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11話
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会社に着き、二人がオフィスに入ると、ざわついていた声がピタリと止み、シンと静まり返る。
「おはようございます」
挨拶しながら自分達の席に着くと、すぐに市原が来栖の元へ来た。
「来栖‥少しいいか‥」
市原の端正な顔が、少し強張っていた。
「あっ‥はい‥」
来栖は返事をし、市原の後ろを付いていった。
虎太郎はその後姿を見ながら、何故だかすごく不安に駆られる。
「‥虎太郎」
後ろから呼ばれ、振り向くと望月奏が立っていた。
「‥なに‥?なんかあったの‥?」
このオフィスの空気が、どこかおかしいのだ。
「‥あのね、メールが届いて‥‥来栖主任の‥えっと‥プライベートな‥‥」
「プライベートって‥どんな?」
「‥営業1課宛てに届いたから、さっきまでは誰でも見れたんだけど‥市原課長が来て、皆にメールは開くなって言って‥‥もう、削除されていると思う‥」
「奏は見たの‥?」
「‥‥う‥うん。‥私、いつも早く来てるから‥たまたま見てしまって‥」
「教えて、どんなメール‥?」
このオフィスの雰囲気と、皆が来栖を見ていた視線。
それに、言い淀んでいる奏に、虎太郎は不安でたまらなくなる。
「‥‥市原課長が、皆に口止めしていたから‥内緒にしてね‥『大島食品 製造営業部 営業1課の皆様へ』って、『そちらの来栖遥人の悪行を、誠意をもってご報告いたします』って、そんな本文があって、写真が10枚ほど添付されてたの。‥あの‥‥だっ‥‥男性と‥‥裸で‥っ‥」
「もっ‥もういい‥分かった。ありがとう‥」
奏が顔を真っ赤にしながら口にしている様子を見て、慌てて虎太郎は次の言葉を遮った。
内容は分かった。
そのメールの話を聞いて、虎太郎は昨夜の来栖の部屋にあった写真を思い出した。
テーブルに投げ出されていた写真を、慌てて隠していた来栖‥。
もしかして、誰かに脅されていたのだろうか?
虎太郎はそんな事を考え、ますます来栖が心配になってきた。
市原は空いている会議室へ来栖を連れて行き、椅子に座る様に促し、自分も長テーブルを挟んで向かいに座る。
「‥なっ‥なにか‥?」
オフィスの異常な静けさと、目の前の市原の顔を見て、何かしら自分がやらかしてしまったのだという事は分かった。
「‥はぁ~、ちょっと困ったことになる」
市原の言葉に、来栖は覚悟が必要なのだと感じた。
「‥‥はい」
来栖の覚悟した顔を見て、市原はもう一度大きく息を吐いた。
「‥これだ」
そう言って、来栖の目の前に出された物は、先程のメールを急いでコピーしたものだ。
「‥‥っ‥」
「‥これは、お前だな?‥来栖」
その写真は、自宅のポストに入っていたものと同じものだった。
相手の顔は加工されていて分からないようになっているが、来栖の顔はハッキリ分かる。
それに何をしているのかも、しっかりと分かる。
「‥‥はい」
「‥そうか、俺はプライベートな事には口を出したくはないが、これが営業1課宛てに届いたとなれば、会社にも隠すことが出来ない。‥上にも報告が必要になるだろう‥」
「‥‥はい」
下手したらクビになるかもな‥来栖はそう感じていた。
「会社としては以上だ。‥‥で、ここからは一人の友人として‥来栖、こんな悪質な趣味を持っている奴の見当は付いているのか‥?それとも、誰かに脅されているのか‥?」
市原の顔は、来栖を心配していると言っている様だった。
「‥他に嫌がらせは?」
何も話さない来栖に、再び言葉を掛けてくる。
来栖は迷ったが、すべてを打ち明ける事にした。
会社にも、自分の事で、これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない。
「‥7月頃から‥メッセージが自宅に‥これと同じ写真も、先週自宅に届きました」
「メッセージとはなんだ?」
「人のものに手を出すと報いを受けるとか‥それがダイレクトにポストに‥‥写真は先日の土曜です。お盛んですね‥これが最後の警告です‥とかなんとか、これもダイレクトにポストに入ってました」
「心当たりはないのか?」
「‥はい、全く。なんの恨みを買ったのか、それさえも分かりません。写真の相手も‥その‥‥一夜限りっていうか‥連絡先も知らない相手で‥」
「警察には?通報したのか‥?」
「いえ、どうせ警察に行っても、何も変わらないし、言いたくないです」
「よし分かった。とりあえず、今日はこのまま帰って、連絡するまで自宅待機‥いいな」
市原の言葉に、来栖は頷く事しか出来なかった。
まさか、会社まで知られているとは、思ってもみなかった。
ここまでするほど、相手は相当陰湿なタイプなんだと、改めて感じていた。
「分かりました」
「‥危ない真似はするんじゃないぞ、分かったな」
「‥はい」
市原に何度も念を押され、来栖はそのまま会議室を出ると、エレベーターに乗り会社を出て行く。
市原は、そのままオフィスに戻ると、皆を呼び集めた。
「先程聞いた者も、見た者もいると思うが、怪しいメールが届いた。事実も根拠もない写真だ。安易な憶測を口にすることのないように。削除はすでにしてあるが、また再び来ないとも限らない。またそんなメールを見た者は、開かず速やかに報告するように!いいな!気を付けるんだぞ。あと、来栖主任は、体調不良ですでに退社している。今日のあいつの仕事は、俺がフォローに入る。‥以上だ」
市原がそう告げると、みんなはすぐに仕事に戻っていく。
そして市原が虎太郎の近くに来る。
「という訳だから、悪いな。今日の予定はどうなってる?」
「はい、2社とリモートで打ち合わせ、1社に見積もりを送る事になっています。‥‥あの‥来栖主任は、大丈夫ですか?」
心配している虎太郎の言葉に、市原は大きく頷いた。
「ああ、大丈夫だ。心配するな。若奈は打ち合わせの準備をしておいてくれ、すぐに戻る」
虎太郎が安心するように、市原は笑顔でオフィスを出て行った。
市原の姿が見えなくなると、再びオフィスがざわつくが、市原の話を疑う者はいなかった。
「はぁ~よかった。おかしいと思ったのよ。あんな写真。ねぇ虎太郎」
奏にそう言われ頷きはしたが、虎太郎は市原の言葉を信じてはいなかった。
あれは本当に誰かの悪意のメールだったんだ‥。
昼休みになり、虎太郎は来栖に連絡を入れてみた。
「はい、どうした?若奈」
思いのほか明るい声で出た来栖に、虎太郎は少しホッとした。
「来栖主任‥大丈夫ですか?」
心配しすぎて声が震えそうになる。
「ああ、大丈夫だ。迷惑かけて悪いな」
「いえ、僕は何も出来なくて、市原課長が、来栖主任は体調不良でしばらく休むって言ってました。だから、代わりに市原課長が僕に色々と指導してくれてます」
「あ~そうか、そりゃ安心だ。‥で?どうした?」
心配そうな来栖の声に、虎太郎は極力明るく話さなければと思うが、それが難しそうだった。
「なにか‥僕に手伝えることはありませんか?」
あまりにも真剣な虎太郎の声に、不謹慎にも来栖は少し嬉しくなった。
おそらく虎太郎は、あの写真が現実にあった事だと感じているのだろう。
だからこそ、心配だと言ってくれている気持ちに胸が熱くなる。
「ふふっ‥ありがとう。若奈‥でも、大丈夫だ。しばらく自宅でのんびりしてるよ」
虎太郎は少しでも来栖の力になってあげたい気持ちが溢れてくる。
「今日も、主任の家に行っても良いですか?」
「ダメだ!」
虎太郎の言葉に、来栖は強めに言い放った。
「す‥すみません」
「あっ、悪い。俺は大丈夫だから、お前は家に帰ってしっかり休め。また眠れなくならないように、あまり考え込むなよ。なっ?」
明るく諭すように話す来栖に、これ以上我儘は言えなかった。
「‥はい、わかりました」
「じゃあな、仕事がんばれ」
そう言って来栖の電話は切れた。
電話を切った後、来栖は大きな溜め息を付いた。
犯人は誰か分からないが、自分の事や周りを調べ尽くしているのは分かる。これ以上、虎太郎に構うのは危ない。自分のせいで虎太郎にまで迷惑を掛ける訳にはいかない。ましてや、虎太郎には大きな傷がある。こんな事に、虎太郎を巻き込みたくない‥来栖はそう思っていた。
「若奈、あとは伊藤食品に見積もりを送るだけだな?」
「はい、先日、来栖主任の許可は得ているのですが、一応、課長も確認してもらっていいでしょうか?」
虎太郎はそう言いながら、市原のPCにデータを転送する。
「ああ、分かった。少し待ってろ」
届いたデータをすぐに開き、確認を急ぐ。
細かいところまで行き届いた見積もりで、修正箇所は無かった。
「若奈、大丈夫だ。これで送っておけ」
その言葉に、虎太郎は返事をして早速メールを送る。
これで今日の仕事は終了し、あとは明日の準備をするだけだ。
明日は、リモートの打ち合わせが3件のみで、何とか来栖が戻ってくるまで、ミスなく仕事をこなしたいと、虎太郎は意気込んでいた。
「おはようございます」
挨拶しながら自分達の席に着くと、すぐに市原が来栖の元へ来た。
「来栖‥少しいいか‥」
市原の端正な顔が、少し強張っていた。
「あっ‥はい‥」
来栖は返事をし、市原の後ろを付いていった。
虎太郎はその後姿を見ながら、何故だかすごく不安に駆られる。
「‥虎太郎」
後ろから呼ばれ、振り向くと望月奏が立っていた。
「‥なに‥?なんかあったの‥?」
このオフィスの空気が、どこかおかしいのだ。
「‥あのね、メールが届いて‥‥来栖主任の‥えっと‥プライベートな‥‥」
「プライベートって‥どんな?」
「‥営業1課宛てに届いたから、さっきまでは誰でも見れたんだけど‥市原課長が来て、皆にメールは開くなって言って‥‥もう、削除されていると思う‥」
「奏は見たの‥?」
「‥‥う‥うん。‥私、いつも早く来てるから‥たまたま見てしまって‥」
「教えて、どんなメール‥?」
このオフィスの雰囲気と、皆が来栖を見ていた視線。
それに、言い淀んでいる奏に、虎太郎は不安でたまらなくなる。
「‥‥市原課長が、皆に口止めしていたから‥内緒にしてね‥『大島食品 製造営業部 営業1課の皆様へ』って、『そちらの来栖遥人の悪行を、誠意をもってご報告いたします』って、そんな本文があって、写真が10枚ほど添付されてたの。‥あの‥‥だっ‥‥男性と‥‥裸で‥っ‥」
「もっ‥もういい‥分かった。ありがとう‥」
奏が顔を真っ赤にしながら口にしている様子を見て、慌てて虎太郎は次の言葉を遮った。
内容は分かった。
そのメールの話を聞いて、虎太郎は昨夜の来栖の部屋にあった写真を思い出した。
テーブルに投げ出されていた写真を、慌てて隠していた来栖‥。
もしかして、誰かに脅されていたのだろうか?
虎太郎はそんな事を考え、ますます来栖が心配になってきた。
市原は空いている会議室へ来栖を連れて行き、椅子に座る様に促し、自分も長テーブルを挟んで向かいに座る。
「‥なっ‥なにか‥?」
オフィスの異常な静けさと、目の前の市原の顔を見て、何かしら自分がやらかしてしまったのだという事は分かった。
「‥はぁ~、ちょっと困ったことになる」
市原の言葉に、来栖は覚悟が必要なのだと感じた。
「‥‥はい」
来栖の覚悟した顔を見て、市原はもう一度大きく息を吐いた。
「‥これだ」
そう言って、来栖の目の前に出された物は、先程のメールを急いでコピーしたものだ。
「‥‥っ‥」
「‥これは、お前だな?‥来栖」
その写真は、自宅のポストに入っていたものと同じものだった。
相手の顔は加工されていて分からないようになっているが、来栖の顔はハッキリ分かる。
それに何をしているのかも、しっかりと分かる。
「‥‥はい」
「‥そうか、俺はプライベートな事には口を出したくはないが、これが営業1課宛てに届いたとなれば、会社にも隠すことが出来ない。‥上にも報告が必要になるだろう‥」
「‥‥はい」
下手したらクビになるかもな‥来栖はそう感じていた。
「会社としては以上だ。‥‥で、ここからは一人の友人として‥来栖、こんな悪質な趣味を持っている奴の見当は付いているのか‥?それとも、誰かに脅されているのか‥?」
市原の顔は、来栖を心配していると言っている様だった。
「‥他に嫌がらせは?」
何も話さない来栖に、再び言葉を掛けてくる。
来栖は迷ったが、すべてを打ち明ける事にした。
会社にも、自分の事で、これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない。
「‥7月頃から‥メッセージが自宅に‥これと同じ写真も、先週自宅に届きました」
「メッセージとはなんだ?」
「人のものに手を出すと報いを受けるとか‥それがダイレクトにポストに‥‥写真は先日の土曜です。お盛んですね‥これが最後の警告です‥とかなんとか、これもダイレクトにポストに入ってました」
「心当たりはないのか?」
「‥はい、全く。なんの恨みを買ったのか、それさえも分かりません。写真の相手も‥その‥‥一夜限りっていうか‥連絡先も知らない相手で‥」
「警察には?通報したのか‥?」
「いえ、どうせ警察に行っても、何も変わらないし、言いたくないです」
「よし分かった。とりあえず、今日はこのまま帰って、連絡するまで自宅待機‥いいな」
市原の言葉に、来栖は頷く事しか出来なかった。
まさか、会社まで知られているとは、思ってもみなかった。
ここまでするほど、相手は相当陰湿なタイプなんだと、改めて感じていた。
「分かりました」
「‥危ない真似はするんじゃないぞ、分かったな」
「‥はい」
市原に何度も念を押され、来栖はそのまま会議室を出ると、エレベーターに乗り会社を出て行く。
市原は、そのままオフィスに戻ると、皆を呼び集めた。
「先程聞いた者も、見た者もいると思うが、怪しいメールが届いた。事実も根拠もない写真だ。安易な憶測を口にすることのないように。削除はすでにしてあるが、また再び来ないとも限らない。またそんなメールを見た者は、開かず速やかに報告するように!いいな!気を付けるんだぞ。あと、来栖主任は、体調不良ですでに退社している。今日のあいつの仕事は、俺がフォローに入る。‥以上だ」
市原がそう告げると、みんなはすぐに仕事に戻っていく。
そして市原が虎太郎の近くに来る。
「という訳だから、悪いな。今日の予定はどうなってる?」
「はい、2社とリモートで打ち合わせ、1社に見積もりを送る事になっています。‥‥あの‥来栖主任は、大丈夫ですか?」
心配している虎太郎の言葉に、市原は大きく頷いた。
「ああ、大丈夫だ。心配するな。若奈は打ち合わせの準備をしておいてくれ、すぐに戻る」
虎太郎が安心するように、市原は笑顔でオフィスを出て行った。
市原の姿が見えなくなると、再びオフィスがざわつくが、市原の話を疑う者はいなかった。
「はぁ~よかった。おかしいと思ったのよ。あんな写真。ねぇ虎太郎」
奏にそう言われ頷きはしたが、虎太郎は市原の言葉を信じてはいなかった。
あれは本当に誰かの悪意のメールだったんだ‥。
昼休みになり、虎太郎は来栖に連絡を入れてみた。
「はい、どうした?若奈」
思いのほか明るい声で出た来栖に、虎太郎は少しホッとした。
「来栖主任‥大丈夫ですか?」
心配しすぎて声が震えそうになる。
「ああ、大丈夫だ。迷惑かけて悪いな」
「いえ、僕は何も出来なくて、市原課長が、来栖主任は体調不良でしばらく休むって言ってました。だから、代わりに市原課長が僕に色々と指導してくれてます」
「あ~そうか、そりゃ安心だ。‥で?どうした?」
心配そうな来栖の声に、虎太郎は極力明るく話さなければと思うが、それが難しそうだった。
「なにか‥僕に手伝えることはありませんか?」
あまりにも真剣な虎太郎の声に、不謹慎にも来栖は少し嬉しくなった。
おそらく虎太郎は、あの写真が現実にあった事だと感じているのだろう。
だからこそ、心配だと言ってくれている気持ちに胸が熱くなる。
「ふふっ‥ありがとう。若奈‥でも、大丈夫だ。しばらく自宅でのんびりしてるよ」
虎太郎は少しでも来栖の力になってあげたい気持ちが溢れてくる。
「今日も、主任の家に行っても良いですか?」
「ダメだ!」
虎太郎の言葉に、来栖は強めに言い放った。
「す‥すみません」
「あっ、悪い。俺は大丈夫だから、お前は家に帰ってしっかり休め。また眠れなくならないように、あまり考え込むなよ。なっ?」
明るく諭すように話す来栖に、これ以上我儘は言えなかった。
「‥はい、わかりました」
「じゃあな、仕事がんばれ」
そう言って来栖の電話は切れた。
電話を切った後、来栖は大きな溜め息を付いた。
犯人は誰か分からないが、自分の事や周りを調べ尽くしているのは分かる。これ以上、虎太郎に構うのは危ない。自分のせいで虎太郎にまで迷惑を掛ける訳にはいかない。ましてや、虎太郎には大きな傷がある。こんな事に、虎太郎を巻き込みたくない‥来栖はそう思っていた。
「若奈、あとは伊藤食品に見積もりを送るだけだな?」
「はい、先日、来栖主任の許可は得ているのですが、一応、課長も確認してもらっていいでしょうか?」
虎太郎はそう言いながら、市原のPCにデータを転送する。
「ああ、分かった。少し待ってろ」
届いたデータをすぐに開き、確認を急ぐ。
細かいところまで行き届いた見積もりで、修正箇所は無かった。
「若奈、大丈夫だ。これで送っておけ」
その言葉に、虎太郎は返事をして早速メールを送る。
これで今日の仕事は終了し、あとは明日の準備をするだけだ。
明日は、リモートの打ち合わせが3件のみで、何とか来栖が戻ってくるまで、ミスなく仕事をこなしたいと、虎太郎は意気込んでいた。
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