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第三章 時を埋める季節

3-37 先客

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 俺はその大きさ約二・五メートルものサイズを誇る白銀の巨大な魔核から、ドラゴンが再生するのを待っていられなかったので手っ取り早い方法を選んだ。

「貴様を俺の眷属ファフニールと命名する。通称ニールだ!」

 そしてそいつは光って新しい名前を受け入れた。当り前だ、俺は戦って奴を倒したのだから。

 どうやら、この力はハズレ勇者特典のようなのだ。

 つまり、魔物を統べる元ハズレ勇者である現魔王の力を俺も持っている勘定になる。やだねー!

「うわあ、勝手にハズレ勇者の眷属にされちまったあ。ノームに怒られる~」

「黙れ、下郎。今日から俺がお前の主だ。眷属になった以上はキリキリと働いてもらうぞ」

「あのう、これってそういうお話じゃなかったんだけど」

「やかましい! ところで、お前は人化の術は使えるのか?」

「ええ、まあ」
「じゃあ、やってみせろ」

「え、今は魔核の状態なのですが。そんな真似はやった事がないんですけど」

「やれ、俺の部下なら絶対にできるはずだ」

 くっく、こいつは一回言ってみたかった台詞なのさ。
 うちの課長の得意の台詞だったんだな、これが。

 できないなんて、この日本人の部下になった奴に言わせるつもりはない。

 できないと言うのなら好きなだけ残業させてやろう。

 俺なんてもう残業したくたってできない身の上なんだからな。

「しょうがないですね。じゃあ、あらよっと」
「うわあ」

 人化したのはいいのだが、そいつはよりにもよって裸の女に化けやがった。

 ドラゴンや魔核の時は男の声だったのに、なんでだよ!

「お前な、服くらいちゃんと着て来いよ」

「ドラゴンなので、そんな物は持っていませんが、それが何か」

「ったく。おおい、シャーリー。お前の服をこいつに貸してやってくれ」

 そしてやってきたシャーリーにさっそく弄られた。

「やっだあ、ハズレ勇者がドラゴンを眷属にして裸の女奴隷に。
 勇者の彼女に言いつけちゃおうかな」

「ハレンチです、ハレンチなのです、このハズレ」

 言いたい放題に言われているが、実際に裸の女が目の前にいるので非常に言い訳しづらい。

「やはり、勇者ともなると、そっちの趣味も普通じゃない訳か」

「ドラゴンの女奴隷か、これはまたマニアックな」

「ハズレ勇者だけに、女の趣味もハズレているのか」

 男どもも、ニヤニヤしながら言いたい放題だ。
 後で全員一発ずつ殴ろう。

「ふふ、私は知っていますわ。

 勇者の男どもは全員もれなく女の子をつけてもらったのに(あの業腹な腐れ勇者の小僧を除いては)、こいつだけ貰えなかったのですよね。

 だから自力で調達なのですかあ。

 可愛い勇者の彼女がいるくせに二号さんの誕生ですね、いやらしい」

「うるさいぞ! お前ら。もう、さっさと行くぞ」

「ふう、服というのは窮屈なものだなあ。人間は何がよくって、このような物を着込むものやら」

 主に胸周りや尻のあたりが窮屈そうだ。
 まあ大人の女に高校一年相当の女の子の服じゃな。

 シャーリーも歳の割にはグラマーな方なのだが、こいつは完全なグラマースタイルなのだ。

 日を浴びれば煌めくような音を奏でそうなほどに光る金髪に金色こんじきの爛々と耀く瞳、抜けるように白い怪しい感じの肌はまさしく人外を思わせる。

 どう見ても普通の人間の女には見えん。

 尖り加減の耳と切れ長の目、その美しい目鼻立ちはまるで妖艶なエルフを思わせるし、見様によっては青白くさえ見えるその肌は、ナーガだのラミアだのといった妖物を彷彿とさせた。

 こんな目立つ女はちょっと連れて歩くには抵抗があるな。

 逆に目立ちたい思惑がある時などは最適なのだが。

 ああそうだ、カイザのお嫁さんにどうだろうか、ぷぷっ。

「じゃあ行こうぜ、ノームのところへ」

「うむ。ところで自分はこのままでは飛べないのだが」

「ドラゴンのくせに魔核の能力で飛べないのか?」

「やった事がないので」

「またそれか。俺の部下になった以上はそのような言い訳は許さんぞ。

 日本の会社で、そのような戯言が通用すると思うな。
 やってみせろ」

 俺に強引な事を言われて、仕方がなく浮き上がるニール。

「やりゃあ出来るんじゃねえか。じゃあみんな、マルーク号に乗ってくれ」

「あのう、それじゃ自分が飛んだ意味がないじゃないですか」

「いいから行け。ちゃんと前を行く道先案内人が欲しいんだ。キリキリ飛べよ」

「へいへい」

 そして奴の後に続いて飛んでいったのだが、何故かいつまで経っても着かない。

 中ではお茶会も始めてしまったのだが、奴は飛びっぱなしだ。

 いい加減、焦れたので魔核を通した主従専用の信号で奴をマルーク号の中へ呼び付けた。

「おい、一体どうした」

「ああ、なんかノームのところにお客さんが来ているらしくて」

「はあ? 先客だとお。聞いてねえぞ、そんな話は」

「しばらくお待ちくださいだってさ」

「何なのよ、それは。すぐ会わせなさいよ。どれだけ待ったと思うのよ~」

 地団太踏んでナナが食ってかかったが、すかさずパウルが手で肩をポンポンと叩いて宥めた。

「まあまあ、王女。もう玄関口まで来ていて案内人もいるのだから。

 それにそいつも、そこのハズレ勇者の家来になったのだから騙して逃げやしないさ」

「じゃあトランプでもしながら待つ?」

 俺はフォミオが作った、乾燥して反ったりしないタイプの木の板を薄く削いだ物に、熱を出す魔道具で上手に表面を焼いて作ったトランプを出した。

 日本だと趣のある高額商品といったところだが、ここではこの材質でしか作れなかったという無念が籠っている。

 いや、せっかく面子に王女がいるんで、『大貧民』でもやって、王女に大貧民気分でも味あわせてやろうかなと思ってね。

 いっそ『階級闘争』として、こっちの世界に合わせて階級を決めてやったら、王女が負けたら目から火を噴きそうだ。

 そして始めたら、案の定だった。

「なんですってえ、何故この王家の一員たる私がスラム街の住人なのよ~。ええい、もう一度勝負よー」

「ふ、だったら実際にそんな『ハズレ』国民のような貧民を無くす事を考えるんだな。そういう仕事もれっきとした王族の義務なんだぜ」

 俺は特に『ハズレ』という部分を強調しておいてやった。

「きいいー」

「ほいっ、これで王女様、またスラム街の大貧民っと」

「ほげええ」

 何故かナナと同じく初めてプレーするにも関わらずニールが異常に強くて、魔核念話を通したコンビネーションにより主従タッグで異常に弱い王女様を陥れ、全回ナナを大貧民に押し込むのに成功したのだった。

 シャーリーも阿吽の呼吸でそのチームに混ざってきたし。

 さりげに他の冒険者も呼吸を合わせているので、ナナが一人で勝てるわけがないのだった。
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