双甲伝2-SOUKOUDEN2-

野口てんぐ

文字の大きさ
19 / 25

第19章 反撃の刃

しおりを挟む
村全体を覆うように、玄牙と月影の気配が濃く広がっていった。
夜が訪れる前の薄闇が、二人の影をさらに巨大に見せる。
その圧力に押され、村人の足が一歩後ろへ下がりかけた――が、すぐに誰かが声を張り上げた。

「下がるな! ぼくたちにはポンたちがついてる!」
「そうだ! 戦える、まだ戦える!」

その声のきっかけを作ったのは、他ならぬマメだった。
矢を構えた彼の背中を見て、誰もが再び勇気を取り戻す。
かつて怯えてばかりいた小さな少年が、今や村全体の象徴となっていた。

だが戦いは無情に続く。
玄牙の爪が一閃するたびに、空気が裂け、地面が深く抉れる。
「ぐっ……!」
ポンは甲羅で必死に受け止めるが、その度に地面が沈み込み、腕に痺れが走った。

「まだ倒れねぇか……だが、持つのも時間の問題だな!」
玄牙が獰猛な笑みを浮かべ、さらに踏み込んでくる。
その迫力は、巨岩が落ちてくるような圧倒感だった。

「ポン!」
ミクが叫び、すぐさま駆け寄る。
月影の槍がそれを追うように突き出されたが、ミクは鉄棒で弾き飛ばした。
「俺がいる! 二人で行くぞ!」
「おう!」

二人は背中を合わせ、玄牙と月影に同時に相対する。
敵の圧倒的な力に対して、連携という武器で挑む。
鉄棒と甲羅が交差するたびに、火花が散り、戦場の中心に激しい衝撃が走った。

「ははっ、面白い!かかってこい!」
玄牙の眼光がギラリと光り、爪が稲妻のように閃く。
だがその攻撃を、ポンの甲羅が受け止め、ミクの鉄棒が叩き返す。
ほんのわずかずつ、しかし確実に二人は押し返していた。

一方、戦線を支えるマメもまた必死だった。
矢を放つ指先は既に血で濡れ、肩も息も限界に近い。
それでも彼は止めなかった。
「……まだだ、ぼくは……ここで止まるわけにいかない!」

その時、彼の目に映ったのは、一人で泣きじゃくりながら母の背中に隠れる子供の姿だった。
震える手で小石を握りしめ、投げようとしてはためらっている。
マメは叫んだ。
「投げろ!! それを投げろ!! その一つが戦いを変えるんだ!」

子供は泣き顔のまま、震える手で小石を放った。
石は敵兵の頭に当たり、わずかな隙を生んだ。
すかさずマメが矢を放ち、その敵を倒す。
「よくやった! 君も戦士だ!」
マメの言葉に、子供の顔に涙混じりの笑顔が広がる。

その光景を見ていた村人たちが次々と声を上げた。
「俺たちもやれる!」
「一緒に戦おう!」
農具や石が次々と飛び、敵の進軍を止める。
戦場の流れが、確かに変わり始めていた。

「チッ……!」
月影が苛立ちを隠さず舌打ちした。
「素人どもが……邪魔をするな!」
彼が槍を振り上げた瞬間、マメの矢が飛んだ。
槍に当たってわずかに軌道を逸らせ、その隙にミクの鉄棒が月影の頬をかすめた。

「……てめぇら!」
月影が憤怒の表情を浮かべる。

だがその時、ポンが吠えるように叫んだ。
「仲間を馬鹿にするな! 俺たちは一人じゃねぇ!
仲間と一緒なら、どんな敵にも負けないッ!」

その叫びに応えるように、ミクもマメも声を合わせる。
「「おおおおおっ!!!」」

三匹の声が戦場に響き渡り、村人たちの心をさらに燃え上がらせた。
玄牙と月影、二人の強敵に対し、ポンたちはついに一歩、確実に反撃の刃を突き立て始めた――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...