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詐欺師のナマエ
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しおりを挟む泣き方には、きっと、コツがいる。泣くタイミングというのは確かに存在して、それを逃したら、まだ悲しみも何も処理出来ていないはずなのに、どうしたことか、泣けなくなる。きっとその時の衝動というのが関係していて、その衝動なくして、ひとは泣けない。その衝動を逃さなかったひとだけが、思い切り泣けるのだ。
だからもう、二度と、私はキサラギ オーリを想って全力で泣けないだろう。自分の存在を失くすくらい、何もかもを放り出して泣けないだろう。タイミングを逃して、そして、余りにも時間が経ち過ぎた。
コウがミユキの半身なら。
ミユキの手を引くのはオーリだ。
辛い時。大変な時。助けてほしい時。
「呼べよ」
そう言って、オーリは真鍮のホイッスルを揺らした。
(それでも私は、誰も呼んだことがない)
私が言う。わたしはそれを、煩わしく思う。
うるさい。
うるさいよ。
泣き方にも、涙の抜い方にも、逃げ方にも、忘れ方にも、あきらめ方にも、笑い方にも、怒り方にも、助けの求め方にも───ひとそれぞれやり方があるのだ。大事ものを雛形にした、やり方があるのだ。
箱庭を作り上げたり、
大好きなひとに大嫌いだと叫んだり、
誰かの代わりに重大なものを引き受けると言ったり、
大切な名前を隠して、それでも惜しむように、名残を残すような呼び名で呼んだり。
それら全部を馬鹿にしやがって。
「うるさい、うるさいうるさいうるさい───」
黙っとけ、馬鹿が。
そう口の中で呟いてから───顔を上げ、扉を開く。
鉄の扉の向こう側。全てが動き出した非常階段。
「本当に来たんだ」
馬鹿だなあ。つまらなさそうに言う男。
フルミ ナオキが立っていた。
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