邪神の恩返し

白南井 誰勿

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第0章 破壊神 爬沼蛭(はぬま ひる)編

本性 【R15】

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 家の玄関のドアを引き開けた。お母さんが見えない。いつもなら玄関まで来てくれるのに。リビングに入ると、お母さんがソファに沈んでいた。物音に気付いたお母さんは僕の方に顔を向ける。その顔にはくっきりと疲労の色が浮かんでいた。

「お帰りなさい、ヒル。ちょっと居眠りしちゃったみたい」
「ただいま帰りました、お母さん。大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと疲れちゃっただけよ。心配掛けてごめんね……」

 嘘だ。でも優しい嘘だ。凄くイライラする。

「誕生日なのに何も無いの……買っておいたぬいぐるみも……ごめんね……」

 高校生の誕生日プレゼントがぬいぐるみか……。 恐らく今頃、修繕も不可能なくらいにずたずたになってるだろうけどね。

 ボクには、父親の思考が手に取るように分かってしまった。

 そうしてボクへの誕生日プレゼントを阻止した父親は、帰宅してきたボクをどん底に突き落とすんだ。

「ヒル。地下室に来なさい」

 ほらね。

 ボクは父親の後に付いていく。

 その間もボクの頭脳は回転する。父親の全てを、滅茶苦茶に破壊し尽くす為に。殺すのは確定として、手足の先から少しずつすり潰していこう。

 オーソドックスに拷問道具を使っても良いけど、面白味に欠けるか。腕を丁寧にスライスする? 指を骨髄のスープで煮て食べさせる? 残った腕は・・で縛って断面を腐らせて……は、時間がないから無理か。否、時間を加速させればあるいは……。まだ手と腕しかやってないな。足はどうしようか。目は? 歯は? 耳は? 肋骨は? 心臓は? 兎に角、心も完膚なきまでに壊してやらないと、気が済まない。

 それなら地下室でやるのがベストだね。父親に弄ばれた場所で、今度はボクが遊んであげるんだ。自然と釣り上がってしまう口の端を右手で隠す。

 何を考えているんだボクは。苛立ちに任せてそんな事したら、爬沼蛭はぬまひるとお母さんに迷惑が掛かる。いや違う、爬沼蛭はぬまひるの為に、こいつを殺すんだ。でも、とても楽しそうだ。

 殺意を父親に悟られないように、爬沼蛭の仮面をつけ直して地下室へと降りる。

 その日は何故か、地下室に見たことのない男が居た。まあいいや。見せしめに殺そう。どう料理しようかなあ。父親に見せ付けるようにじわじわと? それとも、インパクトを大事に一撃? んー迷うなあ!

 メインイベントは派手にいかないとね。お陰で拷問具にも詳しくなったんだよ? だからお礼に最高のショーを見せてあげるよ!



――済まない、ヒル。私は、父親失格だ……。
 何か言われた気がしたけど、多分気のせいだ。



 拷問部屋の時間で五時間。実際には一分足らず。ボクの前に二つ、人間だった物が転がっていた。返り血が、ボクを真っ赤に染め上げていた。
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