85 / 150
シロップの展望
08 ー カルトーフィリ村
しおりを挟むこの村での滞在は、一週間だった。
その間、誠が屋台を開いたのは一度だけだったが、冒険者の活動は積極的にこなした。おかげで念願だった冒険者ランクが二つも上がってしまったが。
調子に乗って、狩りまくっていたのがいけなかったらしい。けれど世間話的にこっそり受付の職員に聞いてみると、時期が時期なので毎年数人は短期間で二ランクも上げる者は居るとのことだった。
Eランクになると、やっと一人前の冒険者として認められるらしい。これからは少しずつ確実にランクを上げようと、誠は趣味と実益のための薬草採取に出かけることにした。
相変わらず薬草はよく生えているし、ハーブも季節関係無く採れる。誠はローズマリーのとセージを見つけたので、生育の邪魔にならないように気をつけながら、せっせとむしっていた。
昨日アレクセイ達が大きなミノタウロスを仕留めたので、今晩は牛肉もどき祭りなのだ。そのためにはこの二つのハーブが必要だ。
誠は笑いそうになるのを必死に堪えていた。
早めに邸に戻ると、早速調理開始だ。作るのはローストビーフと、牛マメ(腎臓)ではなくミノタウロスの腎臓のトマト炒め。すね肉で赤ワイン煮込みも作る。そして忘れてはいけない、牛すじならぬミノタウロスすじの煮込みだ。これは半分だけ甘辛く煮付け、丼にするつもりだ。残りの半分は、今後作りたいおでん用だ。
味が濃い物ばかりなので、付け合わせは生野菜のサラダにした。デザートは、レモンとオレンジのゼリーだ。
「…最後の晩餐」
テーブルの上にこれだけずらりとミノタウロス肉料理が並ぶと圧巻だ。しかし、レビ達は嬉しそうだが悲しそうだ。その理由は、先程レビが語った通りだった。
「レビ…分かります。分かりますけど、今後の騎士団の食堂に期待しましょう。それに、マコトさんが週一で夕飯に招待してくれると言っていましたから」
ルイージは分かって歪曲しているのだろう。レビを慰める手つきがわざとらしい。それを見たオスカーとドナルドは、ニヤニヤしながらその小芝居に乗った。
「さすがは班長のツガイ様だよな。俺達、もうお婿に行けない胃袋にされたから」
「そうですね、先輩。僕は班長とマコトさんのお家の養子になる準備はできています」
「こんなに大きな息子は要らんぞ」
小芝居を締めたのは、一家の大黒柱である銀狼だった。
迷惑そうに眉をしかめていても、結局は冷徹になりきれないアレクセイだ。以前このような話をした時に明確な答えは出さなかったものの、結局は週一くらいで彼らを家に招くのだろう。
誠は賑やかになりそうな王都での暮らしを想像して、楽しくなっていた。
彼らに対して、情が湧いたのもあるが、これだけ一緒に過ごしてきたのだ。王都に着けばすぐにさよならとなるのは、やはり寂しいものがある。
「マコト。迷惑なら言ってくれてかまわんぞ」
「いや、全然。大勢での食事って好きなんだよ。それにアレクセイの部下だし、俺にとっては何か…友達って勝手に思ってるからさ」
最後の方は照れてしまって声が小さくなったが、彼らにはしっかりと聞こえたようだ。
「マコト…」
ほんのりと頬を染めたレビ達の視線が、居た堪れない。誠はこの空気を払拭するために、「早く食べよう」とアレクセイを促した。
「祈りを」
アレクセイの声が、優しく響く。けれど食堂内に広がっている料理の匂いに我慢ができないのか、犬系獣人達の尾は揺れていた。
祈り終わると、皆が一斉に動き出す。丼を用意しているがワイン煮もあるので、少しだけフランスパンのように細長くしたパンも用意している。
行儀が悪いのは各々分かっているようだが、スプーンを動かしながらもう片方の手でパンを取り、そのまま食べたりワイン煮に浸したりと、忙しそうだ。
その様子を目にしているアレクセイは、小さな溜息を吐くだけで注意をしない。晩餐の席だが、貴族同士が集まる場ではないので、目溢しをしているのだろう。
デキャンタに移しておいたワインをサーブし終えた誠は席に着くと、アレクセイとグラスを合わせた。
「…ん。美味いな」
「だろ?この国に似た文化の国のワインなんだけど、その国のワインは有名なんだ。ちょっと良いやつを餞別に貰ったからさ、今日開けようと思って」
相模から貰ったのだが、元々は統括の神が貰った物だ。たくさん余っているから持って行けと、統括の神が知らないところでワインセラーから何本も抜き出した相模は、少し悪い顔をしていた。
このフランス産のフルボディのワインは、酒に明るくない誠でも聞いたことのある銘柄だ。自分では決して買いたくない値段がするので開けるタイミングを失っていたのだが、今日の肉祭りに出すにはぴったりだろう。
「なあマコト君。これ全部、ミノタウロスの肉なのか?」
ワイン煮が気に入ったのだろう。オスカーの皿は真っ先にワイン煮が消えていた。
「そうだよ。昨日貰ったやつ。ワイン煮に使ったのはスネ肉で、丼のはスジ肉。トマト炒めは腎臓」
「えー。マジか。スネ肉って、こんな美味いんだな」
「ですよね。噛むごとに肉の旨みが溢れてきて…マコトさん、おかわりよそっても良いですか?」
「おう。好きに食べなよ」
「やった!」
ドナルドも気に入ってくれたのだろう。満遍なく食べているようだが、ワイン煮が入っていた皿は空になっていた。これだけは大量に作ってあるので、隣のテーブルに鍋ごと置いているし、ローストビーフの追加はワゴンに乗せてある。
いつも皆が食べる量を考えると少し多いかと思っていたが、この調子だと全部無くなるかもしれない。
「ちょっ!ドナルド、お前全部食うなよな」
「オスカー先輩、まだたくさんあるから大丈夫ですよ…多分」
慌ててドナルドの後ろに並んだオスカーだが、その背後にはいつの間にかルイージが潜んでいた。レビは呑気に牛すじ丼をかき込んでいて、我関せずだ。
「いやはや…いつ見ても、すげー食いっぷりだな」
「それだけマコトのご飯が美味いからな」
「良かった。今日のメニューで気に入ったのある?」
こちらも満遍なく量が減っているアレクセイの皿を見た誠は、口元をニヨニヨとさせた。
気に入った物を聞いてみたが、どれを食べる時でも銀色の尾は元気に揺れていたので結果は分かっているのだが、やはりアレクセイの口から直接聞きたくなるというものだ。
アレクセイは少し迷っていたが、どれも甲乙つけがたかったようで、少しだけ耳と尾の元気を無くしていた。
「…すまないマコト。決められない」
「あははは!」
その様子が可愛くて、笑ってしまう。
「しかし、このすじ肉は何とも不思議な食感だな。噛むと溶ける肉もあるし、少し弾力のある部分もある」
「ああ、アキレス腱とかスネの部分だから。下処理に時間がかかるから、こっちでは食べないの?」
「そうだな。さすがに俺らでもアキレス腱は固いし臭いから食べないが、こうも変わるんだな」
残念ながら五等分して丼に乗せると丁度だったので、丼のおかわりは無い。誠は自分のスジ肉を半分、アレクセイの丼に乗せてあげた。
「…良いのか?」
「これだけは、おかわり無いから。それに、俺には量が多いし」
肉祭りは嬉しいし楽しいが、それはもう少し若い頃だ。誠の体はとっくに成長を止めて老化も止まる頃らしいので、ここまで肉を食べなくても良い。
それに、やはり自分のツガイには甘くなってしまう。
「ありがとう。今度すじ肉を調理する時は、俺が下処理を担当しよう」
それは、またスジ肉料理を作って欲しいという催促だろう。
「じゃあ、頼むね。牛すじカレーとかも美味しいから、それ作ろうかな」
「はいはい!俺も手伝うから、そのカレーとやらが食べたい!」
誠とアレクセイの会話に割って入ったのは、ワイン煮をよそっていたレビだった。真っ直ぐに手を上げているあたり、本気だろう。
「レビ!…すみません、マコトさん。けれど僕も気になるので、食べたいです」
レビを咎めたルイージに続き、オスカーは肩をひそめながら誠にウインクをよこす。
「甘い雰囲気の中、悪いんだけどさぁ。俺達の前で美味しそうな話をするのが悪いよ。ってことで、俺も手伝うから、カレー?食べたい」
「あの…僕も…」
控えめに手を上げたドナルドが続いたことで、新居での食事会のメニューはカレーに決まりそうだ。牛すじ肉の下処理もカレーもかなりの匂いが出るが、換気には気をつけなければ…と、誠は密かに決意していた。
「アレクセイ、良い?」
自分の中ではそう決定していたが、家を買うのか借りるのかはアレクセイだ。大黒柱を伺うと、アレクセイはしっかりと頷いてくれたあとで、ニヤリと笑った。
「マコトが良いなら。コイツらには、しっかりと手伝わせると良い」
「じゃあ、決まりな。カレーもたくさん種類があるから、牛すじカレー以外にも作るよ」
誠がそう言うと、食堂内は一気に沸いた。
「やったー!…で、そのカレー?ってのは、どんな料理なんだ?」
アレクセイよりも尾をぶんぶんと振っているレビの問いに、誠は笑いながら答えた。
「カレーってのは、スパイスの塊…かな」
その言葉により、食堂内は一気に沈黙に包まれてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ブラッドフォード卿のお気に召すままに
ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。
第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる