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43話
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来栖が会社に戻ると、市原が席にいたので、誰にも聞かれないように小さな声で報告する。
転院する事と鶴木聡の事、すべて話し終えると、市原はニヤリと笑った。
「なるほどね‥鶴木聡ね。若奈は友人に恵まれたな‥」
すべてを見通しているかのような市原は、がっくりと肩を落としている来栖に向かってこう言った。
「まぁ、そいつの言う通り、後は待つしかないだろうな‥」
「‥はい」
納得はしてないが、虎太郎の為と、きっと前に進んでいるのだと信じたい気持ちで来栖は返事をした。
業務が終了し、仕事が終わった者から帰宅していくが、来栖はここ1週間で自分が溜めに溜めた仕事が何とかめどが付き、会社を出たのか21時を過ぎており、夜のオフィス街は人影が殆どなかった。
「何やってたんだかなぁ~昨日までの俺は‥」
そんな愚痴も出てくるようになり、来栖は駅に向かって歩き出した。
「来栖さん?」
会社から数メートル歩いたところで、背後から名を呼ばれたので振り返ると、目の前には伊藤汰久が立っていた。
普段着でラフな格好をしていたので、一瞬誰か分からなかったが、その整った顔立ちを見てすぐに分った。
「何の用ですか?」
そっけなく返事をする来栖に、汰久は手を伸ばせば触れられるくらい傍まで距離を詰めてきた。
「虎太郎を返してもらいたい‥」
異常な程の光を放っている瞳は、鋭く来栖を射抜いているようだったが、その言葉に、昼間の鶴木聡が言わんとしている事をすべて理解した。
こいつに知られたくなかったのか‥すべて一瞬で考え結論を出した。
「なんの事ですか?」
来栖の返答に納得がいかないのか、端正な顔立ちが歪み始める。
「とぼけないで下さい。分かってるんですよ」
身体全体で怒りを表しているが、言葉が丁寧であることが少し怖くもある。
「俺は知りません‥」
そう口にするや否や、汰久の手が伸び来栖の胸元を掴み上げる。
「俺の虎太郎を返せ!」
首が締まり苦しくなるが、来栖はその手を払うことなく言い放つ。
「若奈はお前のモノじゃない!」
「何を言っている!あいつは俺のモノだ!あいつも喜んで俺のモノになった!勘違いしているのはお前だ!!」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうな程怒りが含まれた汰久の言葉が、来栖の頭を冷静にさせる。
「若奈は、お前の玩具じゃない。ちゃんと感情もある人間なんだ。ちゃんと自分の道は自分で選べる。しっかりとした人間だ。お前が考えているような、可愛いだけのお人形さんじゃない!」
来栖の言葉が届かないのか、汰久の手がどんどんと来栖の首を締め上げていく。
「なっ‥なんで、後から来たくせに‥俺達の間に入ってくるんだ‥」
来栖は大きく息を吐き、汰久の手をグイっと握ると、内側に捻じりこみ捻り上げる。
「‥くっ‥‥ぁあ‥‥」
形勢逆転され、汰久は身体の後ろで腕を掴まれ、身動きが出来なくなる。
「いい加減にしろ!なに甘っちょろい考えしてんだ!強要する関係に先はない。お前も分かってるんだろ?あいつは馬鹿じゃない。ちゃんと必死で、お前の事も考えてるはずだ。お前はそれを正面から受け止めるしかないんだよ」
来栖はそう言うと、腕を離し汰久の身体を解放した。
拘束がいきなり解かれ、汰久はよろよろと数歩進むとペタンと座り込む。
肩を落とし蹲る姿が泣いているように見えたが、来栖はそのまま残し立ち去った。
どれくらい時間が経ったのか、外が薄暗くなってきた頃、病院の廊下にいた聡の携帯が鳴る。
姉からだった。
「聡、あんた、誰を敵に回したの?全く、それならそうと最初から言っておいてくれないと困るじゃない!だいたい、その子は誰なの?あんたの恋人?それなら、まぁ仕方ないけど‥お陰であちこちに借りを作ったわよ!」
電話を取った瞬間に、怒涛のように話し出す姉に聡は苦笑した。
「ごめん‥姉さん。あと、恋人じゃないよ。友達」
「あっそう、友達ね‥まったく、大変だったんだからね~今度、ちゃんとお礼をしてもらうわよ」
怒っていても、弟が可愛くて仕方がないのが言葉に溢れている。
「分かった。覚悟しとくよ‥姉さん。ありがとう‥助かった」
いつになく素直に礼を言うと、少し戸惑ったような声が返ってきた。
「ま、まぁ、分かったわよ。たまには顔くらい見せなさい。みんな貴方に会いたいのよ‥じゃあね」
返事も聞かず、急にそっけなく切られた。
相変わらずだったが、姉には感謝しかない。
聡は小さく笑ったが、すぐに真剣な表情に戻る。
姉の言葉を聞いて、気を引き締めなければと感じていた。
伊藤汰久が本気を出し、虎太郎を探しているのだと。
転院する事と鶴木聡の事、すべて話し終えると、市原はニヤリと笑った。
「なるほどね‥鶴木聡ね。若奈は友人に恵まれたな‥」
すべてを見通しているかのような市原は、がっくりと肩を落としている来栖に向かってこう言った。
「まぁ、そいつの言う通り、後は待つしかないだろうな‥」
「‥はい」
納得はしてないが、虎太郎の為と、きっと前に進んでいるのだと信じたい気持ちで来栖は返事をした。
業務が終了し、仕事が終わった者から帰宅していくが、来栖はここ1週間で自分が溜めに溜めた仕事が何とかめどが付き、会社を出たのか21時を過ぎており、夜のオフィス街は人影が殆どなかった。
「何やってたんだかなぁ~昨日までの俺は‥」
そんな愚痴も出てくるようになり、来栖は駅に向かって歩き出した。
「来栖さん?」
会社から数メートル歩いたところで、背後から名を呼ばれたので振り返ると、目の前には伊藤汰久が立っていた。
普段着でラフな格好をしていたので、一瞬誰か分からなかったが、その整った顔立ちを見てすぐに分った。
「何の用ですか?」
そっけなく返事をする来栖に、汰久は手を伸ばせば触れられるくらい傍まで距離を詰めてきた。
「虎太郎を返してもらいたい‥」
異常な程の光を放っている瞳は、鋭く来栖を射抜いているようだったが、その言葉に、昼間の鶴木聡が言わんとしている事をすべて理解した。
こいつに知られたくなかったのか‥すべて一瞬で考え結論を出した。
「なんの事ですか?」
来栖の返答に納得がいかないのか、端正な顔立ちが歪み始める。
「とぼけないで下さい。分かってるんですよ」
身体全体で怒りを表しているが、言葉が丁寧であることが少し怖くもある。
「俺は知りません‥」
そう口にするや否や、汰久の手が伸び来栖の胸元を掴み上げる。
「俺の虎太郎を返せ!」
首が締まり苦しくなるが、来栖はその手を払うことなく言い放つ。
「若奈はお前のモノじゃない!」
「何を言っている!あいつは俺のモノだ!あいつも喜んで俺のモノになった!勘違いしているのはお前だ!!」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうな程怒りが含まれた汰久の言葉が、来栖の頭を冷静にさせる。
「若奈は、お前の玩具じゃない。ちゃんと感情もある人間なんだ。ちゃんと自分の道は自分で選べる。しっかりとした人間だ。お前が考えているような、可愛いだけのお人形さんじゃない!」
来栖の言葉が届かないのか、汰久の手がどんどんと来栖の首を締め上げていく。
「なっ‥なんで、後から来たくせに‥俺達の間に入ってくるんだ‥」
来栖は大きく息を吐き、汰久の手をグイっと握ると、内側に捻じりこみ捻り上げる。
「‥くっ‥‥ぁあ‥‥」
形勢逆転され、汰久は身体の後ろで腕を掴まれ、身動きが出来なくなる。
「いい加減にしろ!なに甘っちょろい考えしてんだ!強要する関係に先はない。お前も分かってるんだろ?あいつは馬鹿じゃない。ちゃんと必死で、お前の事も考えてるはずだ。お前はそれを正面から受け止めるしかないんだよ」
来栖はそう言うと、腕を離し汰久の身体を解放した。
拘束がいきなり解かれ、汰久はよろよろと数歩進むとペタンと座り込む。
肩を落とし蹲る姿が泣いているように見えたが、来栖はそのまま残し立ち去った。
どれくらい時間が経ったのか、外が薄暗くなってきた頃、病院の廊下にいた聡の携帯が鳴る。
姉からだった。
「聡、あんた、誰を敵に回したの?全く、それならそうと最初から言っておいてくれないと困るじゃない!だいたい、その子は誰なの?あんたの恋人?それなら、まぁ仕方ないけど‥お陰であちこちに借りを作ったわよ!」
電話を取った瞬間に、怒涛のように話し出す姉に聡は苦笑した。
「ごめん‥姉さん。あと、恋人じゃないよ。友達」
「あっそう、友達ね‥まったく、大変だったんだからね~今度、ちゃんとお礼をしてもらうわよ」
怒っていても、弟が可愛くて仕方がないのが言葉に溢れている。
「分かった。覚悟しとくよ‥姉さん。ありがとう‥助かった」
いつになく素直に礼を言うと、少し戸惑ったような声が返ってきた。
「ま、まぁ、分かったわよ。たまには顔くらい見せなさい。みんな貴方に会いたいのよ‥じゃあね」
返事も聞かず、急にそっけなく切られた。
相変わらずだったが、姉には感謝しかない。
聡は小さく笑ったが、すぐに真剣な表情に戻る。
姉の言葉を聞いて、気を引き締めなければと感じていた。
伊藤汰久が本気を出し、虎太郎を探しているのだと。
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