9 / 10
8、
しおりを挟む
※
それから卒業までの日々は、忙しくも充実していた。
私は大学受験に合格していたので、進路に憂うことなく高校最後の日を過ごした。
体育館での卒業式を終え、教室で担任の最後の挨拶を聞き、卒業証書を受け取って、晴れて卒業。
帰りは友人たちと打ち上げパーティをすることになっていたので、私は父の車にカバンと卒業証書を投げ込むと集合場所の喫茶店へと急いだ。
高校最後のから騒ぎ。
カロリーも値段も気にせず注文をして(アルコールに手をださなかったのは、大したものだったと思う)、お調子者の友人が冗談まじりの挨拶をして、乾杯。
誰もが思い思いに喋ったり、笑ったり、歌ったりしている。
気分が高揚していたせいだろう。
私も慣れないカラオケに挑戦して、名音痴というありがたくない称号を手に入れたりした。
時間を忘れるほど盛り上がったせいで、喫茶店を出たときはすでに七時が近かった。
私は帰る方向が同じ友人といつもより一時間以上遅い電車に乗り込んだ。
ドア近くのシートに腰をおろし、打ち上げパーティの延長線上のような他愛のない話をする。
一駅。二駅。三駅。
駅に着くたびに、人が入れ替わっていく。
私は横目でその光景を眺めながら、この電車に乗るのも最後かもしれないとボンヤリ考えている。
四駅。ここで友人が降りた。手を振ってまたねと言ったけれど、次に会うのはいつだろう。
五駅。六駅。
そして、ようやく私の降りる七つ目の駅に着いた。
シートから立ち上がり、いつものようにカバンを持とうとして、父の車に放り込んだことを思い出す。
プラットホームに降りて、何だか手持ちぶさたな気持ちで電車を振り返る。
私が降りたそのドアの前に。
詩織が立っていた。
最後に会ったのはいつだろう。
あのとき変わらない、品の良い輪郭。
私は詩織の顔を見つめたまま、動くことができない。
声はだせるようになったはずなのに、まるで失声症が再発したかのように言葉がでない。
自分が何をしたのか、わかっている。
声がだせるようになったら、七駅フレンドはきっとおしまい。
詩織の言う通りになった。
声を知らない彼女だからこそ、声がだせるようになった私がどうなるのかわかっていたのだろう。
七駅フレンドはずっと続く。
そう言った私は、どうしようもない嘘つきで、手ひどい裏切り者だった。
でも、謝るわけにはいかなかった。きっと詩織は、私を許してしまうから。
だから。
怒りをぶつけてほしかった。
恨み言のひとつでもいいから、聞きたかった。
侮蔑でもいいから。
軽蔑でもいいから。
私にふさわしい言葉をぶつけてほしい。
彼女はでも…… 優しく笑っていた。
私の裏切りを責めるような雰囲気などまるでなく、むしろ久しぶりに会えたことを喜んでいるようにさえ見えた。
そして、ドアが閉まる寸前。
彼女は静かに手を動かした。
右手の人差し指で私を指し、その指と左手の人差し指を軽くあわせる。
それから、胸のあたりで両手をひらき、手の甲をこちらにむけて交互に上下させて、
最後に両手を上に向け、指をしぼませるようにしながら下におろした。
あなたに
であえて
うれしかった
ドアが閉まり、電車がゆっくりと走り始めた。
私は、
ただ、
ただ、
プラットフォームに立ちつくしていた。
それから卒業までの日々は、忙しくも充実していた。
私は大学受験に合格していたので、進路に憂うことなく高校最後の日を過ごした。
体育館での卒業式を終え、教室で担任の最後の挨拶を聞き、卒業証書を受け取って、晴れて卒業。
帰りは友人たちと打ち上げパーティをすることになっていたので、私は父の車にカバンと卒業証書を投げ込むと集合場所の喫茶店へと急いだ。
高校最後のから騒ぎ。
カロリーも値段も気にせず注文をして(アルコールに手をださなかったのは、大したものだったと思う)、お調子者の友人が冗談まじりの挨拶をして、乾杯。
誰もが思い思いに喋ったり、笑ったり、歌ったりしている。
気分が高揚していたせいだろう。
私も慣れないカラオケに挑戦して、名音痴というありがたくない称号を手に入れたりした。
時間を忘れるほど盛り上がったせいで、喫茶店を出たときはすでに七時が近かった。
私は帰る方向が同じ友人といつもより一時間以上遅い電車に乗り込んだ。
ドア近くのシートに腰をおろし、打ち上げパーティの延長線上のような他愛のない話をする。
一駅。二駅。三駅。
駅に着くたびに、人が入れ替わっていく。
私は横目でその光景を眺めながら、この電車に乗るのも最後かもしれないとボンヤリ考えている。
四駅。ここで友人が降りた。手を振ってまたねと言ったけれど、次に会うのはいつだろう。
五駅。六駅。
そして、ようやく私の降りる七つ目の駅に着いた。
シートから立ち上がり、いつものようにカバンを持とうとして、父の車に放り込んだことを思い出す。
プラットホームに降りて、何だか手持ちぶさたな気持ちで電車を振り返る。
私が降りたそのドアの前に。
詩織が立っていた。
最後に会ったのはいつだろう。
あのとき変わらない、品の良い輪郭。
私は詩織の顔を見つめたまま、動くことができない。
声はだせるようになったはずなのに、まるで失声症が再発したかのように言葉がでない。
自分が何をしたのか、わかっている。
声がだせるようになったら、七駅フレンドはきっとおしまい。
詩織の言う通りになった。
声を知らない彼女だからこそ、声がだせるようになった私がどうなるのかわかっていたのだろう。
七駅フレンドはずっと続く。
そう言った私は、どうしようもない嘘つきで、手ひどい裏切り者だった。
でも、謝るわけにはいかなかった。きっと詩織は、私を許してしまうから。
だから。
怒りをぶつけてほしかった。
恨み言のひとつでもいいから、聞きたかった。
侮蔑でもいいから。
軽蔑でもいいから。
私にふさわしい言葉をぶつけてほしい。
彼女はでも…… 優しく笑っていた。
私の裏切りを責めるような雰囲気などまるでなく、むしろ久しぶりに会えたことを喜んでいるようにさえ見えた。
そして、ドアが閉まる寸前。
彼女は静かに手を動かした。
右手の人差し指で私を指し、その指と左手の人差し指を軽くあわせる。
それから、胸のあたりで両手をひらき、手の甲をこちらにむけて交互に上下させて、
最後に両手を上に向け、指をしぼませるようにしながら下におろした。
あなたに
であえて
うれしかった
ドアが閉まり、電車がゆっくりと走り始めた。
私は、
ただ、
ただ、
プラットフォームに立ちつくしていた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる