愛に抗うまで

白樫 猫

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15話

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虎太郎は仕事を終えると、なんとか気持ちを奮い立たせ、メールの住所へと向かっていた。
どうして今頃になって、自分の前に出てきたのか‥。
あの親友として一緒に過ごした4年間は何だったのか?
自分だけが大切な親友だと感じていたのだろうか?
虎太郎は、そんな考えが頭の中をグルグルと回り、だんだんと足取りが重くなっていく。

メールにあった住所のマンションに辿り着くと、入り口で見上げる。
ここはどう見ても高級マンションで、おそらく賃貸ではなく分譲‥。
社会人1年目の人間が住めるマンションではない。
少し気後れしなうになりながら、虎太郎はエントランスで部屋番号を押した。
「入って」と声が聞こえ、カチャリと自動ドアが開く。
中に入りエレベーターに乗り込み、目的の階に着くと、部屋番号を探しながら歩く。
その部屋は一番奥にあった。
ドアの前に立ち、大きく深呼吸をすると、震えそうになる指先をギュッと握り締めインターホンを鳴らした。
カチャリとドアが開き、汰久がまったく変わらない笑顔のまま顔を出した。

「ああ、虎太郎。やっと来たな」

本当に嬉しそうな顔で笑うから、虎太郎は一瞬で大学生活に戻り、今までの嫌な事が全て自分の勘違いで、ずっと自分達は親友だったんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。

「‥ああ」

なんて返事をしていいのか分からず、虎太郎は促されるままに中に入る。
廊下を抜けリビングに案内される。
そこは汰久らしくシンプルな家具でまとまっておりセンスが良い。
汰久は嬉しそうに、ソファに座る様に促した。

「虎太郎、飯食ってないだろ?‥適当に用意したんけど、一緒に食べよう」

何も変わらない態度で、自分をあざ笑っているのだろうか?
そう考えると、虎太郎は悔しくて仕方がない。
翻弄されているのは、自分なのだ。

「‥‥いらない」

突き放したような虎太郎の言葉に、汰久はスッと眉を潜めた。
そしてグラスを二つ出すと、ワインを持ってきた。

「じゃあさ、酒に付き合えよ。このワイン旨いから。少しならいいだろ?」

そう言いながら、汰久はワインを開けグラスに注ぐ。
グラスをひとつ虎太郎に渡すと、カチンとグラスを合わせる。

「‥俺達の再会に」

ワインを口にする汰久を横目に、虎太郎は全く飲む気にはなれなかった。
口を付ける事無くテーブルにグラスを戻す。
そんな虎太郎の様子を見て、汰久はキッチンへ向かい、軽いつまみを持ってくる。

「はい、これもつまんで。空きっ腹だと、逆に悪酔いしちゃうから‥」

目の前の皿にはチーズや野菜が乗ったオープンサンドが綺麗に並んでいた。
凄く自分に気を使っている気がするのは何故だろう。
あんな事をしておいて、どういうつもりなのか、虎太郎には理解できなかった。

「‥汰久、お願いだ‥あの映像を消してくれ」

唐突に放った虎太郎の言葉に、汰久は眉を寄せたが、それも一瞬ですぐにいつもの笑顔に戻る。

「ふふっ‥相変わらず、虎太郎はせっかちだね‥」
「‥汰久、なんで‥‥こんな事」
「はぁ~虎太郎は、何も分かってないね‥」

汰久の言葉に、少し棘が含まれていた。
人の身体を強制的に奪い、何を分かれというのだと、虎太郎は憤る。

「どういう事だ?‥僕は‥僕達はずっと‥」

親友だと思っていた。
本当だったらこれからも‥ずっと‥。
虎太郎は、その言葉を飲み込んだ。
口にしてしまうと、涙が零れそうになるから。

一瞬の沈黙の後、汰久が口を開く。

「‥虎太郎。悪いな‥俺は、お前の事を友人だとは一度も思った事はない‥」

汰久の言葉に、虎太郎はまるで頭を殴られた衝撃を受けた。
あの、自分達の時間が、嘘で作られていた時間だったなんて‥。

「‥そっ‥そんな‥」

もう、何も言える言葉が見つからない。
初めから自分は、間違っていたんだ‥。

「だから、あの映像を消すことは出来ない。これからも、ずっと‥」
「汰久、お願いだ‥僕の何かが気に食わないんだろ?いくらでも謝るから‥」

自分が知らない間に、汰久を傷付けてしまっていたのか、あの優しかった汰久が、ここまで残酷な仕打ちをするなんて信じられず、思わず発した言葉だった。

「クスクスッ‥やっぱり虎太郎は何も分かってない。まぁ、いいよ。そんな事はとうに分かっていたから。俺は俺のやりたいようにやるしかないんだ」

汰久はそう言って、その切れ長の目を細め美しく笑った。

「それはそうと、一緒に鑑賞する?」

汰久の手に握られている携帯から、あの映像が流れだす。
あの時は、気が付かなかったが、音も鮮明に出ており、自分とは思えない嬌声が部屋に響き渡った。

「‥やっ‥やめろ!!‥やめてくれ‥」

虎太郎は立ち上がると、汰久の手から携帯を奪おうと手を伸ばす。

「おっと‥クスクスッ‥‥」

伸ばした手をあっさりと掴まれ、ソファに倒される。
手首を掴まれ痛みが走る。

「なっ‥何すんだ!」
「何するって、決まってるでしょ?分かってるくせに‥クスッ‥」

意味深な顔をしている汰久を、虎太郎は睨みつける。
この状況に、虎太郎にあの時の記憶が蘇ってくる。
体の大きさも、力も到底かなわない。

「放せ!」
「素直じゃない虎太郎も良いけど、俺としたら素直な方が好きかな‥ふふっ‥そうそう、この映像さ、どうする?虎太郎の家族に送る?‥それとも、会社かな‥?ふふっ‥SNSに上げるのもいいね‥」

悪戯を計画している子供のような顔をして楽しく笑う。
そして息が掛かる程に顔を近づけると、真っ直ぐに虎太郎の目を見つめた。
熱を帯びている視線に、自分には理解出来ないと目を逸らした。

「‥汰久‥どうして‥そんなに、僕の事が憎いのか?」

虎太郎の言葉に、汰久は口角を上げた。

「どうだろうね‥。そうかも、だから虎太郎‥ジッとして、抵抗しないで」

汰久はそう言うと、虎太郎の唇を塞いだ。
温かく柔らかい汰久の唇が、ギュッと結んでいる虎太郎の唇を啄むように何度も触れる。

「‥っ‥‥んっ‥」
「‥口を開けて‥」

汰久の声は聞こえたが、虎太郎の唇は頑なに閉じられたまま、身体が全身で拒否している。
唇が離れ、汰久の大きな溜息が聞こえると、身体を起し自分の携帯を開いた。

「‥じゃあ、まずは会社ね‥」

そう言うと、メールを開き、あの映像を添付しようとする。

「やっ!やめて!!お願い」

虎太郎はすぐさま汰久の腕を握り、懇願する。
こんな映像が会社に知られてしまったら‥。

「はぁ~初めから、俺は言ってるよね。二度は無しだよ‥」

汰久の瞳には冷たい色が見えた。
その瞳を見て、虎太郎の身体が小刻みに震えだす。

「いい子にしてね。虎太郎‥じゃあ、まず服を脱いで」

あっさりと耳を疑う言葉を言われ、虎太郎の瞳が左右に揺れる。

「なっ‥なんで‥‥」
「虎太郎」

冷たい言葉と無表情の顔。
自分に向けられていた温かい汰久はもういない。
虎太郎は立ち上がると、細かく震える指先でゆっくり服を脱ぎだした。
ジャケットを脱ぎ、Yシャツ‥スラックス‥下着一枚になり躊躇う虎太郎を見て、汰久は冷酷に言い放つ。

「全部だよ‥」

その言葉に、身体がビクッと反応する。
虎太郎は唇をギュッと噛み締めた。

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