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第四章 大精霊を求めて
4-54 ごめんください
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もちろん、こそこそなんてしないで正面から堂々と乗り込んでやったのだ。
まず一番確率が高そうな、門から見て近場の高級宿だ。
ここが例のブラウニー・マップ上で優先順位が一番になっている宿なのだ。
もう優先ナンバー順に探しに行く事にしよう。
「すいません、いや連れの勇者を捜しているんだけど、俺みたいな黒髪黒目の女の子の二人連れが来ませんでしたか。
この街で待ち合わせしていたんだけど、この国では通信の宝珠は持っていちゃいけないそうで連絡が取れなくて困っているんですけれど」
そして対応してくれたフロント責任者の接客もなかなか素晴らしいものだった。
俺に対しても非常に丁重な言葉遣いと対応だった。
この国でも玄関口ではこんな感じなのかと驚いた。
「そうですか、それはまた大変な事でございますね。
今、宿泊台帳を見ましたところ、生憎と当宿にはそのような方はおみえではないようです。
私も見かけておりません。
勇者様は大変珍しい容貌をなさっておられますので、まずこの私が見違える事はないと思うのですが。
およそ、全ての宿泊客の方の顔は覚えておりますので。
ここの国境にある他の同格の高級宿を探されてはいかがでございましょうか。
きっと勇者様ならば、そうなさっておられるのでは」
「そうですか、どうもありがとうございます」
のっけからハズレだった。
エレが彼の思考を読んでくれて、頭の上に両手で輪を作り問題なしの合図をくれたのでそいつは間違いない。
残りの宿は五か所で、これらと元貴族の館四か所を除けば、後はどこかに軟禁されているのか、ここにはいないかのどちらからしい。
だが、湖には行っていないと思うのだ。
何故なら、あの二人が大事な宝珠をこんな国に預けたまま、湖に探索行くとは思えないからだ。
こんなヤバイ国はいつまでもいるもんじゃない。
目的を達したならば、あの頭のいい姉妹ならそのまま空からトンズラするに決まっているのだ。
そういう時は宝珠を取り返して、一旦ビトーに戻って俺や冒険者の応援を仰ぐだろう。
あの子は無能ではなく、大変に有能であったのを俺だけはよく知っている。
困った時は必ず打ち上げる子なのだ。
かつて応援で俺の部署に来た時などは、俺の下について仕事をしていた。
きわめて期間限定であったとはいえ元上司といってもいいような俺がいてくれて、しかも俺がこの世界ではかなり有能な仕事ぶりを披露したのを知っている。
あの子ならば、必ず俺を頼るに決まっているのだから。
それにも拘わらず、まだ宝珠があそこにあったという事は、今彼女達は身動きが取れずにこの国からの退出もままならない事態に陥ったとみるべきなのだ。
脱走勇者という身の上は、そういう場合に彼女達にとっては圧倒的に不利に働く。
ハズレといえども十分な功績を持つ、まるでセカンド魔王の如く圧倒的な力を誇る切り札のような俺に手を出せば、この独裁国家といえども俺自身とあるいはヨーケイナ王国からの報復は覚悟するべきだ。
へたをすると、この国は王国連合の癌とでもいうべき厄介な存在であり、場合によってはあの王様から俺に『討伐依頼』が出たっておかしくないくらいだと考えている。
だが、あの子達は違う。圧倒的に立場が弱いのだから、本来の目的とは別の邪まな欲望で勇者を欲しがっているこの国にとっては格好の獲物といえよう。
「とりあえず、回れるところは全て回るしかない。
元貴族関係が手強いようなら、先に湖の様子を伺うとするか。
まあ、いざとなればあの妹命の采女ちゃんの事だから、危なくなったら大暴れしてでも緊急脱出してくると思うのだが。
今はまだそれをやりたくないレベルの事なのだろうな、この国の湖へ行かねばならないのだから」
「どうにもならなくなったら、君の加護を使って精霊軍団を呼び寄せるといいよ。
その時は連中がいろいろとやらかして、かなり大騒ぎになるかもしれないけど、まあそいつは仕方がないね。
居場所だけでも見つかれば儲けものだし。
ついでに大精霊のところに行く時にあいつらも連れていけば、もし大精霊に隠れられていたとしても見つかりやすいからね」
「そうだな、その時はそうするかあ」
そして、お次の宿へ行ったら、なんと貸し切りで入り口が閉まっていて、中の様子を伺う事すらできない。
「ここは怪しいな」
「露骨に怪しいねえ。
ちょっと中を見てこようか」
「おお、その手があったか。
じゃあ頼むよ」
「任せてー」
というわけで、俺の相棒は精霊体として物理干渉を無視して壁抜けして消えていった。
だが、エレは一分と経たずに戻ってきてしまった。
「あれ、どうしたんだ。
何か忘れ物か? という訳はないよな」
「あー、なんていうのかなあ」
何故かエレは目が泳いでいた。
中で何か衝撃的な事を目撃したのだろうか。
「とにかく、中にあの子達はいなかったよ。
まったく人間っていう奴は本当に……」
「おい、中で何があった!?」
だがエレは頭を振るばかりで何も答えない。
珍しく若干疲れたような、精気のないような顔付きで、いつになくオーラメーターの針がかなり左寄りの目盛りゼロ近くに触れているようだった。
「ま、まあいいんだが、お疲れさん。
こいつでもやってくれ」
俺がチョコをやると、ビーバーが丸太を齧るように齧り倒していくような、いつもの光景とは違って今日はゆっくり黙々と食っていた。
しかし、一体中で何があったのだろうか、気になるなあ。
まず一番確率が高そうな、門から見て近場の高級宿だ。
ここが例のブラウニー・マップ上で優先順位が一番になっている宿なのだ。
もう優先ナンバー順に探しに行く事にしよう。
「すいません、いや連れの勇者を捜しているんだけど、俺みたいな黒髪黒目の女の子の二人連れが来ませんでしたか。
この街で待ち合わせしていたんだけど、この国では通信の宝珠は持っていちゃいけないそうで連絡が取れなくて困っているんですけれど」
そして対応してくれたフロント責任者の接客もなかなか素晴らしいものだった。
俺に対しても非常に丁重な言葉遣いと対応だった。
この国でも玄関口ではこんな感じなのかと驚いた。
「そうですか、それはまた大変な事でございますね。
今、宿泊台帳を見ましたところ、生憎と当宿にはそのような方はおみえではないようです。
私も見かけておりません。
勇者様は大変珍しい容貌をなさっておられますので、まずこの私が見違える事はないと思うのですが。
およそ、全ての宿泊客の方の顔は覚えておりますので。
ここの国境にある他の同格の高級宿を探されてはいかがでございましょうか。
きっと勇者様ならば、そうなさっておられるのでは」
「そうですか、どうもありがとうございます」
のっけからハズレだった。
エレが彼の思考を読んでくれて、頭の上に両手で輪を作り問題なしの合図をくれたのでそいつは間違いない。
残りの宿は五か所で、これらと元貴族の館四か所を除けば、後はどこかに軟禁されているのか、ここにはいないかのどちらからしい。
だが、湖には行っていないと思うのだ。
何故なら、あの二人が大事な宝珠をこんな国に預けたまま、湖に探索行くとは思えないからだ。
こんなヤバイ国はいつまでもいるもんじゃない。
目的を達したならば、あの頭のいい姉妹ならそのまま空からトンズラするに決まっているのだ。
そういう時は宝珠を取り返して、一旦ビトーに戻って俺や冒険者の応援を仰ぐだろう。
あの子は無能ではなく、大変に有能であったのを俺だけはよく知っている。
困った時は必ず打ち上げる子なのだ。
かつて応援で俺の部署に来た時などは、俺の下について仕事をしていた。
きわめて期間限定であったとはいえ元上司といってもいいような俺がいてくれて、しかも俺がこの世界ではかなり有能な仕事ぶりを披露したのを知っている。
あの子ならば、必ず俺を頼るに決まっているのだから。
それにも拘わらず、まだ宝珠があそこにあったという事は、今彼女達は身動きが取れずにこの国からの退出もままならない事態に陥ったとみるべきなのだ。
脱走勇者という身の上は、そういう場合に彼女達にとっては圧倒的に不利に働く。
ハズレといえども十分な功績を持つ、まるでセカンド魔王の如く圧倒的な力を誇る切り札のような俺に手を出せば、この独裁国家といえども俺自身とあるいはヨーケイナ王国からの報復は覚悟するべきだ。
へたをすると、この国は王国連合の癌とでもいうべき厄介な存在であり、場合によってはあの王様から俺に『討伐依頼』が出たっておかしくないくらいだと考えている。
だが、あの子達は違う。圧倒的に立場が弱いのだから、本来の目的とは別の邪まな欲望で勇者を欲しがっているこの国にとっては格好の獲物といえよう。
「とりあえず、回れるところは全て回るしかない。
元貴族関係が手強いようなら、先に湖の様子を伺うとするか。
まあ、いざとなればあの妹命の采女ちゃんの事だから、危なくなったら大暴れしてでも緊急脱出してくると思うのだが。
今はまだそれをやりたくないレベルの事なのだろうな、この国の湖へ行かねばならないのだから」
「どうにもならなくなったら、君の加護を使って精霊軍団を呼び寄せるといいよ。
その時は連中がいろいろとやらかして、かなり大騒ぎになるかもしれないけど、まあそいつは仕方がないね。
居場所だけでも見つかれば儲けものだし。
ついでに大精霊のところに行く時にあいつらも連れていけば、もし大精霊に隠れられていたとしても見つかりやすいからね」
「そうだな、その時はそうするかあ」
そして、お次の宿へ行ったら、なんと貸し切りで入り口が閉まっていて、中の様子を伺う事すらできない。
「ここは怪しいな」
「露骨に怪しいねえ。
ちょっと中を見てこようか」
「おお、その手があったか。
じゃあ頼むよ」
「任せてー」
というわけで、俺の相棒は精霊体として物理干渉を無視して壁抜けして消えていった。
だが、エレは一分と経たずに戻ってきてしまった。
「あれ、どうしたんだ。
何か忘れ物か? という訳はないよな」
「あー、なんていうのかなあ」
何故かエレは目が泳いでいた。
中で何か衝撃的な事を目撃したのだろうか。
「とにかく、中にあの子達はいなかったよ。
まったく人間っていう奴は本当に……」
「おい、中で何があった!?」
だがエレは頭を振るばかりで何も答えない。
珍しく若干疲れたような、精気のないような顔付きで、いつになくオーラメーターの針がかなり左寄りの目盛りゼロ近くに触れているようだった。
「ま、まあいいんだが、お疲れさん。
こいつでもやってくれ」
俺がチョコをやると、ビーバーが丸太を齧るように齧り倒していくような、いつもの光景とは違って今日はゆっくり黙々と食っていた。
しかし、一体中で何があったのだろうか、気になるなあ。
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