神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
93 / 150
ショコラの接吻

03 ー 新居

しおりを挟む


 飯盒で米を炊いている間にスープを作る。二人だから簡単なものにしようかと思ったが、夜も寮の食堂だし、いつまた料理ができるのか分からないので大きめの鍋を出した。
 作るのはトマトとコンソメベースの野菜スープにした。これで少しは舌と胃を休めたい。
 角切りにした野菜と燻製肉を煮込んでいると、アレクセイが戻って来た。手ぶらなのだが、獲物はスクエアポーチに入れてあるのだろう。

「お帰り」

 誠はまな板から顔を上げて声をかけた。

「ああ。アルミラージとスノーラビットを仕留めてきた」
「凄ぇな、こんな短時間で?」
「近くに居たからな。どうするマコト、どちらを捌こうか」

 そう聞かれても、その魔獣は見たことが無いので迷う。誠は実物を見せてもらうことにしたが、どちらも抱えきれないくらい大きかった。
 結局アレクセイの好きな方にしてもらったが、この場で両方解体するそうだ。
 スープの香りが漂う中、アレクセイは黙々と作業をしている。風向きが変わって彼の方に匂いが強く向かう度に尾の揺れが激しくなるので、相当期待しているのが分かる。バサバサと尾の音が聞こえるので何かと思ったが、原因が分かると吹き出しそうになった。
 そう言えばと、誠は手を止めてアレクセイの元に向かった。

「アレクセイ、ちょっと待って!」

 内臓を穴に埋めようとしていたので、何とか間に合ったようだ。誠は忘れがちな鑑定スキルを使って、食用可能か調べた。

「コイツの内臓も使うのか?」
「うん。レバーパテはパンに合うらしいから、作ろうと思って。スノーラビットの方は食べられそうだから、こっち頂戴」
「ああ。…マコトは食用可能かどうか、見えるのか。…鑑定のスキル持ちか?」

 誠の言い方でピンときたのか、アレクセイは誠を見ている。
 そう言えば、言っていなかったかもしれない。誠はここに来るにあたって統括の神から貰ったスキルのことを話した。

「なるほど。誰でもスキルは一つか二つ持っているが、マコトの世界は無いのか」
「無いよー。あれば便利なんだろうけどね」
「そうだな。俺も鑑定スキルが欲しかったが、剣技しか取れなかったな。それでも騎士団には最適なスキルだから重宝しているがな」

 スキルは訓練をしていると段々と育つらしく、ある程度の経験を積むと取得できるそうだ。アレクセイは剣技と、もう一つは統率だそうだ。
 なるべくして班長になったんだと、誠は納得した。

「…それで、マコト。レバーパテは、昼食に出るのか?米の匂いがしているのだが」

 アレクセイは、チラリと飯盒を見た。期待させておいて悪いが、レバーパテは冷蔵庫で数時間寝かせないといけないのだ。
 それを伝えると、アレクセイの尾はあからさまに元気を失ってしまった。

「今後の楽しみができたって思えば?」
「…そうだな。でも、ちょっと元気を補充させてくれ」

 お腹が空いているから、余計にショックだったのかもしれない。アレクセイは洗浄魔法を自分にかけてから誠に抱きつくと、鼻を誠の髪に埋めた。
 体を離す前に額にキスをされた。もう、と少し睨むが、アレクセイにはどこ吹く風だ。これは、ソテー作りを手伝ってもらわなければ割りに合わない。それに昼食作りは手伝ってもらう約束だったのだ。
 誠はニヤリと笑うと、早速アレクセイに肉のスライスを頼んだ。上質なのはスノーラビットの肉なので、アレクセイはそちらを選んだようだ。

「切り終わったら、両面に小麦粉まぶしてね」
「了解。フライパンで焼くのか」
「そうだよ。イタリアンソテーにしようかと思って。シチューとかワイン煮も美味しいみたいだけど、煮込み系は時間がかかるから」
「…そうだな。残念だ」
「今度作ってあげるよ。俺も食べてみたいし」

 以前、貰い物のウサギ肉で作ったのはシチューだけだ。調べるとワイン煮やパエリアなどのレシピがヒットしたので、いつか食べてみようと虎の巻に加えてあるのだ。

「本当か?楽しみだ。早く新居を決めなければな。キッチンには、何が必要だ?冷蔵庫とオーブンは絶対だろう?」

 気持ちが逸っているのか、銀色の尾は忙しなく揺れている。

「あと、広い作業台も欲しいな」
「逗留用の邸の厨房みたいなのか?」
「それくらいあれば、嬉しいな。でも、そんな物件になると、大きな家になるんだよね?」
「そうだな。だが、改装すれば君の理想のキッチンができるぞ」

 理想のキッチンという言葉を聞いて、誠の手が止まる。とても素敵な言葉だ。けれど、その改装費が気になるところだ。簡単に頷いてしまうと、この狼はすぐ誠に貢ぎそうなので、ある意味怖い。
 アレクセイの財布の紐を閉めるのは自分だと、妙な闘争心を燃やしながら誠はフライパンに肉を並べて焼きはじめた。


「美味かった。ありがとう、マコト」

 フォークを置いたアレクセイは、誠を見て笑った。何度見ても、ドキドキする。
 こういう時に、料理の道に進んで良かったと思うし、またアレクセイに美味しい物を食べさせたい、食べてもらいたいと思う。
 つられて笑った誠に、アレクセイはキスを一つ落とした。

「さあ、片付けをして戻るか」

 率先して食器に洗浄魔法をかけるアレクセイの背中を見て、こういうところも好きだと見つめてしまう。実家では自分の使った食器を流しに持って行くのは当たり前だったが、製菓学校時代の同期の話では、食後何もしない彼氏が居るとのことだった。
 その時は併設されているカフェコーナーで話していたのだが、気が付けば人数が増え、駄目彼氏の愚痴大会になっていたものだ。
 公爵家の子息だし、騎士団内でも班長の位置に居るのだから他人が何かをして当たり前だと思っていないところも好ましい。これが狼獣人なのかと、ご機嫌に揺れる銀色の尾を見ていた。

「そろそろ戻るか」
「そうだね。魔道具店が待ってる!」

 いよいよ時間経過有りのマジックバッグを買うのだ。定住するのだからもう不要な気もするが、王都の隣の町や村には行ってみたい。
 誠が元気良く答えるとアレクセイは広角を上げたが、すぐに表情を引き締めた。何かあったのだろう。辺りを警戒すると、遠くで嫌な気配を感知した。このドロリとした気配は、はじまりの森で感じた物に似ている。
 誠はアレクセイの腕に手を添えた。

「アレクセイ、どうする?」

 走って向かうか、影に潜って最短距離で行くか。
 口にしなかったが、アレクセイは正しく理解してくれたようで、軽く頷いている。

「狩りに行っている時に、何人かの冒険者を見かけた。誰か怪我をしている可能性があるから、走って行くぞ」
「了解」

 王都に着けば少しは落ち着けると思ったが、その予想は外れだったようだ。誠は遅れないように、アレクセイの背中を追いかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。 第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...