愛に抗うまで

白樫 猫

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20話

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虎太郎は、来栖のマンションを出ると、すぐに大通りに出てタクシーを拾う。
運転手に汰久のマンションの住所を伝え、シートに身を委ねた。
少し眠れて食事を口にしたからか、朝よりも身体が楽になっていた。
来栖の家にいるとグッスリと眠れてしまうのは、どうしてだろうと考えるが、導き出した答えを否定するように虎太郎は首を振る。
あの日から、虎太郎の日常は変わった。
毎日、仕事を終え汰久のマンションへ帰る。自分の家に帰宅する事もままならず、着替えもすべて汰久が用意したものを身に着けている。
差し出した身体は、もうすでに薄汚れ、虎太郎はもう引き返せないとこまで来ていた。

マンションに着くと、いつものように汰久が出迎える。

「おかえり、虎太郎」

ニコリと笑った汰久の言葉に、虎太郎は大人しく部屋へと入る。
いつものように部屋着に着替える為、寝室へ向かい服を脱ぎ始めると、その様子を眺めながら汰久は意味ありげな顔を向けてくる。

「今日は、どうして遅くなったの?‥残業かな?」

寝室の入り口に寄りかかり、あたかも心配していたように声を掛けてくる汰久に、虎太郎は平静を装い小さく頷いた。

「‥‥そう、残念だよ。虎太郎は何度も俺を騙すんだね‥嘘つき」

長い沈黙の後に発せられた、汰久の感情の籠っていない言葉に、ゾクッと背筋に冷たいものが走るが、それを隠すように虎太郎は着替えている手を止める事はしなかった。

「‥本当だから」

何としても隠さなくてはいけない。
来栖の事を知られては、汰久が何をしでかすか分からない。

「へぇ~実はね。今日の午後、ちょっと用事があってね。大島食品に連絡したんだ。そしたら早退したって聞いたよ。誰を庇っているのかな?」

汰久の言葉に、Yシャツのボタンを外していた手がピタリと止まる。

「‥誰も庇ってなんかない」
「ふ~ん、なるほどね‥」

汰久がゆっくりと近づくと、虎太郎を後ろから抱き寄せ、首元に顔を埋めた。

「‥‥っ‥なっ‥なんだ‥」

汰久の腕から逃れようとする虎太郎の身体をしっかり抑えると、クンクンとわざとらしく匂いを嗅ぐ。

「‥臭いね‥臭うよ‥‥先に風呂に入っておいでよ」

汰久が虎太郎の身体を突き離すと、膝が震えて力が入らない虎太郎は、ガクガクと身体が崩れ落ちる。
驚いて声も出ない虎太郎に向かい、さらに汰久は冷酷に言い放つ。

「隅々まで綺麗に洗うんだ」

虎太郎は、ヨロヨロと立ち上がり、風呂場へ向かう。
来栖の事を知られなくない‥ただそれだけを考え、虎太郎は必死に身体を洗った。

風呂を上がると、汰久は食事を用意していた。

「虎太郎、ご飯食べるでしょ?ちゃんと食べないと‥俺は、もう食べたから」

先程までの怒りは消えてしまったかのように、穏やかな言葉だった。

「‥うん」

食欲は無いが、ここで食べないという選択肢は、虎太郎にはなかった。
素直に席に座ると、汰久の用意してくれた料理を前にする。
汰久は料理が上手だった。
いつも栄養のバランスを考えて用意してくれている。
今日もテーブルには、虎太郎が食べやすいように具沢山のスープや、旬の野菜や鶏肉が蒸された物などが並んでいた。
虎太郎はスープを手に取ると、ひと匙すくって口に入れた。
スープは中華味で卵と小さめに切った野菜が、柔らかくなるまで煮込まれていた。
おそらく美味しいのだろう。
ただ、虎太郎には何も感じなかった。
結局、あまりお腹に入らず、スープだけを飲み干すと、虎太郎は箸をおいた。
その様子をずっと正面の椅子に座り眺めていた汰久が、心配そうな顔をした。

「もう、食べないの?」

その声が悲しそうで、胸がギュッと痛む。
ごめんと呟いた虎太郎に、汰久は寂しそうに食事を片付け始める。
手伝おうと席を立つと、それを遮られた。

「虎太郎は、あっちのソファで休んでて‥俺がやるから」
「‥‥うん」

会話をすると、すぐに昔に戻ったかのように感じてしまう。
あの頃は、こんななんでもない会話でも、毎日が楽しかった。
そんな事をふと思い出し、虎太郎は目の奥が熱くなるのを感じ、涙を見られたくなくて慌ててソファへと向かった。



「‥‥あっ‥‥ああっ‥んぁ‥もう‥‥」

虎太郎は両手を縛られベッドに固定され、両足を大きく開かされ恥部に指を入れられて、グチャグチャと煽られていた。
一番感じる場所を先程から執拗に責められ続け、虎太郎の反り立った陰茎は、すでにダラダラと雫を溢していた。
こんな状態で、もう我慢の限界がきていた。
早く、その太くて大きな汰久のモノを、自分に突き刺して欲しい‥。

「‥もう入れて欲しい‥?」

そんな汰久の言葉に、コクコクと何度も頷く。
重なる唇からの刺激で、達してしまいそうになる。

「‥ふんっ‥‥ぁ‥た‥たく‥‥早く‥」

強請ってくる虎太郎は、可愛くて仕方がない。
汰久はベッドサイドからタオルを取り出すと、虎太郎に目隠しをする。

「‥虎太郎、誰も見てないから‥自分に正直に感じていいよ」

そう耳元で囁く。
視界を塞がれ全身が敏感に反応する。
身体中を這いまわるのが、汰久の指先だと分かっていても、それがまるで別のモノのように感じ、理性が失われていく。
その時、一度インターホンが鳴ったような気がした。

「‥ちょっと待っててね」

汰久はそう言うと、全身がピクピクと次の刺激を待っている状態の虎太郎を放置する。

「‥はぁ‥汰久‥‥早く‥」

目隠しをされ汰久を求める虎太郎は、だらしなく腰を揺らし汰久を呼ぶ。

「‥ごめん、なんかの勧誘‥待たせた?」

耳元で囁かれなきゃ、触れてなきゃ、どこに居るのか分からず、不安になる。

「‥手‥手を、外して‥」

懇願する虎太郎に、ふふっと笑い、良いよ‥と優しく結んでいた手を解放する。
その手はすぐに汰久の身体を引き寄せると、深く唇を奪う。
絡んだ舌から、唾液が零れ奥まで吸い尽くされる。

「‥虎太郎、今日は自分で入れてみて‥」

汰久は自分の身体の上に虎太郎を乗せ、自分の大きく立ち上がった雄を、虎太郎の手に握らせる。
あまりの大きさに、虎太郎はゴクンと喉が鳴り、これが自分に入る事を想像するだけで、ブルッと身震いする。
先程まで煽られ続けドロドロに熟れた部分に、ピタリと汰久のそれをあてると、触れるだけで、これから訪れる快楽を期待し、虎太郎から甘い吐息が漏れる。
そして体重をかけグイっと腰を下ろすと、内臓を押し開き進んでくる固く大きな肉棒が与えてくれる刺激を、淫乱な体が歓喜する。

「‥‥んふっ‥‥ああっ‥‥あああっ‥‥」
「‥っ‥ぁ‥虎太郎‥‥動いて‥」

汰久の言葉に、虎太郎はゆっくりと腰を上下に動かす。
深くまで入るそれは敏感な部分を擦り付けながら、最奥へと徐々に入り込み、淫乱な身体に電気が走る様に撓りを作る。
抗えない程の刺激が、一気に虎太郎を襲い、すぐに高みに届く。

「‥‥あああっ‥もう‥いく‥‥汰久…‥汰久‥」
「‥‥虎太郎‥目隠し‥取って‥」

余裕のない汰久の言葉に、虎太郎は言われた通りに手を伸ばし、目隠しを取った。
一瞬、部屋の明かりで目がくらむが、目の前にいる汰久の顔が笑顔になると、その唇に触れたくて顔を近づける。
その時、汰久の手が伸びてきて虎太郎の頬を両手で掴むと、グイっと虎太郎の顔を横に向けた。
虎太郎の瞳にそれが映った瞬間。

「‥お前の会いたかった人だろ?」

低く冷酷な汰久の声が虎太郎の耳に届く時、汰久が腰をズンと突き上げ、中に入っている雄々しいものが、虎太郎を高みへと引きずり込む。

「‥んぁ‥あああっ‥‥い‥いや‥‥」

――これは‥現実‥それとも‥。

虎太郎の思考は完全に停止し、絶頂を迎えた。
弾けるように身体が反り返り、虎太郎の陰茎から迸る液が汰久の身体に落ちると、虎太郎の中がグニャリと締め付け、汰久も同時に虎太郎の中に放ち達した。

「‥っ‥‥くっ‥」

汰久は、余韻も残さずズルリと虎太郎の中からそれを抜くと、意識なく崩れ落ちた虎太郎の身体を横たわせ布団で隠す。

「‥ずいぶんと悪趣味だな‥お前」

寝室の入り口から聞こえてきた声は、今にも殴りかかりそうな程の怒気を帯びていた。

「クックッ‥その言葉、そっくり返しますよ。来栖遥人」

ベッドから立ち上がる汰久は、脇に置いてあるガウンを身に着け、来栖の前に立ちはだかった。

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