愛に抗うまで

白樫 猫

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44話

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1週間が過ぎ、虎太郎は順調に回復し、体重もどんどん増えていた。
それでも、やつれた印象は消えないが、心も少しずつ癒えていると聡は感じていた。
検査の結果、急性胃腸炎と診断され、吐血も嘔吐のし過ぎで粘膜が傷付いた事による出血だとの事で、無事に退院のめどが付いた。
何より、この病院が汰久に見つかることなく退院できることが聡は嬉しかった。

「‥虎太郎。先生が退院しても良いって‥聞いたか?」

1週間、毎日面会に来てくれている聡にそう言われ、虎太郎が頷く。

「うん、聞いた」
「でさ、どうするお前、今、家ないじゃん」

あっさりと傷付く事言うな‥と虎太郎は思う。

「そうなんだよ‥」

前に住んできたところは、汰久に解約され10月いっぱいで引き払っていた。

「とりあえず、安いホテルに泊まって、その間に住む所探すよ」

ずっとホテルに泊まるなんて、そんな金銭的な余裕もないが、仕方がない。

「じゃあさ、住む所見つかるまで、俺のマンションに来ても良いよ」
「いや‥そこまでは悪いし‥」

正直、聡のマンションに住めるなら助かるけど、これ以上、世話になるのはどうも気が咎める。

「いいって、そんな気にするなよ。その方が、俺も都合がいいから。しばらく俺の監視付きって事で」

その言葉で、虎太郎は改めて思い出した。
自分は何ひとつ、まだ解決できていない。

「‥分かった。ごめんな、また迷惑かけて‥」
「気にするな。あと少し、がんばろうぜ!」

虎太郎が何を考えているのかすぐに分る。
何も解決してない事、それを乗り越えなくては先には進めない事。


退院は次の日に行われた。
医者からはストレスを溜めないようにと念押しをされた。
聡のマンションは、元の虎太郎のマンションとさほど離れてはいなかった。

「ようこそ、我が家へ!」

ふざけた聡はそう言って、虎太郎を部屋に招き入れた。
玄関入ってすぐに広い空間があり、脇にはシューズクローク、そして広い空間を抜けると、ドアがいくつもあるが、聡はトイレと風呂の場所を教えてくれる。
奥にリビングダイニングがあり、壁一面が窓で開放感が半端なく、ソファも一般家庭のそれと全く違う大きさのもので、部屋全体が高級感があり過ぎて足が竦んでしまう。

「お‥お前んち‥本当にお金持ちなんだな‥‥」

何気なく言った言葉に、聡は大爆笑する。

「ハハハッ‥‥そんな感想初めて聞いたよ‥クスクスッ‥まぁ、俺の金じゃないけどな‥でも、いつかここに見合う人間になるよ‥」

いつもの聡の口癖だ。
金持ちの家に生まれてきたのに、偉ぶった事もなく、自分の金じゃないと言う。
極めつけは、のちは自分を成長させ、それを自分のモノにすると宣言する。
そして、宣言通りの努力をしているのは、大学時代から見ている虎太郎は知っている。

「僕は知ってるよ。お前が人一倍努力をしてるって事。だから絶対になるよ、お前が望んでいる人間に‥」

思わず口に出てしまった言葉に、自分の方が驚いた。

「‥‥うん。ありがとう‥」

微笑んだ聡は、少し照れているように見えた。

「じゃあ、早速だが、これからの計画をしっかり立てようぜ」

聡はそう言うと、虎太郎をソファに座らせた。

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