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9話
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週明けの月曜日。
虎太郎は酷く重い頭を抱えながら会社へと向かっていた。
というのも、土曜にあった聡からの連絡以降、何度もあの時の記憶が蘇り、全く眠れなかった。
ウトウト眠りに付くと、夢を見る。
虎太郎は大きな手から逃げている。
だが、逃げても逃げても追いかけてくる‥‥そして引き戻される。
引き戻された先は、真っ暗な闇‥。
助けを求めても、口を開いても声が出ない、そんな忌々しい夢。
「‥‥はぁ」
大きな溜息が出るが、どうすればいいのか全く分からない。
「おい!大丈夫か?」
「‥‥ヒッ!」
突然、後ろから肩を叩かれ、虎太郎は驚いて声が出る。
「クックッ‥‥なんだ若奈‥どっから声が出た?」
虎太郎の奇妙な声に、来栖の笑いが止まらない。
「す‥すみません‥来栖主任、おはようございます。」
「ああ、おはよう。‥で?どうした?具合が悪いのか‥?」
腹を抱えて笑っていたはずなのに、顔色の悪い虎太郎を見て、急に心配そうな顔つきになる。
「いえ‥‥ちょっと眠れなくて‥」
「そうか、もし体調が悪いのなら、休んでも大丈夫だけど‥‥帰れるか?」
来栖は、心配して家に帰るように促すが、虎太郎が首を横に振る。
「いえ、仕事していた方が、気がまぎれるので大丈夫です」
弱々しく笑う姿に、来栖は頷くしか出来なかった。
「じゃあ、無理はするなよ。何かあったら、必ず言えよ。いいな」
「‥はい、すみません」
来栖は、あの時以来、虎太郎を見る目が変わっていた。
もともと自分と同じ性癖で可愛いと意識していたが、今は、それとは違った何か、自分にとって守りたい存在になっている。
少しでも力になれる事があるのなら、喜んで手を差し伸べたいと思っていた。
虎太郎はいつも以上に仕事にのめり込んでいた。
仕事している方が、何も考えなくていい。
あんな電話一本で、こんなにも弱くなる自分が嫌で仕方がない。
「若奈。‥おいっ!若奈!」
来栖の声に、また我に返る。
「はっ‥‥はい」
「もう、6時だぞ。今日は、早めに帰って休め」
来栖にそう言われ、時計を見ると終業時間を過ぎていた。
「‥‥でも‥」
虎太郎は帰りたくなかった。
帰ってしまうとまた考え、そして眠れなくなる。
そんな虎太郎の気持ちが分かる筈もなく、来栖は具合の悪そうな虎太郎を早く帰宅させたかった。
「でもじゃない‥こんな顔色で、無理するな。もし、明日もこんな調子なら、休んで構わないから。早く帰れ」
虎太郎は渋々帰る準備を始める。
来栖は、その姿に少し心配になったのか。
「大丈夫か?一人で帰れるか?」
そんな言葉を掛けてしまう。
「‥‥はい、大丈夫です」
「そっか、なんかあれば俺に連絡しろ。いつでもいいから‥」
そんな優しい言葉に、虎太郎がチラリと来栖を見上げる。
「‥‥なんだ?」
「来栖主任、あの‥今日って時間ありますか?」
突然の誘いに、来栖は戸惑うが、このまま放っておける訳がなかった。
「ああ、大丈夫だけど‥お前の体調が大丈夫なら、飯でも食って帰るか?」
その言葉に、虎太郎に少し笑顔が戻った。
「‥はい!」
「お前、いつもちゃんと飯食ってるのか?」
来栖にそう言われ、虎太郎は頷く。
「食べてますよ。来栖主任、それ言うの何回目ですか?僕は食べても体型は変わらないし、もう大きくもならないです」
少し元気になった虎太郎に、来栖も笑顔を向けた。
「そっか‥‥ふふっ‥」
二人は居酒屋に来ていた。
この居酒屋はすべての席が半個室になっていて、話もしやすく、よく来る店だ。
体調が悪いのだから、酒は飲むなと来栖に言われたが、虎太郎は飲んで気を紛らわしたかった。
お腹も膨れ何杯目かのグラスを空けると、そろそろ帰るか‥と来栖が言った。
「‥はい。今日は、ありがとうございました」
「帰ったら、早く寝るんだ。いいな」
そんな優しい来栖に、甘えてしまいそうになる。
「‥どうした?‥俺で良ければ話は聞くぞ?」
虎太郎は、こんな話を来栖に相談しても良いのか分からず、迷っていた。
以前も優しく話を聞いてくれたのに、こんな些細な事でウジウジして眠れなくなってしまう自分の弱さが、凄く嫌いだった。
「来栖主任‥僕、こんな弱い自分が嫌になります」
突然、そんな事を言い出した虎太郎に、来栖は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻る。
「なんかあったのか?」
やっぱり来栖主任は優しいな‥虎太郎はそう感じ、少しだけ勇気が出た。
「一昨日、大学の友人から連絡があったんです」
その言葉に、来栖はあの時の話を思い出した。
「‥その‥親友って奴か?」
「‥いえ、いつも一緒にいた友人の一人です。久しぶりに集まろうって‥」
唇が少し震えている虎太郎を見て、来栖はどう言葉を掛けていいのか分からなくなる。
「‥‥たった‥たったそれだけなのに‥僕、どうしても思い出して‥怖いんです。‥でも、そんな臆病な自分が‥一番嫌いです。‥こんな弱い自分が‥」
震える唇から何とか言葉を繋ぎ、何かに縋りたかったのだろうか‥そんな虎太郎の力になってあげたいと来栖は感じた。
「‥虎太郎、お前は弱くない。大丈夫だ」
そんな言葉を口にしたが、本当は優しく抱き締めてあげたかった。
思い出すだけで震えてしまう自分が恥ずかしいのか、虎太郎は終始うつむいていた。
「‥眠れないって、それが原因か?」
その言葉に、コクンと頷いた虎太郎。
「よし。じゃあ、今日は俺の家に来い。一緒に眠ってやるよ」
「‥えっ?」
「クスクスッ‥大丈夫。何もしないから、ただ一緒に寝るだけ」
こんなに弱っている虎太郎を一人で帰したくなかった。
せめて、眠れなくても傍にいてあげたかった。
「‥はい。お願いします」
虎太郎には、そんな来栖の言葉が嬉しかった。
そして素直になれる自分にも‥。
虎太郎は酷く重い頭を抱えながら会社へと向かっていた。
というのも、土曜にあった聡からの連絡以降、何度もあの時の記憶が蘇り、全く眠れなかった。
ウトウト眠りに付くと、夢を見る。
虎太郎は大きな手から逃げている。
だが、逃げても逃げても追いかけてくる‥‥そして引き戻される。
引き戻された先は、真っ暗な闇‥。
助けを求めても、口を開いても声が出ない、そんな忌々しい夢。
「‥‥はぁ」
大きな溜息が出るが、どうすればいいのか全く分からない。
「おい!大丈夫か?」
「‥‥ヒッ!」
突然、後ろから肩を叩かれ、虎太郎は驚いて声が出る。
「クックッ‥‥なんだ若奈‥どっから声が出た?」
虎太郎の奇妙な声に、来栖の笑いが止まらない。
「す‥すみません‥来栖主任、おはようございます。」
「ああ、おはよう。‥で?どうした?具合が悪いのか‥?」
腹を抱えて笑っていたはずなのに、顔色の悪い虎太郎を見て、急に心配そうな顔つきになる。
「いえ‥‥ちょっと眠れなくて‥」
「そうか、もし体調が悪いのなら、休んでも大丈夫だけど‥‥帰れるか?」
来栖は、心配して家に帰るように促すが、虎太郎が首を横に振る。
「いえ、仕事していた方が、気がまぎれるので大丈夫です」
弱々しく笑う姿に、来栖は頷くしか出来なかった。
「じゃあ、無理はするなよ。何かあったら、必ず言えよ。いいな」
「‥はい、すみません」
来栖は、あの時以来、虎太郎を見る目が変わっていた。
もともと自分と同じ性癖で可愛いと意識していたが、今は、それとは違った何か、自分にとって守りたい存在になっている。
少しでも力になれる事があるのなら、喜んで手を差し伸べたいと思っていた。
虎太郎はいつも以上に仕事にのめり込んでいた。
仕事している方が、何も考えなくていい。
あんな電話一本で、こんなにも弱くなる自分が嫌で仕方がない。
「若奈。‥おいっ!若奈!」
来栖の声に、また我に返る。
「はっ‥‥はい」
「もう、6時だぞ。今日は、早めに帰って休め」
来栖にそう言われ、時計を見ると終業時間を過ぎていた。
「‥‥でも‥」
虎太郎は帰りたくなかった。
帰ってしまうとまた考え、そして眠れなくなる。
そんな虎太郎の気持ちが分かる筈もなく、来栖は具合の悪そうな虎太郎を早く帰宅させたかった。
「でもじゃない‥こんな顔色で、無理するな。もし、明日もこんな調子なら、休んで構わないから。早く帰れ」
虎太郎は渋々帰る準備を始める。
来栖は、その姿に少し心配になったのか。
「大丈夫か?一人で帰れるか?」
そんな言葉を掛けてしまう。
「‥‥はい、大丈夫です」
「そっか、なんかあれば俺に連絡しろ。いつでもいいから‥」
そんな優しい言葉に、虎太郎がチラリと来栖を見上げる。
「‥‥なんだ?」
「来栖主任、あの‥今日って時間ありますか?」
突然の誘いに、来栖は戸惑うが、このまま放っておける訳がなかった。
「ああ、大丈夫だけど‥お前の体調が大丈夫なら、飯でも食って帰るか?」
その言葉に、虎太郎に少し笑顔が戻った。
「‥はい!」
「お前、いつもちゃんと飯食ってるのか?」
来栖にそう言われ、虎太郎は頷く。
「食べてますよ。来栖主任、それ言うの何回目ですか?僕は食べても体型は変わらないし、もう大きくもならないです」
少し元気になった虎太郎に、来栖も笑顔を向けた。
「そっか‥‥ふふっ‥」
二人は居酒屋に来ていた。
この居酒屋はすべての席が半個室になっていて、話もしやすく、よく来る店だ。
体調が悪いのだから、酒は飲むなと来栖に言われたが、虎太郎は飲んで気を紛らわしたかった。
お腹も膨れ何杯目かのグラスを空けると、そろそろ帰るか‥と来栖が言った。
「‥はい。今日は、ありがとうございました」
「帰ったら、早く寝るんだ。いいな」
そんな優しい来栖に、甘えてしまいそうになる。
「‥どうした?‥俺で良ければ話は聞くぞ?」
虎太郎は、こんな話を来栖に相談しても良いのか分からず、迷っていた。
以前も優しく話を聞いてくれたのに、こんな些細な事でウジウジして眠れなくなってしまう自分の弱さが、凄く嫌いだった。
「来栖主任‥僕、こんな弱い自分が嫌になります」
突然、そんな事を言い出した虎太郎に、来栖は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻る。
「なんかあったのか?」
やっぱり来栖主任は優しいな‥虎太郎はそう感じ、少しだけ勇気が出た。
「一昨日、大学の友人から連絡があったんです」
その言葉に、来栖はあの時の話を思い出した。
「‥その‥親友って奴か?」
「‥いえ、いつも一緒にいた友人の一人です。久しぶりに集まろうって‥」
唇が少し震えている虎太郎を見て、来栖はどう言葉を掛けていいのか分からなくなる。
「‥‥たった‥たったそれだけなのに‥僕、どうしても思い出して‥怖いんです。‥でも、そんな臆病な自分が‥一番嫌いです。‥こんな弱い自分が‥」
震える唇から何とか言葉を繋ぎ、何かに縋りたかったのだろうか‥そんな虎太郎の力になってあげたいと来栖は感じた。
「‥虎太郎、お前は弱くない。大丈夫だ」
そんな言葉を口にしたが、本当は優しく抱き締めてあげたかった。
思い出すだけで震えてしまう自分が恥ずかしいのか、虎太郎は終始うつむいていた。
「‥眠れないって、それが原因か?」
その言葉に、コクンと頷いた虎太郎。
「よし。じゃあ、今日は俺の家に来い。一緒に眠ってやるよ」
「‥えっ?」
「クスクスッ‥大丈夫。何もしないから、ただ一緒に寝るだけ」
こんなに弱っている虎太郎を一人で帰したくなかった。
せめて、眠れなくても傍にいてあげたかった。
「‥はい。お願いします」
虎太郎には、そんな来栖の言葉が嬉しかった。
そして素直になれる自分にも‥。
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