愛に抗うまで

白樫 猫

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25話

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ここに来てからどれくらい経ったのだろうか‥ただ、分かるのは汰久が朝になると家を出て行き、夕方に戻ってくる。
その感覚はあるが、何日経ったのかはもう数えていなかった。
あんな姿を来栖に見られてから、自分は会社へ行くことを躊躇った。
そして虎太郎は自分の意志で、ここにずっといる。
いや、脅されているから‥なのか?‥本当は、自分も汰久の傍に居る事を望んでいるのではないか。
そんな気持ちが段々と込み上げてくる。
会社には暫く休みたいと連絡を入れたが、これから自分は元のように来栖と並んで働けるのだろうか。
そんな現実味のない事を考え、答えの出ない事に虎太郎は苦しんでいた。

「ただいま~」

玄関から汰久の声がして、虎太郎はソファからそちらを伺う。

「おかえり‥」

緊張状態の感情も長く続くはずもなく、いつしか汰久と普通に会話するようになっていた。
汰久が虎太郎の傍に寄ると、ソファ越しに後ろから抱き寄せ、虎太郎の頬にキスをする。

「‥今日は何してたの?」

汰久の言わんとしている事は分かっていた。
監視されているかは分からないが、汰久は虎太郎が外に出る事を嫌がっていた。

「‥なにも‥この前、お前が買ってきてくれた本を読んでた」

退屈しないように、汰久は虎太郎の為に本やゲームなど、望まなくても買い込んできた。

「そっか、じゃあ、俺が美味しい飯でも作ってやろう」

ジャケットを脱ぎながらキッチンへ向かう汰久の背を見て、虎太郎は立ち上がると後ろから汰久の背を抱き締めた。
汰久の身体がビクッと反応するが、すぐに振り向き虎太郎の身体を包み込む。

「どうしたの?‥寂しかった?」

自分の腕の中でコクンと頷いた虎太郎が愛おしくてたまらず、汰久は顔を寄せ唇を重ねる。

「‥っ‥‥汰久‥しよ‥」

うっとりとした瞳が汰久を誘っている。

「ふふっ‥いいよ」

僅かに開き赤く潤った虎太郎の唇を奪うように、今度は深く奥の方まで吸い尽くし激しく貪る。
身体が熱を放つのも待てないと、互いの服を脱がせ合い、何も考えてなくてすむように、快楽の闇へと深く沈み込んでいった。



気を失った虎太郎の身体を寝室へと運び、濡れたタオルで身体を清める。
最近は、自分との行為を強請ってくる虎太郎が愛おしくて堪らない。
何者にも代えがたい人。
自分のやっている事は、犯罪の一歩手前‥いや犯罪か。
理解はしていたが、人としての大切なモノを踏みつぶしてでも、この人だけは手放したくなかった。
汰久は、虎太郎の身体に布団を掛けると、リビングへ行きソファにドサッと座る。
ふと、携帯が光っているような気がして、手に取ると、父親の伊藤智久からの着信が残っており、その名を見てため息を付いた、
折り返したくはないが、最近、自分の我儘を聞いて貰っていたから、仕方がない。
素直に折り返すことにした。

「‥汰久です」
『‥ああ、まったくお前という奴は‥どこまで手が掛かるんだ!』

いきなり怒鳴り付けられた。

「なっ‥なんだよ。オヤジ。俺‥なんかした?」
『おかしいと思ったんだ。急に企画開発に移動したいと言った時から、お前、大島食品に何をした』
「あっ、いや‥大学の友人がそこに居たってだけだけど」

何故、虎太郎の会社の名前が出てくるのか分からず、慎重に言葉を選ぶ。

『嘘を付くな!すべて分かっている。これ以上、向こうを刺激するな!』
「どういう意味だよ」
『そう言う意味だ!お前が一番分かっているだろ?脅迫まがいの事までしおって!』

その言葉に、理解が追い付いてきた。
あの来栖が反撃してきたって事か?
自分の素性も調べ、会社に連絡してきたって事か?

「何の事かさっぱりわからないけど?」

とぼける汰久に伊藤智久が声を荒げた。

『とぼけるんじゃない!向こうは親会社の大島商事から俺に直接連絡があったんだぞ!すべての証拠と共にな!言い逃れは出来んぞ!」

父親の言葉に、汰久の思考が急加速する。

「大島商事‥?なんで‥そんなとこから。‥分かったよ、認めるから、迷惑かけて悪かった」

自分がどう動けばいいのか、虎太郎の為なら、誰だって利用してやるつもりだ。

『まぁ、相手はこれ以上何もしなければ、今までの事は水に流すと言ってくれている。だから、お前は大人しくしてるんだ。いいな!』

水に流す?おかしい、それだけならば、わざわざ父親を通さなくても、虎太郎はもう自分の手の中にあるというのに‥。どういうことだ。

「ほかには?何も言われてないの?」

汰久の言葉に、伊藤智久はグッと言葉を詰まらせる。

『‥お前は金輪際、大島食品と関わるなって事だ。だが、それだけで済んだ事をありがたく思え。お前のせいで大島商事に一つ借りが出来た』
「‥ふ~ん、分かった。オヤジ‥悪かった‥もうしないよ」

汰久の言葉に安心したのか、伊藤智久はもう一度念押ししてから電話を切った。

おかしい‥若奈虎太郎という新入社員一人の為に、親会社の大島商事が動いた?
しかも、大島食品の担当からは外れたが、ほぼお咎めなし。
どういう事だ?何を企んでいる?
不審に思いながら汰久は携帯を閉じようとしたとき、違和感を覚えた。
その違和感を拭えず、ジッと携帯を見ていると気が付いた。
いつもあるアプリのアイコンの場所が変わっている。
まるで誰かに携帯を弄られたような‥汰久は嫌な予感がして、写真のアイコンを開く。
中を確認して愕然とする。
そこにあったすべての写真と動画が、きれいさっぱりと消えていた。

「‥なっ‥なんで‥‥」

頭の中が追い付かないが、携帯の設定や他のアプリなどを調べても、影も形も残っていなかった。
汰久にとって大切なあの軽井沢の映像も、すべて消えていた。
慌てて汰久は持っているPCの電源を入れ起動する。
保存してあるデータを開くと、再びの衝撃を受ける。
バックアップしていたモノが、すべて消去されていた。

「‥クソッ!!」

やられた。
どうやったか分からないが、おそらくあいつの仕業だ。

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