愛に抗うまで

白樫 猫

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49話

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虎太郎が職場に復帰して1ヶ月が経とうとしていた。
すでに新しいマンションを見つけ、聡の部屋からの引っ越しも済んでおり、虎太郎の毎日の生活は安定していた。
仕事も順調に進んでおり、忙しく働いてもいた。

「若奈、受付に荷物が届いてるってさ」

内線の電話を受けた同僚からそう伝えられ、虎太郎は返事をすると、1階の受付へ出向いていく。
何か届く予定もなかったが、なんだろうと首を傾げ受付に声を掛けると、段ボールが一つ届いていた。
配送伝票をみて、虎太郎の息が一瞬止まった。
差出人の名前が『伊藤汰久』になっていたから。
虎太郎の新しい住所は知らない筈なので、ここに送ってきたのだろうか‥あれだけ決心をしたのに、中を開けるのが少しだけ怖かった。
そのまま段ボールを抱え、オフィスの隣にある会議室へと入る。
どうしても思い出される不安が、虎太郎の手を震えさせ、それでもゆっくりと段ボールを開けると、一番上に手紙が乗っていた。
封筒には『虎太郎へ』と書かれていた。
震える指でゆっくりと封を開け、中の手紙を取り出し広げて読み始める。

『虎太郎へ
お前は、俺を憎んでいるだろうな。俺は、お前と出会ってからずっとお前だけを見てきた。お前が誰かに微笑んだり、誰かと一緒にいたりするだけで、胸が苦しくなり許せなかった。今考えると、あの時の俺は狂っていた。頭の中では分かってたんだ、それがお前を傷付ける事だと、それでも俺は自分を止める事が出来なかった。今、お前を失ったのは、すべて自分のせいだと、お前を好きになってしまった自分が悪いのだと、そう思うようにした。だけど‥無理だ。俺にとって、お前と過ごした日々は、かけがえのない宝物だったから。だから、虎太郎‥あの楽しかった思い出だけは忘れないで‥友人として一緒に過ごした時間だけは‥どうか、思い出として残しておいて欲しい。今まで苦しめて、ごめんな。もう‥会う事はないけど、出会ってくれて、ありがとう。 汰久 』

読み終えると、虎太郎はその場に泣き崩れてしまった。
苦しい‥汰久の行いを許すことは出来ないけど、自分は、その気持ちに答えてあげられなかったけど、あの時、一緒に歩いたキャンパスには沢山の思い出が詰まっている。
だから忘れないよ‥汰久。
ごめんね。
こんな自分を好きになってくれて、ありがとう。

手紙を握り締めた手が小刻みに震え、溢れる涙が止まらない。
長い時間が経ち、ようやく涙が止まった時、握り締めた手紙が涙と汗でグチャグチャになっていた。
虎太郎は立ち上がると、段ボールの中を確認する。
中には、虎太郎が汰久のマンションに置いていた物が入っていた。
置きっぱなしだったパスポートや、他の書類に、よく着ていた服と、そして一番下に、あの時の来栖のアウターが入っていた。
あの時、ゴミ箱から回収して収納にしまっておいた物だ、本当だったら、捨てられても仕方がないのに、わざわざ送ってくれた事に、汰久の心の中の優しさが見えた気がした。

「‥汰久‥ごめんな‥ありがとう‥」

小さく呟いた言葉と一緒に笑いあったあの時の思い出が、汰久に届くようにと願った。

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