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第1章 孤児 ビルド・ノーティス編
06 異変
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男13人、女20人か。大分集まったな。……なにがだ? 俺は今何を考えていたんだ? まあいいか、忘れてしまうということは、どうでも良いってことだろうしな。
それにしても……困った。
誰も俺と一緒に依頼を受けてくれなくなってしまったのだ。
「よぅ、〈悪運の〉!」
ハゲが不本意な呼び方をしてきたので手をヒラヒラ振るだけの適当な挨拶を返した。
渾名とも二つ名とも付かないこの呼ばれ方は、俺と一緒に依頼を受けた同業者が有意な確率で不幸に見舞われるにも関わらず、毎回俺だけが無傷で帰ることから来ている。
一度凄腕冒険者が俺の監視に付いたくらいだからな。勿論すぐに監視は外れた。本当に俺は悪運が強い。そもそも俺は冒険者の名を汚すようなことはしていないがな。
二つ名が付くのは誇らしいが、悪運の、って二つ名は嫌だ。まず意味が間違ってる。使い方は間違っているが、実際のところ間違っては無いから否定し辛い。
勿論生きたまま返した仲間の方が多いし、彼らはいつもの数倍の高報酬を得ている。さっきのハゲも幸運組だ。
こんなだからか、俺と組む奴は、命知らずのギャンブラーか、ヤバイ借金で後が無くなった奴か、訳あり新人か……いずれにせよ碌でもない奴ばかりになっていってしまった。
まあその方が罪悪感は少なくて済むか。
問題は、パーティになってくれる奴らが次第に減ってきている事だ。単独で依頼を受けることも増えた。一人で受けられる依頼にも限界があり、もうそろそろ宿代も苦しくなってきた。
肉なら自前で調達できるので食事はなんとでもなるのだが……。そろそろ孤児院にも帰らなければ。
◾️
と、思ったのだが。
「痛っ……結界?」
一瞬何が起こったか分からなかった。孤児院に向かう一本道で、壁のような硬いものに顔面から激突してしまった。前方には何もないのに。
ん? よく見ると、前方に透明な膜が張っている。結界だ。
今度はその結界を殴りつける。ビクともしなかった。痛い。押す。動かない。引く。ツルツルしてて無理。本当に目の前に教会が見えてるのに。あともうちょっとで孤児院に帰れるのに。はあ……仕方ない、帰るか。
こんな陰湿な嫌がらせ、先生の仕業に違いない。だから俺は怒るべきだ。
それなのに何故だろうか、それより先に、悲しみの方が先立つのは。
もしかしたら、俺が思うより、俺は先生の事を慕っていたのかも知れない。
と、教会に向かって歩く人影と目が合った。
「ビルド君! 今まで一体どこに居たのですか!?」
そこに居たのは、まさかの先生だった。俺に詰め寄って来たので一歩引いてしまった。
「えっ? 先生、どうしてここに?」
出てきたのは、そんな言葉だけだった。それに対する答えは、
「っそんなの、貴方を探していたからに決まっているじゃないですか!」
もしかして、先生は本当に? 広がる違和感。
「え」
このままだと俺は取り返しの付かない事を知ってしまうという妙な確信。
「あ」
何故か思い出したアスティオルカの笑顔……え? アスティ様の顔なんて、銅像でしか見たことない。それに、なんで俺、アスティ様の真名を知って?
「……君、本当にビルド君ですか?」
「先生、さよなら」
そして、俺は事実から目を逸らした。
それにしても……困った。
誰も俺と一緒に依頼を受けてくれなくなってしまったのだ。
「よぅ、〈悪運の〉!」
ハゲが不本意な呼び方をしてきたので手をヒラヒラ振るだけの適当な挨拶を返した。
渾名とも二つ名とも付かないこの呼ばれ方は、俺と一緒に依頼を受けた同業者が有意な確率で不幸に見舞われるにも関わらず、毎回俺だけが無傷で帰ることから来ている。
一度凄腕冒険者が俺の監視に付いたくらいだからな。勿論すぐに監視は外れた。本当に俺は悪運が強い。そもそも俺は冒険者の名を汚すようなことはしていないがな。
二つ名が付くのは誇らしいが、悪運の、って二つ名は嫌だ。まず意味が間違ってる。使い方は間違っているが、実際のところ間違っては無いから否定し辛い。
勿論生きたまま返した仲間の方が多いし、彼らはいつもの数倍の高報酬を得ている。さっきのハゲも幸運組だ。
こんなだからか、俺と組む奴は、命知らずのギャンブラーか、ヤバイ借金で後が無くなった奴か、訳あり新人か……いずれにせよ碌でもない奴ばかりになっていってしまった。
まあその方が罪悪感は少なくて済むか。
問題は、パーティになってくれる奴らが次第に減ってきている事だ。単独で依頼を受けることも増えた。一人で受けられる依頼にも限界があり、もうそろそろ宿代も苦しくなってきた。
肉なら自前で調達できるので食事はなんとでもなるのだが……。そろそろ孤児院にも帰らなければ。
◾️
と、思ったのだが。
「痛っ……結界?」
一瞬何が起こったか分からなかった。孤児院に向かう一本道で、壁のような硬いものに顔面から激突してしまった。前方には何もないのに。
ん? よく見ると、前方に透明な膜が張っている。結界だ。
今度はその結界を殴りつける。ビクともしなかった。痛い。押す。動かない。引く。ツルツルしてて無理。本当に目の前に教会が見えてるのに。あともうちょっとで孤児院に帰れるのに。はあ……仕方ない、帰るか。
こんな陰湿な嫌がらせ、先生の仕業に違いない。だから俺は怒るべきだ。
それなのに何故だろうか、それより先に、悲しみの方が先立つのは。
もしかしたら、俺が思うより、俺は先生の事を慕っていたのかも知れない。
と、教会に向かって歩く人影と目が合った。
「ビルド君! 今まで一体どこに居たのですか!?」
そこに居たのは、まさかの先生だった。俺に詰め寄って来たので一歩引いてしまった。
「えっ? 先生、どうしてここに?」
出てきたのは、そんな言葉だけだった。それに対する答えは、
「っそんなの、貴方を探していたからに決まっているじゃないですか!」
もしかして、先生は本当に? 広がる違和感。
「え」
このままだと俺は取り返しの付かない事を知ってしまうという妙な確信。
「あ」
何故か思い出したアスティオルカの笑顔……え? アスティ様の顔なんて、銅像でしか見たことない。それに、なんで俺、アスティ様の真名を知って?
「……君、本当にビルド君ですか?」
「先生、さよなら」
そして、俺は事実から目を逸らした。
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