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ショコラの接吻
01 ー 新居
しおりを挟むいつもの時間に目が覚めると、目の前には美丈夫の微笑みがあった。
どうやらアレクセイの方が先に目覚めていたらしく、しばらく誠の寝顔を堪能していたらしい。
誠は自分のことを棚に上げ、恥ずかしいから止めろと怒っていたが、アレクセイは笑うだけだった。
早朝ということで、きっと厨房は動き出したばかりだ。何をして時間を潰そうか考えていると、アレクセイから騎士団に行かないかとの誘いがあった。
「良いの?俺は部外者だから、あんま行かない方が良いんじゃねぇの?」
「団員の身内なら、見学が可能なエリアがある。俺と兄上のゲストにしておけば行動範囲は広がる。訓練所はもちろん、図書室も閲覧可能だぞ」
「図書室もあんの?え、行きたい」
「じゃあ決まりだな。ついでに寮の食堂で朝食も摂ろう。君の改善案も聞きたいからな」
図書室と聞いてテンションの上がった誠は、さっさと着替え始めた。他の村や街より王都は南にあるのでコートは必要無い。羽織る物は、ウールの白黒ボーダーのカーディガンで良いだろう。
「寮の食堂って、肉ばっかだっていうメニューだよな。朝食はどうなってんの?」
メニュー改革の件は自分が言い出したことなので、最後まで面倒を見るつもりだ。しかし、こうも早くに動き出すということは、アレクセイはそれだけ改革に本気なんだろう。
だとすると、食堂のメニューはそんなに悲惨なのか。誠は少しばかり不安になってきた。
恐る恐る聞く誠に、アレクセイからは誠の不安を煽るような回答が返ってきた。
「肉だ」
「…肉だ」
時間を確認すると六時を少し過ぎた頃だが、騎士団の寮の食堂は三分の一程の席が埋まっていた。
敷地の入り口でゲスト用の木札を用意してもらった誠は、それを首に下げている。会社で良く見る、ネームホルダーみたいだ。
ゲストのランクによって木札の色が違っているらしく、最高位である色は黒なので、誠が下げている札はもちろん黒だ。
そしてすぐに食堂に向かったのだが、自分で好きなように料理を取れるビュッフェ形式の料理を眺めているが、見渡す限り肉料理しか見えなかった。
「だろう?」
アレクセイは、少しばかりげんなりとしていた。
どうやら誠の食事バランスを考えた料理を約一ヶ月の間食べていたので、改めてここの料理を見るといかに肉ばかりなのかと思ってしまったらしい。
体を作るのには肉。それが定着しているのか、肉食獣が多いからかは不明だが、この光景はある意味圧巻だ。誠は申し訳程度に用意されていたサラダを、これでもかという程に盛った。
空いている席に着くと、近くに座っている団員達はちらちらとこちらを見ては近くの者と小声で何やら話しているのが目につく。
少しイラつかないこともないが、部外者が珍しいのだろうか。
困ったように隣に座っているアレクセイを見ると、アレクセイは周りを睨んでそれを制していた。
「さあ、食べようか」
誠に向き直ったアレクセイは、表情を緩めた。
「ん」
誠は意識から外野を締め出して頷いた。まずは食堂の味の確認が先だ。
誠がトレーに乗せたのは、パンを一切れと野菜と肉のスープ、スクランブルエッグ、そして山盛りにしたサラダだ。
どれも二人分を乗せているのは、アレクセイと分けるためだ。アレクセイのトレーには、誠が取りきれなかった肉を数種類、少しずつ乗せている。
まずはサラダから食べてみる。野菜は新鮮で旨味が詰まっているが、やはりドレッシングが欲しいところだ。
古代ローマ時代からサラダドレッシングには、塩、オリーブオイル、酢などが使われてきたが、今のようにいろんなドレッシングが考案されたのは十九世紀のアメリカだ。そしてマヨネーズが作られた後で、ドレッシングは更に発展を遂げる。
テーブルの上には、塩や酢、オリーブオイルが入った瓶が置かれているので、おそらくサラダ用だろう。
誠は小皿にオリーブオイルと塩を入れた。食事に手をつけずに誠を眺めていたアレクセイは、誠が何を始めるのかと興味があるようで、その手元をじっと見ながら尾をゆらゆらと揺らしている。
「何をしているんだ?」
「ん?ドレッシング作ろうと思って」
「ああ…あのサラダにかかっていたやつか」
「そ。ドレッシングはいろんな種類があるんだけどさ。簡単な物なら、すぐ作れるんだよ」
言いながら、バッグからレモンを取り出す。誠は風を使って半分に切ると、片方をアレクセイに渡した。
「この小皿に絞ってもらえる?」
「了解」
いつものように任されたアレクセイは、果汁が飛び散らないように丁寧にレモンを絞る。誠に皿を返すと、バッグから取り出した胡椒をかけて混ぜていた。
「よし、出来上がり」
「本当に、すぐだったな」
「このレモンドレッシングはね。アレクセイも、かける?」
「もちろん」
二人でサラダをつついた後は、メインである肉料理だ。
まずは、塩胡椒で焼いたシンプルな物から。焼き加減はすごく上手い。噛めば肉の旨みが口に広がった。多少、塩胡椒がきつい気もするが、それ程気にはならない。
次に煮込んだ肉やスパイスで味付けされたものを食べるが、誠はどれも口に入れた瞬間、一瞬だけ動きを止めてしまった。
王都への移動中に通って来た村などの料理は、スパイスがかなり効いていると思っていた。けれど、さすが王都と言うべきなのか。スパイスが効きすぎている。いや、いろんなスパイスを混ぜ過ぎているのか。
これが中世ヨーロッパの再現料理だと言われても、そうなのかと思うだろう。当時の貴族階級の料理は、簡潔に言うと見栄えと香辛料をいかに多種多様に使うかに重点を置いていたようだ。ここは騎士団の寮の食堂なので見栄えには力を入れていないだろうが、それでも貴族の子息も居るし「王都」の文字を頂いているのもあるのか、混ぜているスパイスの種類が尋常ではない。
少し動きを止めた誠は無言のまま何度か噛んで飲み込んだ。そしてバッグから緑茶が入ったボトルを取り出して、一気に半分程飲んだ。
「…大丈夫か?無理はするな」
「だいじょぶ。けど、今までで一番スパイスがキツい料理かも」
「ここの料理は久し振りだが、やはり俺達犬系獣人には少しキツいな。マコトの料理と比べると、その違いが良く分かる。けれどあのカレーは美味かったな」
「カレーかぁ。あれは美味しい調合具合があるみたいだからね」
意識をカレーに飛ばした誠達は、サラダと一緒に肉を何とか腹に納めて皿を空にしていったのだ。いくら口に合わないとは言え、サラダとパンで味を薄めれば食べられるのだ。
けれどこれは早急なメニュー改革が必要だ。屋台巡りが趣味だというルイージを始め、レビ達が干からびないためにも。
「はぁ…とりあえず、スパイス半減から始める?」
「そうだな。マコトが良いと思うように、案を出してくれると嬉しい。案が纏まれば兄上との謁見の場を設けよう」
「分かった。夕飯も見てみたいんだけど、大丈夫かな」
「ああ。けれど昼はどこかに食べに行かないか?それか、王都の外に出ても良いが」
「王都の外って…キャンプ飯?」
「そうだ。材料は用意するし、しっかり手伝う。マコト…頼めるだろうか」
しゅんとした尾を見ていると、こちらまで悲しい気持ちになってくる。でも、それ程自分の料理を食べたいのかと思うと、嬉しくもある。誠は少し笑うと、了承した。
しかし、仕事は大丈夫なのだろうか。それを聞くと、遠征から戻ってきたばかりなので今日は休みなんだそうだ。騎士団の敷地に入るためと、実は私服を選ぶのが面倒臭いから制服なのだとアレクセイに打ち明けられた誠は、また笑ってしまった。
「じゃあ、ちょっと市場を覗きに行こう」
「…と言うことは、昼はキャンプ飯か?」
「うん。手伝ってくれるんだろ?」
「ああ、当たり前だ」
元気を取り戻した銀色の尾が、ぶんぶんと揺れていた。
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