウインクをする執事は実はおちゃめだったようで、誠はクスリと笑った。
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